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第四十二話

 ガシャーン!

『おぉ、なんだ!?久我山、皿でも割ったか!?』

『ああ、悪い』

 チリチリチリチリ。

『おい、久我山!?焦げてる、焦げてる!』

『ああ、悪い』

 ガタン!

『おわ!?ビックリした!水やばい!水やばい!久我山!コップより、布巾、布巾!』

『ああ、悪い』

 この頃、こんなやりとりばっかしている。自分でもこんなことが連続するのはおかしいと自覚している。だが、目の前で由良が灰となったあの悲劇の日から、まるで自分の体が自分のものではないような、そんな感覚になる。

 火野に言われた通りにCAUを辞めようか、とも考えた。だけど、コレティスを前にすると、いつも通りに体が動き、いつの間にか倒しているのだ。それはもう無意識に行われていると言っても過言ではなかった。

『大丈夫か?久我山?』 

『どうかしたの?久我山?』

『久我山くん?何かあった?』

 もう幾度となく心配されてきた。その度に、大丈夫そうでない声色で大丈夫と告げる。その度に、さらに心配そうな顔で見つめられる。それを無視して、その場を離れる。

 こんな日々が続いた。時間はこの懊悩を解決するには力足らずであった。日を重ねれば重ねるほど、心が重たくなっている。しかし、コレティス相手にはしっかりと戦うことができている。

 矛盾だらけのこの体。穴だらけのこの体。見えない傷だらけのこの体。

 誰のためにこの体を動かしているのだろうか。何をもってこの体を動かせば良いのだろうか。  

 死に対しての恐怖が薄れていっているのがわかる。それは自暴自棄になっているせいであろうか。それとも、もうしに慣れてしまったからだろうか。

 いずれにしても、人間として相応しい状態ではない。

『亮くんはさ、まだ戦う気力が残っているの?』

 平野さんのその問いにすぐには答えられなかった。いや、その答えは今でも決まっていない。

『無理には引き留めないよ。でも、私的には蒼真くんを一人にしないで欲しいの』

 別に俺がいなくなったところであいつが一人になるわけではない。花道もグッドウィンも藤井もいる。皆端さんに更科さん、平野さんだっているし、古谷さんもいる。俺の代わりはいくらでもいる。

 あの日から弓を持つことができない。俺と由良を繋いでいた弓がちっぽけなものに様変わりしてしまったように感じたからだ。

 あのときに由良の見た目をした半人間に合わなければ。そんなたらればを何度妄想しただろうか。そんな現実逃避に意味なんてないのに。

 これ以上、CAUにいても迷惑をかけるだけかもしれない。無駄に命を落として、無駄に他の人の心に影を落とさせる。そんな可能性を排除するためにも、俺はここから立ち去った方がいいと、何回も自分に言い聞かせた。

 だけど、辞めるの一言だけは口から出ることはなかった。俺なりの無意味なプライドなのか、空虚な執着心なのか。その原因に辿り着くことはなかった。

 俺は平野さんからの鶴の一声を待っている。その一声で、俺は他人を理由としてここからいなくなることができる。

自分では何もできない、この惨めな俺を俺が好きになれることは永遠にないであろう。


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