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第三十話

そう息巻いたのはいいものの、コレティスの異常発生は起きずに気がつけば十月になっており、夏の焼けるような暑さは息を潜めたが、まだまだ湿気のせいでむさ苦しいと感じる時がある。あたしの一番好きな季節は徐々にその存在が消えかかっている。

 もし高平くんの聞いた鈴の音が、無条件にコレティスを生み出せるのならこんなことにはなっていないだろう。何か条件を揃える必要があるのか、はたまたその鈴の音はコレティスを発現させずにそれを聞いたときはたまたま黒が現れただけではないのか。そんな答えの出ない議論を何度も重ねている。

 相変わらずあたしは血技を繰り出すことは一度としてできていない。他の人たちは最低一回はできたようで、久我山に至ってはもう好きなタイミングでできるようになったらしい。

 あたしは焦りを感じていながらも、その原因をなんとなく察していた。あたしだけ他の人たちと目的が異なっているからだ。

 あたしがこのCAUに加入した理由は利己的なものだ。もちろん人を救うことをどうでも良いと思っているわけではない。あたしが救える命はできるだけ救ってやりたい。

 ただ、あたしの目的はそんなヒーローになることではない。あたしは個人的な復讐のためにここに属した。


 あたしは生まれつき背が小さかった。出生児の身長は平均よりも七センチも小さかった。そこから急激に背が伸びることはなく、順調に低身長の道を歩み始めた。

 牛乳だってたくさん飲んだし、ジャンプも一日に五十回はするようにしていた。だけど、そんなものは意味をなさなかった。そんなチープな行動じゃ、幼少期に診断された成長ホルモンふ分泌不全性低身長症を克服することなどできなかった。

 それが原因であたしは小学生のときに、よく女子からいじめを受けていた。ただ身長が低いだけで、その他は何も普通の人とは変わりないというのに、わかりやすいあたしの身体的特徴を揶揄する者は絶えなかった。

 あたしだってなりなくてなったわけではないのに、そんなことは理解しているはずなのに、どうしてかあたしを見せ物にして楽しむ輩がいるのは不思議でたまらなかった。

お前だって太っているだろ。お前だって不細工だろ。お前だって鼻にかかるような不愉快な声をしているだろ。

 そう反論してやりたいと常々思っていたが、体格で敵わないことは目に見えていたし、何よりもそいつらと同等の人間に成り下がることは嫌だったから、声に出したことはなかった。

 そんなことなどつゆ知らず、あたしに対するいじめは続いていった。

 ある日、転校生があたしのクラスに来た。

 その転校生は女の子であった。名前は五十嵐美咲であった。しかし、名は体を表すなどという言葉は彼女には当てはまらないようで、花のような儚さも華やかさもなかった。その代わりにあったのは、気の強そうな雰囲気であった。

 たまたま空席であったあたしの隣の席に座ったが、愛想を振り撒いてくることはなかった。あたしにとってはその態度が、逆にありがたかった。変に仲良くなっても、誰も虐められている人と関係を続けようとは思わない。自分が標的になることを恐れてしまうからだ。

 それについてはどうとも思わなかった。自己防衛に走るのは当然であるし、あたしも多分そうする。身を粉にして助けるような価値があるような人間ではないことも自覚している。

 女子のいじめは陰湿だ。男子からの印象を気にしているためか、表面上はいい子ちゃんを装って、その監視がなくなった途端に魔女に変貌する。それも殴る蹴るなどというわかりやすい行動はとらなかった。

 最初は無視に始まった。その後も宿題を返却される際、いじめをしてくる女子がそれを返す当番の時は、あたしの机に置かずに持ち帰って道端に捨てた。そのせいであたしは何度ノートを買ったか数えきれない。

 体操服をカッターか何かで切られたこともあった。それもわかりやすくボロボロにやってくるわけではなくて、ところどころにだけやってくるため買い替えようにも、買い替えられないことも多々あった。

 そんな日々が当たり前と化して、あたしの心が完全に廃れていった頃だった。偶然にも日直の用事で五十嵐美咲と職員室から教室に帰ってきた時にちょうどあたしの私物を壊している最中に出会した。

 バレたにも関わらずに悪びれる様子を一切見せなかった女子に、彼女は一言、冷たく言い放った。

「ダッサ」

 彼女以外は全員あっけに取られていた。恐らくいじめをしていた女子もそして、そのいじめを受けていたあたしも彼女は良くも悪くも他人に興味のない人だと認識していたため、見て見ぬ振りをしてそのまま帰ると思っていたからだ。

