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第二十九話

花道視点

 何があったのか気になるとこではあるが、これ以上久我山と高平くんの時間を奪うわけにもいけないので、やめておいた。帰ってきてから聞けばいい。

「なんか水を差された気がするが、気にせずにやるぞ。まず、最初に訊かせてくれ。三人とも血技は使えるか?」

 聞き慣れないその単語に、CAUに加入して半年と少ししか経っていないあたしは首を傾げた。藤井もグッドウィンも同様のため、安心した。

 血技、そんな単語はここへ加入するための試験勉強でも見たことはない。専門用語的なものなのだろうか。 

 あたしたちの反応を見て、皆端さんは察したようだった。

「平野さんから教わっていないのか。意外とあの人適当だからな」

 毅然とした態度でここのトップを批判する皆端さんに、驚きを隠せない。流石に更科さんが咎めると思ったが、同意するように首を何度も縦に振るという、真反対の反応をした。

 この人たちは上司をなんだと思っているのだろうか。

 そう思う気持ちと、適当なところがあるということを否定できない気持ちがある。高平くんが半人間だってこともなかなか教えてくれなかったわけだしね。

 皆端さんはこれからその血技とやらを説明してくれるようで、軽く咳払いをして喉の調子を整えた。

「血技っていうのは、シラの扱いがある程度のところまで熟知したらできるようになるものだ。自分の持ち武器に自身の血をつけるまたは、自身の体の特定の部位に血を垂らすことで一時的に使えるようになる。更科、見せてやれ」

「えー、私!?銃弾の用意できてないから皆端がやってよ。血出すのだって簡単じゃないんだしさー」

「僕のは今見せてもあまり意味がない。更科の方がわかりやすくていいだろ」

「あー、そっかー。仕方ないなーもう。痛くて嫌なんだけどなー」

 そんなあたしたちにはちんぷんかんぷんな押し問答の末に、更科さんは指を齧って、血を出した後にそれを銃弾につけて拳銃にセットした。

「それじゃあ、いくよ!よく見なくてもわかるだろうけど、よく見ててね!」

 更科さんは近くにあった木に向かって、発砲した。乾いた音が響き渡った瞬間に、銃弾は木に当たり、その中へめり込んで動きを止めた。

 ただ拳銃で木を撃っただけではないのかと疑問に思ったその時、いきなり意思を持ったように再び銃弾が下方向へと動き始めた。銃弾はあたしたちの視界から消えて行った。その数秒後、いきなり木の下から爆風が発生した。

 何が何だかわからないで唖然としていると、更科さんが得意げな顔を浮かべて説明してくれた。

「これはね、撃った対象の生命活動において最も大切な器官やものへと着弾した後に動き出して、その地点に到着した瞬間に爆発するってやつ。今回は根に向かったの。どう?凄いでしょー!」

「更科の血技の欠点は銃弾の移動だ。移動中に弾を引き抜かれたり、そもそも移動の途中で止まったりすることがある」

 水を差すような皆端さんの発言に更科さんは気分を悪くしたように、眉を顰めた。

「古谷さんと平野さんはどうなんですか?」

 好奇心からの質問だった。あの格が違う二人は一体どの程度まで戦えるのか、あたしも知らないのだ。

「あの二人は黒とでもやり合える。実際に平野さんは先日、黒を一人で撃退したようだ。文字通り、レベルが違う」

 思わず口をあんぐりと開けてしまった。でも、仕方ないであろう。黒を一人で倒すことなど、あまりにも桁が違いすぎる。スタイルもいいし、美人ってだけで羨ましいのに強さも兼ね備えているのは不公平だ。神はもっと平等に人間を作るべきだ。まず初めにあたしの身長を伸ばすところから始めてほしい。

「花道とグッドウィンは自分専用の武器をもらったから、以前よりかは楽に戦闘できるはずだ。試しに血技ができないか試してみろ」

 試してみろって言ったって、その存在すら初めて知ったのにできるわけがない。そんな悪態を心の中で吐きつつも、更科さんが先ほどやったように指を齧って血を出すことを試みる。

 しかし、ただ痛いだけで血は出ない。横目でグッドウィンができているか見てみると、しっかりと血が出ていた。だが、かなり思い切り齧ったらしくて、絶対にそんなに必要ないだろ、と思うくらいにたくさん出血しており、動揺が隠せていなかった。

 ふっ、これだから高身長は。力加減もできないのか。

 心の声が顔に出ないようにしながら、犬歯で今度は噛んでみたところちょうど良いくらいの血が出た。それを薙刀に垂らす。

「血技はかなりのシラを使う。乱用はできないから気をつけろ。それじゃあ、シラを自分の武器に流すことを意識しながら、木に攻撃してみろ」

 あたしは近くにあった木に薙刀を振り翳してみる。刃が幹の半分くらいまで食い込んで止まった。確かに威力は武器庫から選んだナマクラよりも格段に上がっているが、求められていた血技ができた感触はない。グッドウィンも同様のようで、何かを掴んだ様子もなかった。

「血技ができないと、かなり戦闘面においては苦戦を強いられることになる。切り札があるのとないのとでは、心の持ちようも変わる。これからは血技の習得に心血を注げ」

 そう言われたところで、イメージすら湧かない。雲を掴むような感覚だ。平野さんを適当だと言っていたが、この人も大概だ。

 それからもなんとなくで木に薙刀を振り回し続けたところ、高平くんと久我山が帰ってきた。二人は血技ができるか訊こうとしたところで、あまり顔色が良くないことに気がついた。嫌な予感がする。

「お前ら何かあったのか?」

 恐らくここにいた全員が二人の纏う異様な雰囲気に一瞬にして感じ取ったが、代表して皆端さんが尋ねた。あたしは嫌な汗が背中に伝ったのを感じて不快になる。

「ああ、あまり喜ばしくない報告だ」

 あたしはその予感が当たったことに舌打ちしそうになる。この仕事に就いているからといって、自分が死ぬ覚悟が完全にできているわけではない。だから、その可能性が跳ね上がるようなことはできるだけ起きないでほしいと常に願っている。その願いが裏切られるであろうから、舌打ちの一つくらい出そうになるのは当然だ。

 久我山は、あくまで推測の域を出ない、と前置きをした後で先ほど平野さんと話し合ったことをあたしたちに伝えた。

 その話はあたしの予想を遥かに上回るものであった。死の足音が大きくなっていく。

「それが本当なのだとしたら、モタモタしている時間はない。僕らも単体で紫を討伐できるくらいにはなる必要がある。訓練するぞ」

 全員が声を揃えて返事をする。

 あたしはまだ、死ぬわけにはいかない。


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