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ある夜の星空の下

 夜は、音が少ない。

 夏の終わりの風が庭の木々を揺らす音と、遠くで走る車の気配だけが、ゆっくりと混ざっている。

 和音は家の庭に置かれた古い椅子に座り、空を見上げていた。

 理由は特にない。ただ、今夜は外にいたほうがいい気がした。それだけだった。

 八月。

 ペルセウス座流星群が見える夜だと、昼間に先生が言っていたのを思い出す。

 理科室の黒板に描かれた星の線は、きれいだったけれど、あまり現実味はなかった。

 流星なんて、願い事をする間もなく消えるものだ。

 そう思っていたはずなのに、和音はなぜか、空から目を離せずにいた。

 胸の奥が、少しだけざわつく。

 理由はわからない。

 怖いわけでも、悲しいわけでもないのに、心が落ち着かない。

 まるで、何か大切なことを忘れているみたいだった。

 夜空を見つめていると、不意に光が走った。

 一瞬。ほんの一瞬だけ、白い線が空を横切る。

「あ……」

 声にならない声が漏れる。

 流れ星だ、と頭では理解しているのに、胸のほうが先に反応した。

 どうしてだろう。

 目が、熱くなる。

 願い事なんて考えていなかった。

 それなのに、心の奥で誰かの名前を呼びそうになって、和音はぎゅっと唇を噛んだ。

 —誰?

 問いかけても、答えは返ってこない。

 ただ、夜風だけが頬を撫でていく。

 椅子の背に身を預けながら、和音は思う。

 もし、この空の下で誰かと一緒にいられたなら。

 それは、きっと悪くない夜だっただろう、と。

 そのときだった。

 庭の奥、門の向こうで、足音がした気がした。

 気配だけ。姿は見えない。

 和音は、なぜか立ち上がりそうになる自分に驚く。

 会う約束なんて、していない。

 誰かが来る理由も、思い当たらない。

 それでも。

 —来た。

 そんな確信だけが、胸に静かに落ちた。

 空では、もう一度、流星が流れた。

 それはまるで、合図のように。


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