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賞与ゼロの万年事務員、異世界ボーナス無双  作者: 海月 恒


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2/2

第2話 初ボーナス、獲得?


「全部で560マニーになります。袋はつけますか?」

「そのままでいいよ。ナオちゃん今日も頑張るね」

「ええ! 少しでも役に立ちたいので!」

「また来るよ」

「ありがとうございました!」

笑顔で礼をした。


柔らかなそよ風と鳥の囀りが心地よい午前9時の街道は、今日も賑わう。


あれから私はサカさんに頼み込んで、彼の商店で働く事になった。

毎日少しずつ業務を覚えていった。

事務仕事で得た知識を元に、もっと経理が効率よくなるように仕事をまとめたら、すごく褒めてくれた。

村の人たちにも徐々に覚えてもらった。

カンの野郎はたまに来ては煽って帰るけど、愛想よくしてる。

そしていつか殺す。



そんなこんなで2週間くらいがたった。

なんだかんだ過ごせてるのは、サカさんのおかげ。

元の世界に帰らなきゃって思いはあるけど、思ったより居心地がよくて。


前は仕事して、家帰って、サブスク見て、友達のSNSみて、僻んで―― みたいな。

でもここは携帯もないし、テレビもない。

電灯もないから夜はすっごい暗いけど、その分星が綺麗で。

星が集まって本当に川に見えるの。

壮大で大き過ぎてちょっと怖いけど、感動的。


朝日も大きくて、朝は皆んな外に出て背伸びしてた。

みんな寝起きでゾンビの群れが起き上がったみたいでちょっと奇妙だったけど。



充実。してるのかな、私。

ほんとに何もないのに。いい車とか家とかブランドとか、まぁもともと興味ないけど。

満たされる何かを、感じてる。


嫌なやつはいる。カンとか。主にカンとか。

それでも、元の世界では感じたことのないものがある。


生きてるって、はじめてちゃんと感じる。



「よし一区切りついたね。一旦休憩いこうか。ナオちゃん」

「はーい」


午後休憩。手作りサンドイッチとコーヒー。

レタスが水々しくて、食感がたまらない。

コーヒーは苦手だったけど、ここにきて初めて美味しいって思った。

もちろんブラックは無理だからミルクは入れてるけど。


大きな口にサンドウィッチを放り込んだサカが口を開いた。

「ナオちゃんもそろそろ家探さなきゃなぁ」

「え?」

「若い女が独身の男の家にずっといるのもねぇ」

「そ、そうですよね。すいません。こんなに長くいると思ってなかったもので......」

「いや、俺はいいんだけどさ、ナオちゃんも将来のこと考えなきゃいけないだろう?」

「将来......」


ここで、未来を考えて良いものか。

だってここは、私の、本当の......


そのとき、街道が急にざわめき始めた。


遠くの方に重い鎧を着た兵士がぞろぞろと並んでいるのが見える。


なにやら話してるみたいで内容はわからない。


「なにがあったんだ?」

通り過ぎる村人にサカが聞く。

「なんでも緊急魔物注意報ってよ。あと数分で魔物の群れが到着するから、家に引っ込むか。男手は武器になるもんもって前線にいけってよ」


「まじか久しぶりだな。でもまぁ前もあったけど、いつも首都の衛兵たちが倒してくれるから俺たちは後衛で数にいるってだけだけどね。ナオちゃんは家にいな。」

「えー。それなら私も魔物見てみたいなぁ」

「うーん、じゃあまぁこれ着て隠れてなよ?」


街道を出ていくと原っぱにも大勢が集まっている。

ブカブカのチェーンメイルと兜を付けてサカの隣に立った。武器はその辺に落ちていた木の枝。


「ほらきた。あれがゴブリン」

「おお」

走ってきた3匹のゴブリンをすかさず衛兵が囲んで1匹ずつ槍で刺していく。

「なんだ今回も楽勝に終わるな」

そう村人の声が聞こえた時、尋常でない地響きと、同時に大気が揺れた。

土煙の中から、羽の生えたライオンと胴体からヤギの頭と尻尾がヘビの巨大な怪物がこちらを睨んでいる。


「キ、キメラだ。嘘だろ......」

「上級ランクの魔物がなんでこんな田舎に......」

「に、逃げろおおおお!」


村人と衛兵は一斉に四方八方へ逃げ出した。

その騒動で兜が顔にずれて前が見えなくなった奈緒は、人混みの混雑にぶつかり倒れ込むと、何人もの人に踏みつけられていく。


「ナオちゃん、さぁ立って! いくぞ!」

サカは奈緒の手を引いて起こすと、共に走り出した。

キメラは巨大な前足を動かすと、暴風を起こし暴力的な突風を飛ばしてくる。

屋台や出店は激しくガタガタと音を立て、屋根や壁が壊れ、上空へ飛んで行った。

凶悪な唸り声をだしたキメラは、風で倒れ込んだ村人の数名に噛みついて砕いた。

あまりに酷く、恐ろしくて、奈緒は言葉一つ発せなかった。

また暴風がくると前を走っていたサカに直撃し、真横に吹っ飛んでいった。


あぁ、助けないと!


