ワクとキラキラぐも
ワクはちいさなむらにすんでいました。
その村は、なにやらキラキラと光るくもようなものにつつまれていて、そのさきになにがあるのかだれもしりません。
ワクはまいにちのようにおとなにききました。
「ねぇ、このさきにはなにがあるのですか? このキラキラはなんなのですか?」
「またそのしつもんかい? わからないとなんども言っているだろう。だれもかえってきたことがないのだから」
おとなはあきれた顔をして言いました。
「なぜだれも行こうとしないのですか?」
「それはあぶないからにきまっているだろう。」
「なにがあぶないのですか? 」
「もううるさい。とにかくいかないほうがいいんだ」
おとなは、そう言うとどこかへ去っていきました。
ワクはこうきしんおうせいで、気になることにはどんどんつきすすんでいくせいかくでした。そのためか、ともだちは少なく、いつも一人ぼっちでした。でもワクはそんなこと気にしたことがありません。
ある日ワクは、小石をたくさんあつめてきました。ワクはそれをならべて道しるべにするさくせんをたてました。
「今日こそ、ぼくはこのキラキラの向こうがわに行くんだ」
キラキラにいっぽふみだしこいしをじめんにおくと、それを見ていたおじいさんが声をかけました。
「ワク、それではあぶないよ」
「どうしてですか?」
「風ですながとんできて石にかぶさってうまってしまう。かえり道がわからなくなるよ」
「なるほど」
おじいさんは、ちかくにあった木にもたれかかると、そのばにすわりました。
「おしえてくれてありがとうございます。おじいさんはこのさきに行ったことがありますか?」
「ないよ。でも、とちゅうまでは行ったことがある」
「すごい。どんなところでしたか?」
「とてもさみしいところだった」
「なぜさいごまでいかなかったのですか?」
「たりなかったのだ」
おじいさんはそう言って、ほそい木のかわをいくつもむすんだヒモを見せました。
「きみにあげるよ。でもまだ足りないからしっかりとじゅんびしてから行きなさい」
「わかりました」
それからワクは、来る日も来る日も、木のかわをあつめるとほそくさいて、ヒモをつくりつづけました。
ヒモがワクの体をおおいつくすくらいの量になったとき、ワクはキラキラぐもに入ることをきめました。
そしてその日はすぐにきます。
「今日こそいくんだ」
ワクはヒモをたらしてすすもうとしたとき、またおじいさんが声をかけました。
「ほら、ヒモはどこかにむすんでおかないとダメじゃないか。わしがむすんでおくよ」
「ありがとうございます」
ワクは目をかがやかせて言いました。
「ワク、きみはどうしてそこまでキラキラの向こうにいきたいんだい?」
おじいさんは聞きました。
「ぼくは、ただしりたいのです。道が目のまえあるのにいかないなんて。ぼくはなにもせずにじっとしていられないのです」
「それがもうもどってこられない道だとしてもかい?」
「え? だからヒモがあるじゃないですか」
「ヒモがあるから、かならずかえってこられるわけじゃないよ。なにがあるか、わからないからこわい。だからみんないかないんだよ」
ワクはだんまりして、なにもいいかえせませんでした。
「それでも、いきたいんだね?」
おじいさんはやさしくいいました。
「はい」
「そうか。ならこれをもっていきなさい」
おじいさんはそういうと、手づくりの小さな木の笛をくれました。
「まよったり、どうしてていいかわからなくなったとき、これを吹きなさい。それがきこえたら、ワシも吹いてかえそう」
「ありがとうございます。おじいさんやさしいですね」
「どうだろうな」
ワクはおじいさんにせなかを向けてすすみはじめました。
「ワク、もし向こうでなにかを見つけたら、ぜったいにもどってきてはいけないよ。さいごまで、すすみなさい」
「わかりました。やくそくします」
ワクはヒモをたらしながら、キラキラぐもの中にきえていきました。
それからワクは、まっしろなキラキラのなかをあるきつづけました。
じかんもわからず、むきもわからなくなりましたが、ふりかえらずに、まっすぐにあるきつづけました。
あるいても、あるいても、なにもみえません。
まっしろで、キラキラなけしきのままでした。
ワクはだんだんと怖くなりました。
でも、ひもはまだあります。これがなくならないかぎり、また戻れるはずだと、すすみつづけました。
そして、キラキラはだんだんとうすくなってきました。
すなだったみちが、かたいいしにかわりました。
そしてついに、キラキラくもをぬけました。
そらはあの村とおなじいろでした。
