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第八話

「こんにちは、高平っす」

 特に何かしているわけでもなく、外を眺めていた富良野さんは俺の声がけにゆっくりと振り返った。スーツを着ている平野さんとは対照的で、富良野さんは私服であった。

「ああ、君が、平野が連れてきた高平蒼真か。来るとは言っていたが、本当に来るとはな。色々とこの仕事についての話が聞きたいんだろ?」

「なんでそれを?」

「そんなことはどうでもいい。面倒だからすぐに終わらせるぞ」

 俺に座るように指示した後に、前置きもなく富良野さんは訊いてきた。

「それで何が知りたい?」

「基本的なこと全て」

「あー、めんどくせーな。ったく、翼のやつ、私に役目を放り投げやがって」

 小声で言った後に、富良野さんは足を組んだ。その仕草は平野さんのそれに似ていた。

「まずCAUっていうのは、コレティスと半人間を倒す機関だ。ここ、仙台と大阪に支部が一つずつ、東京に本部がある。コレティスは基本、人には見えず、そいつらのことを認知していない人を襲わない。だが、稀に普通に人を殺す奴もいる。まだそいつらのことはよくわかっていなく、今まで安全だった奴も凶暴化する可能性があるから、例外なくコレティスは殺さなくてはいけない。また、コレティスと半人間には危険度に応じた呼び名がある。下から、白、黄、緑、紫、黒の順だ。色が暗くなるに連れて、その危険度は上がっていく。お前ら新人は、一人で白を、さらに補助有りで黄を討伐して初めて一人前と認められる。……こんなもんか。他に何かあるか?」

「俺は平野さんに勧誘されたんすけど、普通は試験を突破しないといけないんすよね?」

「そうだ。この仕事は常に死と隣り合わせだから、それなりの覚悟と度胸、そして素質と身体能力が求められる。当然に知識もだ。それらを審査するために試験が課されるが、これが結構な難易度らしくてな、年中人手不足に喘いでいる私たちなどお構いなしで、国のお偉いさんたちの指示で何人も落とされる。権力を持った無能は、一番厄介で困る。話が逸れたな。それで、君のようなケースはレアでね、年に数人だけ各々の支部のトップが、見込んだやつを推薦して誘致できる。要するに君は平野に期待されてるってわけだ」

 喋り疲れたようにだらしなく椅子に座る富良野さんを尻目に、俺は納得した。過酷な試験を突破してCAUの一員になれたのにも関わらず、基本的なことすら知らないような人が、推薦されて自分と同じ立場になる、それは憤りを感じるのも尤もなことで、それを恨む俺は惨めで幼稚だ。

「ちなみに富良野さんはここで何してたんすか?」

「私か?私は、そうだな、研究資料が届くのを待ってたんだ」

「研究資料?研究者なの?」

「いや、私は研究者じゃない。私の役目は怪我を負った人間の治療だ。ただし、シラが使えるやつ限定のな。時に、君は人間じゃないんだろ?」

 後頭部を急に鈍器で殴られたような衝撃が全身に走って、すぐには答えられなかった。平野さんが伝えたのだろうか。それとも見抜かれたのだろうか。そんな答えの出ないことに思考を巡らせていたら、富良野さんはフッと笑った。

「そんなに身構えるな。私は別に君をどうこうしようなんて考えていないさ。というか、私じゃ君には勝てない。だから、許可をもらったんだ」

「許可?」

「そう、許可だ。君の体を隅々まで調べても良いという、平野からの許可だ。君は怪我をしても、数分後には治るんだろ?そんな面白い体は調べるしかないと思わないか?」

「………」

「言っておくが、平野からの許可という名の命令だから君が拒否したところで何の意味もない。ただ、暴れられると面倒だから一応了承の上で研究させてもらおうと思ってね。私たちの半人間に対する知見を広めるためと思って協力してくれるよな?」

「………わかりました。ただ、俺も自分の体についてはまだよく知らないから殺さないよう気をつけてくれないっすか?」

「それは約束する。絶対に死なせはしない。死なせたら私の首が物理的に飛ぶだろう。平野によってな」

 そんな冗談とも言い切れないことを言って、口角を釣り上げた。平野さんからの命令だから仕方なくやっているような言い草であったが、シンプルに自分も興味があるのだろうことは、鼻歌を歌っている様子から容易に伺える。

「じゃあ、ひとまず、服を脱げ」

 セクハラ紛いのその発言に、俺は素直に従った。


 

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