ヒッポポ玉三郎はお怒りです 後日談 <前編> カラスの妖精は笑う
季節は夏になった。
ルタルカ魔道王国では、挽き肉入り小型パイが大流行した。
野生の魔女協同組合のお届けサービスは、薬草類の注文はさほど入らなかったが、パスティは魔女だけでなく一般国民にまで幅広くウケたのだ。
ナイフとフォークが不要な、手づかみで食べられるパイという手軽さと気取らなさが、庶民のニーズにマッチしたのだ。
ミンツは目の回るような忙しさであったが、充実感、そして何より自分の力が認められたうれしさで、毎日パスティを焼く仕事を頑張り抜いた。
そんなある夜のこと。
宅配員たちはとっくに帰宅した時間だというのに、野生の魔女協同組合に新規のデリバリーの注文が入った。組合所属のカラスの妖精「サンパギータひとみ」が窓から厨房に入ってきて、
「オーダーでーす。パスティいっちょ、ご注文でーす。西区にお住まいのリディアムさんって人でーす。ミンツさんのモトカレでーす。ケタケタケタ♪」と鳴いたのだ。
厨房で翌日の仕込みをしていたミンツは軽く舌打ちすると、オーブンから今焼き上がったばかりのパスティを見た。これらはあしたの朝に宅配するやつなんだけどな、と考える。ここから一つ持っていく、というわけにはいかない。
「ねえ、ひとみちゃん。そのリディアムさんって人は今すぐパスティを食べないと餓死するとか、自宅に国王陛下がいらっしゃっていて、今すぐパスティを提供しないと縛り首になるとか、そういうことを言ってたかしら?」
「何も聞いてないでーす」
「そう、じゃあ急ぎでもなければ、特別な事情があるわけでもないわけね」
カラスの妖精の返答を受けて、ミンツは粉を調理台に出し、バターを乗せて、生地づくりを開始した。
「まったく、本当に手間のかかる……!」
悪態をつきながら、生地をまとめあげ、しばし寝かせている間に中に詰める具材を炒めて煮込んで味を整えて、それらを手早くパイ生地で包むと、オーブンで焼き上げた。
「ふう! 完成」
焼き立てのパイをふんわりと布で包んで持ち、厨房を出る前に、ふと思い出し、オーダー係のひとみちゃんにご褒美のクッキーを与えた。ケタケタケタ! という謎の奇声をあげて笑い、クッキーを丸呑みしたカラスに見送られて、ミンツは宅配のために元恋人のリディアム宅へ向かった。
<後編へ>




