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第四話

「おい!起きろ!朝だ!」

 脇腹に痛みを感じながら目を開けると、見慣れない天井に頭が追いつかず、されるがままになっていた。ようやく昨日のことを思い出して、上半身を起こすと、俺を起こすための蹴りが止んだ。

「飯だ。さっさと顔洗ってこい。遅かったらお前の分も俺が食うから」

 良い匂いが鼻腔をくすぐると同時に腹の虫が鳴った。昨日の夜から何も食べていないため当然の生理現象だ。顔を洗って、クリアになった頭で久我山が作った朝ごはんを目の前にする。言動が凶暴なのとは裏腹に、部屋が綺麗だったり、うまそうな飯を作ったりするあたり、この男の評価が難しい。

「それ食ったら二十分で支度しろ。じゃないと遅刻する」

 俺は朝食に舌鼓を打つ余裕もなく、急いでかき込んだ。それでもこの飯はうまかった。

「その服なんだ?」

 久我山は艶のある黒色の服に身を包んでいた。

「制服だ。って言っても一人前になるまでのもので、半年前の試験に受かった人しか着てない。お前のも、じきに届くはずだ」

 俺らは部屋を出て、ただ平地が広がった場所へ足を踏み入れた。

 そこには久我山と同じ制服姿の男女が四人いた。私服姿で完全に浮いている俺を怪訝な様子で不躾に注視してくる。俺は居心地が悪くなって身を縮めた。

 少し待っていると、遠くから平野さんがやって来た。

「おはよう。みんないるね。今日からみんなと一緒に鍛錬していく人が一人増えたよ。じゃあ、ちょっと自己紹介して」

 平野さんに注がれていた視線がこちらに一気に集まった。俺は咳払いをして、少しだけ高い声を意識して挨拶をする。

「名前は高平蒼真!好きなスポーツはサッカーだけど、ゲームは野球のやつが好き!よろしくな!」

 まばらにされた拍手には、まだ俺に対する疑心が含まれていた。だが、初めはこんなものかと自分に言い聞かせた。ちなみに久我山は拍手すらしていなかった。あのヤロー。

「蒼真くんには、しばらく亮くんが付き添ってあげてね。彼、まだわからないことだらけだから優しくね。他のみんなはいつも通りで」

 事前に打ち合わせされていたように声を揃えて返事をする俺以外の五人に、平野さんは困ったような顔をした。小さく「みんな堅苦しいなー」と言ったのが、隣にいた俺には聞こえた。

「じゃあ、亮くん、お願いね」

 ついてこい、と目で伝えて来た久我山の後を追う。ガラ空きの背中を見て、カンチョーをしたくなった。俺の脇腹を蹴ったお返しとか言っておけば、許してくれるでしょ。

 息を殺して、ゆっくりと近づいて右手をかがけた瞬間に、俺は地面に横たわっていた。何が起こったのかわからなかった。

「お前、何のつもりだ?」

 久我山が俺を見下しながら、そう尋ねてきた。俺は久我山にやられたのだとようやく理解した。

「いや、背中向けられたらカンチョーしたくなるじゃん?」

「普通はならねぇーよ。それにやるんだったらもっと自然にやれ。いきなり足音が小さくなったら警戒するに決まってんだろ」

「自然だったらいいのか?」

「別に構わない。どんな時に攻撃されても、返り討ちにするだけだ」

 かっこいいことを言って再びこちらに背を向けて歩き出す久我山。俺は跳ね起きをして、その背中を追いかけた。

 到着した場所は木製の倉庫であった。その中にはたくさんの刀や剣、薙刀や弓矢、銃など様々な武器が置かれていた。

「ここから好きな武器を選べ。何でもいいが、最初は一つだけだ」

 俺は手始めに目の前にあった刀を触ろうと手を伸ばす。しかし、それに触れることはできなかった。

「イッタ!」

触れようとした刹那に電流のようなものが右手に走って、思わず手を引いた。電流の発生源からは白い煙が上がっている。

「なあ、これなに!?電気走ったぞ!」

 理由を訊くために、後ろを向くと久我山はわざとらしくニヤニヤと笑顔をその顔に貼り付けていた。

「ああ、悪い。触る前にまず自分の血を一滴垂らさないといけないんだった。言い忘れてた」

「ぜってーわざとだろ!」

「俺だって忘れることくらいある」

 目を瞑って両手を上げて首を左右に振る久我山を睨め付けて、俺はもう一度刀に向き直る。右手の人差し指の先を噛んで、血を滲ませる。垂れるほどの量は出なかったため、無理やり左手で指の付け根をつまんで、先端に向けてスライドさせていく。

 そしてついに血を垂らすと、今度は青く眩しい光を放ちだした。そのとき、後ろから殺気を感じてしゃがみ込んだ。それは死という、人間の根源的な恐怖から逃れるために本能が咄嗟に俺の体を動かした反応であった。

 しゃがむ前に俺の頭があった場所に拳が通過した。さらに立て続けに、蹴りが背中に飛んできて俺は前方に吹っ飛んだ。その衝撃で数本の刀が音を立てて床に散らばった。

 何が起こったかわからないまま、ゆっくりと振り返る。痛みで細められた目から見えた久我山の顔は驚きと怒りが混ざった複雑なものであった。悶え続けている俺の髪の毛を久我山は右手で引っ張り上げる。

「てめぇ、人間じゃねーな」


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