第四十話
あいつみたいなのはいずれ死ぬ。もう、後悔を残しながら死んでいく奴なんて見たくねぇ。
あんな残酷なことは、したくなかった。あいつの気持ちがわかるなんて傲慢なことは言えねぇ。だが、それでもあいつの顔を見たらどんなに鈍い奴だって、その辛さが伝わってくる。
あいつは優しすぎる。自分の心を殺すことができない。だから、今あったみたいなことで、結論を出せない。それは人間においては一種の美徳でもあるが、CAUにおいては欠点にしかなり得ない。
くそ、仙台はさみぃな。これといって、やることもないしもう戻りてぇ。
そう思いながら、何気なく人気のない道を歩く。すると、運の悪いことにコレティスに遭遇した。後ろを向いていたコレティスはこちらの気配に気づいたようで、ゆっくりと振り返った。
そいつは両腕が蔦でできていて、目には花が咲いていた。
こいつは確か……、平野さんが言っていた、蔦爺?だったけか……?
「ほぉ、そなた、ワシが見えるのか?」
本当に喋るのか。平野さんに教えてもらってはいたが、いざ目の当たりにすると結構衝撃的だな。
「お前、平野さんを狙っているらしいな。あの人を殺すなんて、命が何個あっても足りないぞ」
蔦爺は理解が及んでいないようで、わざとらしく首を傾げた。
「はて?平野とな?ワシらが狙っているのは高平蒼真じゃよ」
「………は?」
予想外のその発言に、目を丸くした。
高平蒼真。あの半人間の奴か。あいつが狙いということは、平野さんの命を狙っているというのはブラフだったのか。
「理由は何だ?なぜ高平蒼真を狙っている?」
「それは答えられんのう。ただ、ワシらは高平蒼真の体以外には興味はないのじゃ」
あいつの体、か。確かにあんな珍しい個体に興味を持つなという方が無理な話か。でも、高平蒼真が狙いなのだとしたら、あいつを殺せば全ては丸く収まるのではないか?
「高平蒼真を殺したら、お前の目的は達成できなくなるのか?」
「そうじゃのう。達成できなくなるわけではないが、それは遠のくのう」
つまり、困るというわけか。なら、やっぱり殺した方がいいのではないか?
「ただ、それはその平野とやらが許さないのではないか?」
そう、問題はそこだ。平野さんは高平蒼真に異様なまでの執念を抱いている。いくら特別な体をしているからといって、あの執着は上司でありながらも以上と言わざるを得ない。それほどまでに、平野さんは高平蒼真に心酔している。
何か策を考えなくては。高平蒼真の命一つで多くの命が救われるというのであれば、喜んで手を汚そう。それだけの覚悟はできている。
「ところで、そなたは退屈しておるように見受けられるのじゃが、違うかの?」
「ん、まぁ、そうだな。退屈しているところだ」
蔦爺は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ならば、ワシと勝負しないかのう?前に戦った者はちと物足りなかったのじゃ」
「いいぞ。やってやろうじゃねぇか」
クロスボウを構える。
平野さんからこいつの特徴は聞いている。蔦を伸ばして攻撃をすることもできるし、一本にしてその強度を増し、近接戦に対応もできる。なかなか厄介な敵である。だが、こちらとは相性が最悪だ。
先ほどは使用しなかった血のついた矢をつがえる。手を抜く余裕は恐らくないだろう。だが、ここでこいつを倒せればたとえ高平蒼真を殺すことができなくても、後々楽にはなる。倒しておいて損はない。
「焔」
矢を放つと、予想通りに蔦に阻まれる。だが、それでいい。
見た目的な変化は蔦に矢が刺さった以外には何もない。蔦爺もそれに失望を隠せていないようで、残念そうな顔をする。
「そなたは骨のありそうな者と期待しておったのじゃが……」
「たわけ。まだ始まったばかりだ」
蔦を伸ばして、攻撃してきた。それをポケットから取り出したナイフで対処する。
何度蔦を切り落としても、無限に再生する。報告通りだ。
距離を詰めることなく、ひたすらに迫ってくる蔦を斬っていく。できるだけ先の方を。それができそうにないなら、後ろに下がるのも厭わない。
「なんじゃ?来ないのか?まさか近づけないとは言うまいな?」
失望している様子ではあるが、その声には嘲笑が存分に含まれていた。結局は自分が楽しみたいように見せて、実のところは弱い者相手に優越感に浸って、気持ちよくなっているだけだ。
「そろそろだな」
そう呟いて、なおも蔦を切り落とした。だが、もう蔦が再生することはなかった。それどころか、先ほどまで緑色であったその両蔦が、段々と黄色くなっていく。
「何が起こっておる……?」
それに答えるなんていう優しさなど当然見せるはずもなく、好機とばかりに一気に距離を詰める。
目に咲いている花を斬る。それも再び花を咲かせることなく、真っ黒な穴だけが顔をのぞかせる。
その勢いのまま、ナイフで畳み掛ける。萎れた蔦では止めることはできずに、もろに体にその攻撃くらった蔦爺はその場に力無く倒れ込んだ。
「なぜ……再生しないのじゃ……?」
そうだな。ここで殺すのも芸がない。ネタバラシでもしてその顔を歪ませた後に殺すとするか。
「お前は避けることなく、再生能力があることにかまけてこっちの攻撃を受けまくっていただろ?それが敗因だ」
まだわからないと言う雰囲気を漂わせている。思い通りの反応にニヤけてしまう。
「お前の体の中には感じることのできない炎が体内の酸素を奪いながら燃え続けている」
蔦爺はハッとしたような顔を浮かべた。
「そうだ。酸素がなくなっていくんだ。お前の体には必須の酸素がどんどんなくなっていく。それに今日は日が出ていない。光合成はあまりできないようだな?」
悔しそうに顔を歪めた。もう全てが思い通りの表情を浮かべてくれる。これほど愉快なことはない。
「相手が悪かったってことだ」
最後にナイフで顔面を突き刺した。断末魔をあげながら、塵と化していくその姿は滑稽そのものだ。
ナイフを再びポケットにしまう。
高平蒼真が真の狙いということは、共有しなくてはいけない。それを知れば、平野さんも考えをあらためてくれるかも知れない。
地面に積もった雪に足跡をつけながら、その場を去った。




