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無菌室の王と泥の道化師

視界が戻った時、最初に感じたのは「寒さ」だった。

肌を刺すような冷気と、どこか薬品めいたオゾンの匂い。


そこは、巨大なドーム状のホールだった。 床も壁も天井も、すべてが継ぎ目のない白亜の大理石。

高い天井には、本物の太陽の代わりに、巨大なクリスタルのシャンデリアがぶら下がっている。

あまりにも完璧すぎて、まるで巨大な「病院の手術室」のようだった。


「――召喚成功。ようこそ、救済の英雄たちよ」


玉座に座る初老の男――聖王レグルスが、感情の読めない瞳で見下ろしていた。

その周囲を、顔全体を兜で覆った騎士たちが、彫像のように取り囲んでいる。


クラスメイト30人は、広大な床にへたり込んでいた。

パニックで泣き出す渋谷ミカ、状況が飲み込めず震える佐藤カズキ。

担任の松本先生が「ここはどこですか! 生徒たちを帰してください!」と叫びながら騎士に詰め寄るが、王は冷ややかな目で指を鳴らした。


「黙らせろ」


ドスッ、という鈍く、重い音。 騎士の槍の柄が先生の腹に深く突き刺さり、

松本先生がゴミのように吹き飛ばされた。


「がはっ……!」


先生が床に転がり、痙攣する。 その光景に、全員の悲鳴が喉で凍りついた。


「騒ぐでない。貴様らは選ばれたのだ。

……さあ、『星刻の儀』を行う、水晶に手を触れよ」


有無を言わせぬ圧力。 怯えながら一人ずつ、祭壇の水晶に手をかざしていく。

水晶が青く光るたびに、空中に青白いウィンドウ――ステータス画面が表示される。


「おお……! 『重戦士タンク』に『賢者』か! 豊作だ!」

「こっちは『聖騎士』だぞ! 素晴らしい!」


神官たちが興奮した声を上げる。 タケシ、トオル、レイカ……クラスの連中には次々と強力な「ジョブ」と「スキル」が与えられていた。 そして、カイトの番が来る。


水晶に手を触れた瞬間、黄金の光がホール全体を包み込んだ。 それは人工的な照明とは違う、温かく、圧倒的な「主人公の輝き」だった。


【個体名:天王寺カイト】 【ジョブ:光の勇者 (SSR)】 【初期レベル:10】


「ゆ、勇者だ……! 伝説の『光の勇者』が現れたぞ!!」


ホールが歓声に揺れる。カイトは戸惑いながらも、不安がる女子たちを守るように前に立った。

そして、最後。俺の番だ。 (俺も……カイトの隣で戦えるような、何かに……)


祈るような気持ちで、水晶に触れる。


――ブツン。


光は灯らなかった。 代わりに、黒いノイズ混じりの霧が、ボソリと文字を浮かび上がらせる。


【個体名:藤丸レン】 【ジョブ:道化師 (Clown)】 【初期レベル:1】 【スキル:お手玉、軽口】


静まり返るホール。 神官の一人が、汚いものを見るような目で告げた。


「……ハズレです、陛下。戦闘能力皆無。ただの『道化師』です」 「なっ……」


血の気が引いていく。 王レグルスは、興味を失ったように手を振った。


「勇者カイトよ。その『道化師』は貴様の知り合いか?」

「は、はい! 俺の親友です! 一緒に戦います!」

「ならん。そんな不純物が混ざれば、勇者の輝き(成長)が濁る。

…この世界に必要なのは英雄と資源のみ。ゴミに割く席はない」

「廃棄処分だ」


衛兵が俺の腕を掴む。 カイトが叫び、地面に額をこすりつけた。


「お願いします! レンは俺の親友なんです! ……少しだけでいいからチャンスをください!

こいつも絶対、何かの役に立ちますから!」


SSRの勇者が頭を下げたことで、場は凍りついた。

国王は不愉快そうに眉をひそめたが、勇者の機嫌を損ねるのを避けるため、渋々頷いた。


「……良かろう。英雄の慈悲に免じて、30日間の猶予を与える。だが、その期間で『有用性』を

 示せなければ、その時はシステムに従い処分する」


こうして、俺の首の皮は一枚繋がった。 だが、それは緩やかな地獄の始まりに過ぎなかった。

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