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黒い雪  作者: 天野 光
1/6

白と黒

雪に関するお話です。少しずつ書いていくつもりなので、のんびりと、という感じで読んでいただけると嬉しいです。

 この日は、冷たくも暖かい雪が深々と降っておりました。大雪でもなく、みぞれでもありません。雪が降る日には神様が人間に試練を与えます。そのような言い伝えがあるため、人々は冬になる前に試練への備えを整えておかなければいけないのです。

 森には雪が積もるがごとく、不思議がたくさん積もっております。その不思議は神秘的な一面も持ち合わせていて、人々を飲み込んでゆくのです。

 あるムラは不思議なことに全く人影がありません。ですが、部屋を一つ覗いてみると、子供が二人と大人が一人おりました。二人のうち一人はすでに布団の中で寝息を立てていて気持ちよさそうです。もう一人は雪が気になるようで中々寝付けません。

「この森には、神様が住んでいるのよ。」

 指を口に当て子供に言い聞かせている母親は早く寝させようと必死です。

 雷が鳴っている時にへそを出してはいけない。雪が降っている時に山に入ると帰り道が分からなくなる。

 そのような言い伝えを並べて、早く寝ない子は神様にお仕置きをされてしまうと脅かしたりしました。

 今日は雪が降っておりました。なので、今日は外に出ずに早く寝なさい。もう一度そう言うと、ようやく寝る気になったようで、子供は布団に潜り込みます。イモムシのように包まって、顔だけひょっこりとこちらに向けます。

「今日は、一緒に寝てくれる?」

 子供は本当に素直で、すぐに汚れてしまいそうなほど純粋です。母親は子供の額に唇をつけます。

「おやすみ、マヤ。」

「おやすみなさい。」

 母親はしばらく、娘のそばにおりました。ですが、寝たのを確認したらその場を離れてゆきました。

 神の森と呼ばれ、神のものとされる墓がある森には人間の立ち入りはほどんどありません。あるとすれば、神のご機嫌取りで行われる生贄の儀式くらいでしょう。


 少しだけ雪が弱まってきたとき、少し辺りが明るくなってきたとき、しんと静まったムラの中の一つの家から少女が一人で出てきました。その少女は裸足のまま布を頭に被って小走りでムラの外に出て行ってしまいました。足裏が凍てついた寒さで赤くかじかんでおります。ムラのすぐ近くには神の住まう森がありまして、そこに吸い込まれるように入ってゆきました。

 森の中には霧が立ち込めており、周りを見渡すことすら困難な状況です。ですが、道が分かっているのか、少女は構わずに進んでゆきます。すると、小さな墓らしきものを見つけました。この墓を見つけた時、初めて笑みがこぼれました。この森には似合わぬ笑みを、何かたくらみを含んだ笑みをしておりました。彼女は膝を土につけ、地面に座り込み掌をぎゅっと握りしめます。

「どうか、妹をお助けください。その願いが叶うならば、わたしはなんでも致します。」

 涙を流しているというのに、彼女はどこか嬉しそうです。墓にお願い事をして、その場を去ってゆきました。その頃にはもう、あの激しかった雪は止んでおりました。

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