サカを追いかけようとしたとき、足が誰かの足に引っかかって転んだ。

「てめぇは餌にでもなってろ!」

足をわざと引っ掛け、そう言い放って走り去ったのは、カンだった。


絶望が、怒りに変わったのを実感した。


「てめぇまじぶっ殺......」


急に目の前が真っ白になった。

さっきまで騒がしかった世界が一瞬にして無音になる。


キメラの放った魔光線は、大勢の村人と、奈緒、サカをしっかり捉えていた。



地面が抉れ、曇天は割れる。



肉体の原型なく、奈緒はその場から消えた。








          「っろす!」



と自身の声が響いた。

ただただ真っ白。

前も後ろも前後も上下もわからないような空間だった。


「し、死んだ。確実に。ここはきっとファンタジーでいう狭間ね......」



音がない。

風もない。

見えてるようで何も見えてない。

おかしくなりそうな、虚無の空間。


どうしていいかわからず、奈緒はとりあえずその場に座り込んだ。

図らずも期待した新しい人生の予感は、一瞬にして虚しく消えた。



新しい人生。


新しい出会いと、仕事。


私がなし得なかった、羨ましく思うような別の人生。



「っふ。あーあ。そんなわけないか」

少し吹き出して笑った。


都合がいいよね。


“相応の人生”


私の価値に見合うそこそこの人生。

それを選んだのは私。


だって、行動しなかったのは私。


変わろうと、努力できなかったから。


環境だけ変わったから。職場が変わったからいいなんて。



そんなわけない。



        『ボーナスステージ!』

煌びやかな音楽と共に、機械的なアナウンスが流れる。

『ここはボーナスステージ! ミニゲームをクリアしてボーナスを獲得しよう! 失敗すると?......ジジ、ジー』

ノイズが走って聞き取れなかった。



目の前に赤い箱が宙に浮いた。

その箱は分裂して無数に空間に散らばった。


『制限時間内に全ての箱を壊してね。時間は5分』



サカさんからの給料。本当に嬉しかったな。



あんなに重いお金、もらったことなかった。



『準備はいいかい?』



          もっと、欲しい



サカの笑顔が浮かんだ。




         ボーナス、欲しい


社員の楽しそうな姿を思い出す。


『よーい、』


    だったら、それに見合った努力、その価値を、


『ドン!!』



          証明しなきゃ








時は遡る。

吹き飛ばされたサカが後ろを向くと、キメラは何やら力を溜め込んでいた。空気中や積乱雲から雷などのエネルギーがキメラの口元に集約していく。


「ナオちゃーーん! 避けろー!」




別空間での奈緒は激しく息を切らしていた。

吐息が気管支に当たりゼェゼェと音を立てる。

前髪が降りて顔は見えない。


『チャレンジクリア! おめでとう! ボーナス獲得ぅー!』


お金の音と共に奈緒の頭の上に数字が降りてくる。


『獲得ボーナス! 100万経験値! レベルアップ! ポイントの振り分けを選んでね!』


プロジェクターのように宙に画面が浮かんだ。


酸欠で途絶えそうな意識の中、直感で振り分けていった。

体力、総合攻撃力、総合防御力、俊敏性、持久力、幸運、魅力......





「ナオちゃああああん!! 逃げてええええ!」

サカは叫び続けていた。

キメラのエネルギーはすでに最大まで溜まっていた。




『振り分け完了! 次のボーナスは1週間後だよ! またね!』





テレビが切れるように真っ暗になった。


そしてまた明るくなり、気がつくと、目の前に現れたキメラは強大な魔光線を放った。



「あ、え?」



奈緒に直撃したはずの魔光線は、彼女に触れた瞬間、激流のように左右へ弾け飛んだ。


空を割るように放たれた光線が細くなっていって終わると、奈緒は、煙を立ててそこに立っていた。

何が起こったのか分からず数秒そのままだったが、違和感に気づく。


光線で髪の毛が燃えてショートカットになっていた。


「は? 髪燃えたんですが!?」


「ナ、ナオちゃん! 大丈夫!?」

サカが駆け寄ってくる。

「なんで無事なんだ!? 髪が大変だ! あ、あれナオちゃんだよな? なんか痩せた? なんか顔つきが違うような。身長も伸びた?」



一瞬の出来事すぎてよくわからなかった。



あの白い空間も、何もかも。



ただ、今の私には――



私の髪を燃やしたあの野良猫に、なんの恐怖も感じなかった。

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