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第七話

 食堂に行くと、そこには既に他の三人が揃っていた。どこに座るか迷っていると「どこでもいいから早く座れ」と久我山に言われたため、日本人のような和風の顔立ちでない、外国人の掘りの深さと青い目を有した金髪の男の隣に座った。

「タカヒラソウマでシタッケ?ボクはスティーブン・グッドウィンデス。イングランドのCAUから派遣されまシタ。日本語は勉強中デス。謹賀新年、よろしくお願いしマス」

「ああ、よろしく!日本語上手だな。謹賀新年ってのはよくわからないけど」

「グッドウィンの四字熟語は間違ってても無視した方がいいよ。いちいち反応してたらキリがないから」

 視界の外から女性の声が聞こえてきた。そちらの方を向くと、サラダをフォークを使って食べている方で短く切り揃えられた女性としても、小柄な方であろう人がいた。

「あたしは花道楓。ちっちゃいけど、これでも運動は得意な方だから。よろしくね!てか、高平くんって何歳?すごく若く見えるんだけど」

「十七歳!つい最近まで高校二年生してた」

「お前、十七だったのか。確かにときどきガキらしいとこはあったが、本当にガキだとは思わなかった」

 嫌味ったらしく久我山がそう言うので、俺は反応しないことにした。ここで反論するために言い争ったらそれこそ本当にガキだ。俺は大人。もう立派。

「みんなは何歳なんだ?そんなに年いってるようには見えないけど」 

「ボクは二十五デス」

「あたしは二十三」

「二十」

「…………」

 俺が目を合わせた、グッドウィン、花道、久我山の順で答えた。最後に筋骨隆々の方を見たが、俺のことを横目で見るだけで答えはせずに白米を食べた。その目には敵意が感じ取れて、少しだけ動揺をしたが、それを悟られることはなかった。

「高平くんは次の白に参加するの?」

「……白?なんだそれ?」

 場が凍てついたのを肌で感じた。その原因は考えずとも俺の発言であるが、どこに落ち度があったのかは見当もつかなかった。しばらくの沈黙の中で、お茶碗を乱暴に机に置いた音だけが響いた。

「貴様、平野さんから推薦されておいて、そんなことも知らないのか?ふざけるのも体外にしろ」

 無言を貫いていた大男が俺を責め立てるような口調で言い放った。

「いや、ふざけてるじゃなくて、本当に知らないんだ。だって俺は昨日ここきたばかりだからさ。でも、俺は……」

 戦う気はあるから色々教えてくれ、そうお願いしようとしたところで、遮られた。

「推薦されたから特別だとでも言うつもりか?オレは貴様から溢れるエネルギーを微塵も感じない。それこそ、CAUに迷い込んだ一般人にしか見えない」

 それは紛れもない事実だ。この中で誰よりも知識がなく、誰よりもシラが扱えず、誰よりも一般人の俺から感じ取れるものなんて、そこら辺の人となんら変わりがなくて当然だ。

「まあ、落ち着きなよ藤井。確かにおかしな話だけど、何か事情があるかもしれないでしょ」

 そう俺を擁護する花道には隠そうとしているのであろうが、俺を疑っている気持ちが溢れ出ていた。俺は縋るような思いで、グッドウィンを見たが、彼も同様であった。

 俺の無知さを唯一知っていた久我山だけは、何の反応も示さずに味噌汁を飲んでいた。

 久我山以外の三人は無言で席を立って、昼食を片付けた後に食堂から出て行った。

 俺は友好関係を築けなかったことよりも、こんな状況でまだ仕方がないと心の中で言い訳をしている俺に驚いた。無知はそれだけで罪なのは、子供でもわかる単純なことだ。

 ならいっそう、俺が半人間なことを打ち明けるか。久我山と同じように敵と見做されて、迫害まがいの扱いを受けることは大いにあり得るが、曝け出さなければ信頼というものは生まれない。

 そんなことを考えていたら、久我山も立ち上がった。

「お前、切るカードを間違えるなよ。ここでお前が半人間だということをカミングアウトしても、より状況が悪化するだけだ」

 まるでこちらの考えを見透かしたようなことだけを言って、久我山は俺の視界から消えて行った。俺はもう、何が正解なのかを考える気力すら残されていなかった。

「蒼真くん、みんなと仲良くなれた?」

 見ただけでわかるであろう質問を投げかけてきたのは、平野さんだった。俺は力無く首を横に振った。

 残念そうな顔をする平野さんに俺はお願いをした。

「平野さん、俺に久我山たちと同じくらいの情報をくれないっすか?」

 少し棘のある言い方であったことを、言った後に後悔した。しかし、そんなことは気にも留めずに、平野さんは即答した。

「それなら富良野に教えてもらって。私と違って今はきっと暇してると思うから」

 その人のことを思い浮かべているのか、少しだけ笑い声を漏らしながら詳細を俺に伝えた。俺は礼を言って、その人がいる場所に足を運んだ。


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