変革のとき
時を少し遡りまして、ほんの数日前のこと。ある東北地方の辺境のムラは、今までに例を見ない不作の年でございました。動物も滅多に現れず狩ることもできなくて、木の実も育たず、稲もカラカラでありました。これを死活問題といわず、何というのでしょうか。
今日の晩飯はアワと肉のないスープでございました。いつもであれば肉は必ずといっていいほど大量に入っているのですが、今回はその肉の陰すらありません。一人分ずつきちんと分けて配っていたのですが、おかわりもないとなるとだいぶ苦しいです。
「もう、ないのかよ肉!」
「我慢しろ。今、首長とカヒヤ様が解決策を探っているから。」
「それなら、待つしかないな。あ~あ、腹減ったなぁ。」
肉がないということはたらふく食った感がないということです。腹持ちは決して良いとは言えないでしょう。ですが、彼らは誰一人として騒ぎ立てる者はおりませんでした。カヒヤ様でさえ我慢しているから我々も我慢するべきである。といった考えがムラ中に広まったからです。
ですがそれでも食材の量としては毎日食っていけるかいけないかギリギリの状態でございました。冬は神が人間に試練を与えます。一歩間違えれば全てが水の泡になってしまうような綱渡りの生活をこの時代の人々は乗り越えてゆくのです。
このムラのいわゆるリーダーである首長は今日の会議の中で、近くのムラに商談を持ちかけようという提案をしました。この会議は食料確保のための会議でして、いつも以上に参加者がおりました。
首長が最も信頼を置いているカヒヤやその他の参加者でさえ、彼の意見に反対する者はおりませんでした。というよりも、意見を言えずにいるような雰囲気です。皆、静かに黙りこくって、早く終われと願っているようでした。
「では、この手順で行うぞ。良いな。」
首長の声掛けにより、自然と会議は終了いたしました。
その夜、カヒヤは久しぶりに散歩に出かけました。むしゃくしゃしたときにはこうして、夜のムラを歩き回るのです。静まり返ったこの雰囲気が好きなようです。空気を思いっ切り吸い込み数秒待ってから吐き出しました。透き通った空気はとても気持ちがよく、不思議と気分も晴れました。
「まさか、あの人がこんな手段をとるなんて、意外だ。」
星空を眺めると、あの雪の恐ろしさを忘れられます。いつもなら穏やかな首長も今回ばかりは苛立っているようで、あの手段を取ることにしたのでしょう。
カヒヤ自身、反対したわけではありませんが、完全に賛成したわけでもないのです。ただ、相手がどう思うかが心配なだけです。
「あぁ、さぶっ。」
そろそろ寒くなってきたので、カヒヤは家に戻りました。家の中には火がたかれており、とても温かいです。部屋の隅にあった大きな布に包まって、鼻水をすすります。今年の冬は特に厳しいのですよ。と、言いたげなカヒヤでございますが、言う相手もいないので仕方ありません。今日はそのまま寝落ちをしてしまいました。
日の光が窓から降り注いでおります。その光がゆっくりとカヒヤを照らしてゆきます。瞼を閉じていても光が眩しかったのか、手で光を払いのけました。ゆっくりと起き上がり、朝日をめいいっぱいに浴びようと外に出ると目の前に首長が立っておりました。
「うお~!びっく、りした…。」
「お前はここに残って何があっても動けるようにしておけ。」
そう言ってカヒヤを置いて首長と他数人が隣のムラに商談に向かいました。稲を少しばかり貰いにゆくのです。
その数日後、カヒヤの下にある一報が届きました。商談に行ったはずの隣ムラを支配下に置いたとの報告でした。