しかしそこにはワクにはみたこともないたてものや、いきものがたくさんいました。
たいようにとどくほどのたかいいえ。
かぜのようにはやいはこ。
あみのようにそらをわたるひも。
そしてひとびとが、カラフルなふくをきて、せっさかせっさかとあるいています。
「すごい! みつけた! きらきらのむこうにはまたせかいがあった!」
ワクはうれしくてたまりませんでした。
「あのおじいさんにつたえたなきゃ」
ワクはひもをひっぱって、むらにもどろうとおもいました。ですが、どれだけヒモをひっぱっても、ヒモにはていこうがありません。
「あれれ、おかしいな」
そのままヒモをまきつづけると、やがてひものはしがでてきました。
「おじいさん、ヒモをむすんでくれなかったのかな」
かえりみちはもうわからなくなりました。
ヒモをかたにかけたまま、かたいみちをあるいていきました。
ワクはかんがえました。
「ずっといきたかったキラキラのむこうがわにきたのに、なぜかかなしい。どうしてだろう」
ワクはきづきました。
「ボクはおじいさんにみせたかった。いやみんなにみせたかったんだ。キラキラのむこうにせかいがあったって」
ワクはさみしくなりました。
ポツリポツリとなみだがじめんにおちていきます。
「もどってみようかな」
おじいさんのことばをおもいだします。
ーもどってはいけないよー
ワクはなきました。
はじめて、ひとりがこわくなったのです。
そのとき、とおりがかったおとながこえをかけてきました。
「ボク、そんなボロボロでやせほそって、どうしたんだい? だいじょうぶ?」
ワクはびっくりしました。
「だ、だいじょうぶです。もうかえります」
「こわがらなくていいよ。たいへんなおもいをしてきたんだね。すこしこっちでやすんでいきなさい」
「ほ、ほんとうに大丈夫です」
「じゃあいえまでおくっていくよ。どこからきたんだい?」
「ボクはあのキラキラぐものむこうからきました」
「キラキラくも? なにもないけれど。なにかみえるのかい?」
ワクがゆびをさすほうにはなにもありません。
「あれ? どうして?」
「すこしおはなしをきかせてくれないかな?」
「・・・わかりました」
ワクはおとなと、たかいたてもののほうへあるいていきました。
それからワクはもう、村にもどることはありませんでした。
それからなんじゅうねんもたちました。
ワクはこのむこうがわのせかいで生きていました。
おとなになったワクはいえにかえると、ためいきをしました。
「まいにちたいへんだ」
ネクタイをはずしてソファにすわりました。
「ペンはどこにあったかな」
ワクはふたたびたちあがって、つくえのひきだしをあけると、ふるい木の笛をみつけました。
「これは、なんだっけ。あ...」
ワクはおもいだしました。
ながいじかんがたち、あの村のことも、キラキラのくものことも、もうわすれてしまっていました。
あれから、だれひとりとして、その話はしんじてくれませんでした。
キラキラくもがあったはずのばしょも、ひろい原っぱがずっとひろがっているだけでした。
じかんがたっていくなかで、あのむらがほんとうにあったのか、わからなくなっていきました。
そしていつのまにか、あの村よりながくすごしたこのせかいが、ワクのせかいになっていたのです。
ワクはいま、つかれていました。
あれだけいきたかった、キラキラのむこうがわのせかいなのに、うまくたのしめていませんでした。
あのとき、キラキラぐもにとびこんだことは、ただしいことだったのか。
ワクはいまになってはじめて、ふかくかんがえました。
それでもこたえはでません。
ワクはさみしいきもちになりました。
てにもったふえをみて、ワクはおもいだします。
ーまよったり、どうしていいかわからないとき、これを吹きなさいー
ワクは、まどをあけて、ふえをふきました。
ふえのたかいおとは、そらにこだまします。
しかししばらくしてもなにもへんかはおきません。
「なにももおきるわけないか」
すこしわらっていいました。
「ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
そらのむこうから、おなじふえのおとがしました。
ワクはおどろきました。
そしておもいだします。
ーさいごまですすみなさいー
「そうか。そうでしたね」
ワクはニッコリとわらっていいます。
「ボクはここで、がんばっていますよ」
ワクはもうさみしくありません。
このキラキラぐものむこうがわで、ワクはじぶんらしく、げんきにくらしました。
おわり




