第四十三話
「ちょいと良いですかな、花道殿」
「おやおや、どうしたのですかな、高平殿」
花道はこういうときに合わせる能力が高い。どこでそれが活かせるかは知らないけど。
「最近、久我山殿の様子がおかしくってですね。どこか上の空みたいな感じなんですよい」
実際に最近の久我山は、俺から見てもおかしい。
「それはあたしも感じてましたわい。それと、実はグッドウィン殿も近頃おかしくってですね。手合わせする機会があるのですが、そのときに以前よりも荒くなっておりまして。何か解決策はないですかな?」
「残念ながらあまり詳しく知らないため何も。ちょいとこの喋り方が辛くなってきておりましてね、やめても良いですかな?」
「あたしも辞めたいと思っていたところ故、賛同でございやす」
両者一斉に息を吐いた。やはり普段しないことはやらない方がいい。精神的な疲れは簡単には取れない。
「久我山に話を訊こうとしても、大丈夫だの一点張りで何もわからないんだよ。俺って相談相手に向かないのかな?」
「まぁ、向いてはないね」
自覚していたことだけど、他の人に言われるとまた違ったダメージが入るな……。
「グッドウィンの方はさ、一応の原因は教えてくれたんだけど、どうすればいいかわからなくて。蔦爺があの火野っていう人に倒されちゃって、自分の目的を見失っているみたいなの」
「目的、か……」
もちろんCAUに加入している時点で、コレティスを倒す。そして、人を救う。その目的を有しているのは大前提としてあることは確かであろう。
それだけで十分な人もいる。俺がそうだ。俺は自分のための目的も目標もない。ただ、世のため人のために身を粉にして戦う。それだけで俺はいいのだ。
しかし、グッドウィンは違うのだ。いや、もしかしたら以前までは俺と同じだったのかも知れない。だけど、蔦爺と戦って新たな自分のための目的が、蔦爺へのリベンジを果たすという目的が生まれた。それに向かって努力を積み重ねようとしたところで、本部から来たぽっと出の火野という男にそれをバラバラに破壊されたのだ。
火野だって悪意があったわけではないのは誰の目から見ても明らかだ。でも、だからこそそれによって、滾るような闘争心のあった場所はその居場所を失って、グッドウィンに苦悩を与える悪感情へと変化している。
だとしたら今俺らがしなければいけないことは、再びその闘争心に火をつけるようなグッドウィン自身に対する目標を与えることだ。だが、言葉で言うのは簡単でも、そう易々と実行できることではない。だとしたら、それまでは心を休める時間が必要であろう。
「そろそろ花道たちがここに来て、一年は経つだろ?」
「え、あ、うん。そうだね。そうだけど?」
唐突な問いに花道は困惑を隠せていない。思った通りの反応だ。
「したら、一周年を記念してちょっとしたパーティーでもやろうぜ。花道みたいに久我山もグッドウィンもそのことを忘れている可能性が高いから、サプライズ的になっていいんじゃないか?」
「え、えぇ……」
「え、ええ……」
いい案だと思ったんだけど、そうでもないのか?ひとまずは楽しむことを優先して、抱いている苦悩を一瞬でも忘れてくれるといいって考えたんだけどな……。
「いやー、そういうので逆効果になった実例はたくさんありそうじゃない?」
花道はどうなるのかを想像しているのか、俯きながらそう言った。
「だけど、何か行動は起こさないといけない。俺たちにできるのはこのぐらいしかなくないか?」
花道は「うぅーん」と唸る。そして、ようやく決断したのか俺の目を真っ直ぐと見た。
「やってみよう。ものは試しってことで」
そうして、一か八かのパーティーが開催されることとなった。
予算的に何かプレゼントを用意はできないため、とりあえずはパーティー感が出る装飾と、全員分のケーキを買うということで話がまとまった。
俺には美術的センスは皆無なため、装飾品の買い出しは花道に任せて、俺はケーキとご飯を買う担当となった。
会場場所は俺と久我山の部屋であるため、俺の買い出しが終わった後は、模擬戦をしてほしいと言って部屋に戻るのを引き留め、その間に花道に飾り付けを終わらせてもらうという算段だ。
そのため、俺はCAU支部からあまり遠くに離れてはいけない。久我山が俺よりも早く戻ってしまったら、少々面倒なこととなるからだ。
適当にご飯を買った後、予定通りにケーキ屋に到着した。今日は一度もコレティスにも半人間にも出くわしていない。平和の象徴とも呼べるような穏やかな日々であった。ただ、別に今までにそんなことは何度もあった。コレティスを発見する方が珍しいのだから、当然と言えば当然だ。
みんなの好みは全くと言っていいほどわからないため、五個全部、違うケーキを買った。ショートケーキ、チョコケーキ、モンブランにタルト、そしてチーズケーキの五つだ。流石にこれだけ異なる種類があれば、すべて食べられないなんてことは起きないであろう。