 一拍置いた後に、彼女はあたしのものを壊していた女子三人に詰め寄られた。しかし、一切動じることなくそれを真っ直ぐに見つめる彼女をカッコ良いと感じた。

 状況的に不利なのは彼女の方なのに、三人組の女子の方が惨めに見えるその光景は、当時のあたしにとっては新鮮なものであった。

「近い。離れてくれない?」

 焦りも恐怖も感じ取れない抑揚のない声で彼女はそう言ったが、三人はそれに応じることはなかった。それどころかそんな彼女が気に食わなかったのか、一人が髪の毛を引っ張り始めた。

 あたしのせいで被害者が増える、そう思いながらもどこか他人事のあたしを尻目に、あろうことか彼女は髪を引っ張っていた女子の頬を叩いた。

 それほど力入れてなかったようであったが、躊躇いもなく暴力を振るったという事実が、三人を後退りさせた。

 三人は白けたようで、急いでランドセルを背負って教室を逃げるように去っていった。

「ありがとう」

 助けられたとは思わなかった。彼女が、ただ自分に降りかかった火の粉を払っただけ、というようなそんな様子だったからだ。

「別に。やられたからやり返しただけ」

 ぶっきらぼうにそう言って、彼女も教室から出ていった。

 それをきっかけとして、あたしは彼女に話しかけるようになった。心のどこかでは彼女に感謝していたし、嬉しいと思っていたのだ。

 最初はめんどくさそうに対応されたが、じきに心を開いてくれるようになった。

 彼女は人に興味がないわけではなくて、自分から行動するのが苦手だっただけであった。その証拠にあたしが遊びに誘えば、だいたい承諾してくれた。

 あたしに対するいじめはいつの間にかすっかりなくなっていた。それはあたしの隣に常に用心棒のように彼女がいたからだ。臆することなく応戦してくる彼女に、どうやらだいぶ腰が引けているようだった。

 あたしの心が回復に向かっていたある日。母から成長ホルモン治療を受けないかと相談された。

 子供ながらにそれは高額な費用がかかることに薄々に気がついていたが、あたしはその提案をありがたく受け入れた。

 最近、人生が充実しているだけに、以前の日々がどれほどあたしを壊したのかを認識して、彼女がいなくなった時にそれに逆戻りするのは嫌だと感じたからだ。

 その治療の結果、あたしはまだまだ小さいままであったが、他人から色眼鏡で見られないようになるくらいには背が伸びた。

 そして、月日は流れて気づけばあたしも二十二歳になっていた。背は一五二センチまで伸びた。未だに高身長の人には敵意を持ってしまうことがあるが、あたしはもう自分の身長に不満はなかった。

 彼女との交流はまだ尚続いていた。彼女は社会人として社会に貢献しており、あたしは大学生として中身のない日々を過ごしていた。

 あたしの気になった映画に彼女を誘った日曜日のことだった。悲劇が起こった。

映画が終わった帰り道に彼女がコレティスに襲われた。そのコレティスの見た目は今でも鮮明に思い出せる。

 大きさは二メートルほどで、人でいう目にあたるところに口、鼻にあたるところに目、口にあたるところに鼻がある、なんとも不気味なやつだった。おまけに足は一本しかないのに腕が三本、そのうちの一本は頭から生えていた。

 助けは来なかった。いや、来たのかもしれないがあたしにはわからなかった。

 あたしはすぐに彼女を置いて逃げ出したのだ。あたしは間接的にいじめから救ってくれた恩人に恩を返さずに仇で返したのだ。

 あたしは恐ろしくなって家から出なくなった。夢で彼女がどうして助けてくれなかったのか、無表情で何度も訊いてきた。その度に脂汗をかきながら、飛び起きてしまう。

 そして、いつまでこんな日々が続くのかと気疲れしていた時に、CAUの存在を知った。あたしはこの状況を打破するために、CAUの一員となれるように、努力した。それが実ったのはたった一年も経たない頃だった。郵送されてきた基本的なCAUに関する情報についての試験。身体能力を確かめるための試験。その他にも意味があるのか怪訝に思うような面接を見事にクリアして、晴れてあたしはこの門を叩いた。

 全ては彼女に対する罪滅ぼしだ。あの弱い自分から成長して、戦う術を身につけて、彼女を殺したコレティスを討つ。もうすでに倒されているかもしれないが、それならそれでいい。

 ただ、もしまだこの世に存在するのだとしたら、あたしは必ず見つけ出して殺す。

それまであたしは死ぬわけにはいかない。


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