マヤ
「お腹すいた。」
人々に囲まれ、お腹をグーグーと鳴らす少女。ご飯を貰えなかったのでしょうか。痩せ細っていて、息が荒いです。
「出ていけ!薄汚いガキが!」
夜中に行われた宴は一瞬にして終わりました。侵入者がいたのです。少女の姿をした侵入者は食べ物を要求しました。ですが、誰一人として彼女に食べ物をあげる者は現れませんでした。人々は少女を必死にムラから追い出そうとします。
昔、このムラは大きな過ちを犯しました。それ以来、神に反逆する者、神を嫌う者を罰するために生贄の儀式に力を注いだのです。自分自身は悪くないのだとずっと怯えながら暮らしてきたのです。
その頃カヒヤは自分の部屋で魂が抜けたような状態で座っておりました。ぼーっと上の方を眺めながら、後悔を口にしました。
「やっぱ、やめたほうがよかったかな…。」
「ん〜、でもそんなこと言ったら首長に激怒されてただろうし。」
「あの状況じゃ、誰も口出しできないもんな〜。」
色々言葉を並べているカヒヤですが、何の話をしているかというと隣のムラを支配するための会議での後悔のようです。あの会議では参加者が多い割に淡々と揉めることもなく終わってしまったのです。
カヒヤは何か意見があったようなのですが、場の雰囲気に流され言えずじまいでした。その後悔はしてもしきれないので、気持ちを切り替えることといたしました。
外に出ると首長の帰りを喜ぶ宴が盛り上がっているはずでした。ですが、静まり返っていて、何やら怒鳴り声が聞こえます。
「出ていけ!薄汚いガキが!」
何事かと思い、反射的に走り出しました。人を掻き分けて最前列に辿り着き、騒ぎの原因を確かめます。
そこには侵入者と思わしき少女がおりまして、少し彼女に心当たりがありました。
「ちょっと!子供に飯をやらない大人がどこにいるんだよ!」
また、本音を口にしてしまうカヒヤでしたが、今回ばかりはこの騒動を静めるひと言になったようです。
「カヒヤ様がそう言うなら…。」
また、カヒヤが言うからそうしようという流れになってしまいました。
ようやくその少女にご飯を与えられると思い、カヒヤは彼女に目を向けます。髪は艶のある黒髪で肩のところでばっさりと切られて頭に赤色の麻の布をぐるりと巻いています。彼女と目を合わせたとき、真っ黒な瞳に心を奪われました。黒耀石のように硬く輝きのある大きな瞳で、決してその奥を見ることが許されないようにも思えます。彼女を見てふと、真っ白な雪が思い出されました。
「じゃあ、今日はここにいたらいいよ。」
「大丈夫です。」
せっかく優しくしてあげたのに断られてしまいます。カヒヤにとってこんなことは初めてだったようで、返す言葉もありません。ゆっくりとムラを出ていこうする少女を見ていられませんでした。
「君、名前…何ていうんだ?」
「名前?マヤです。」
細々とした小さな子供の声に乗って言葉が返ってきました。自然と笑顔になったカヒヤを横目に、ムラの人々は声をあげます。
「せっかくカヒヤ様が泊まっていいと言ってくれたのだぞ!」
「そうだ!それを断ったならお前は他人だ!さっさと出ていって、神に裁きを受けるんだな!」
罵声を浴びたマヤはしばらく立ち止まっていました。そしてゆっくりと振り返ったとき、あの美しかった純黒の瞳はどす黒く濁っておりました。
「そうゆうこと言うんだ。じゃあ、私があなたたちを裁きにかける。呪ってあげるよ。」
そのマヤの表情というものは笑ってはいたものの、その奥で真っ黒な何かを見たようでした。そして、初めて笑顔を見せた彼女の目は全く笑っておりませんでした。




