第二十七話
「みんな、この間はお疲れ様。無事に全員とまた会えて嬉しいよ」
朝に集まって、開口一番に平野さんはそう言った。平野さんは黒との戦いで相当消耗したようで、意識はありながらもあれから三日はあまり思うように動けなかったらしく、その姿を俺たちの前に見せるのは久しぶりであった。
「そんなみんなに労いの意を込めて、プレゼントがあるよ」
「おおー、マジでー!?」
「そう、マジで。だけど、蒼真くんと和泉くんは一つだけね。他の三人は二つあるけど」
落胆の気持ちを隠せずにいると、平野さんが弓、伊良波さんが薙刀、坂出さんが日本刀を持って来た。
「武器を使う人は、今日からこれを使って。武器庫のやつじゃ、そのうち限界が来るからね」
新品の武器を手渡された三人は、感触を確かめるように何度も握りなおしたり、グッドウィンと花道は軽くその場で振り回したりした。
「新しいやつは、シラが伝わりやすくなっているからより高い威力が、少ないシラで出せるようになっているよ」
「平野さん、俺専用の武器って作れないの?」
三人が羨ましくて、ついそんな言葉が不満みたいに口走った。
でも、実際仕方がないと思う。だって、俺は小さい頃はよくおもちゃの剣を振り回していたし、祭りのおみくじではゲーム機を当てる気なんてさらさらなくて、剣とか弓とかを狙っていたくらいなんだから憧れてしまうのもしょうがない。ちなみに家には白虎刀は三本あった。そのどれもがもう俺の手元にはないけど。
「蒼真くんはまずまず武器に触れないから、ちょっと難しいかな。和泉くんだったら、メリケンサックくらいなら作れるけど、いらないよね?」
藤井は迷いなく頷いた。俺と違って他三人に羨望の眼差しをつけてはいなかったので、拳で語り合うのが好みなのだろう。そこら辺のことは、平野さんがしっかりと理解しているという点において、さすが俺らの上司だ。
「それから、これは全員に配るよ」
そう言い終わった後に、平野さんは続けて時計のようなものを取り出した。
「これは、SSBっ呼ばれてるものでピンチになった時にここのボタンを二回押したら救援を要請できるの。これからは一人で戦うこともあるから、敵が多かったり、急に想定よりも強い奴が出てきたり、自分の命が危ぶまれた時にだけに押してね。そうしたらなるべく早く誰かしらを送るから」
平野さんからSSBを受け取り、左腕につけてみる。今まで腕時計とかはつけたことがなかったから少し違和感を覚える。
「基本的にこれは任務以外の時も肌身離さずに持っていてね。別に腕につける必要はないから、ポッケとかにでも入れておいていいよ。ただ、戦闘になった時はポッケだと落とすかもしれないから、そのときはちゃんと腕につけて。これは遵守しないと、被害が拡大する恐れがあるから肝に銘じておいて」
左腕がムズムズするが、俺はSSBを外さずにいた。ここで慣れておかないと、いざ戦闘になった時に気を取られてしまう危険性があるからだ。他の四人も外す人はいないため、恐らく俺と同じ考えだろう。
「昨日の討伐でみんなは、もう訓練生としてじゃなくて正式なCAUの一員となったから、私の役割はここで終わり。後は先輩たちと共に研鑽を積んでいくことになるよ。皆端くんとか、更科ちゃんとか、古谷さんのことね。だけど、古谷さんも今は海外で会議に参加してるから、当分はその二人だけ。いろいろ教えてもらって、強くなってね」
それと……と平野さんは続けた。
「皆端くんと更科ちゃんと挨拶が済んだら、悪いけど蒼真くんと亮くんは私のところに来て、昨日あったことを話して欲しいの」
「了解です」
「うっす」
それだけ言い残して、平野さんは去って行った。
昨日あったこと、か。俺自身、正直あの出来事が現実だったのか曖昧になっている。急に目の前を覆った記憶。あれは本当に俺の記憶なのだろうか。あれは本当にあったことなのだろうか。というか、あれ?どんな内容だったけ?何も、思い出せない。
「ミナハシさんってどんな人なのデスカ?」
グッドウィンの問いかけに、俺は現実世界に引き戻された。
「ん、ああ、そっか、グッドウィンはまだ会ったことないのか。あれだよ、食中毒で倒れた面白い人」
「誰が面白い人だ」
頭を強い力でチョップされて、頭を抑えながら後ろを向くと、皆端さんと見たことのない女性がいた。恐らく彼女が更科さんなのであろう。髪色は茶髪で、表情も明るくて快活そうな人だ。
「皆端恭吾だ」
「更科奏です。よろしくねー!」
その流れに便乗して、各々が名を名乗った。
俺が名前を言ったときだけ、更科さんが興味深そうに見つめてきて、少しだけ気まずかった。
「ねぇねぇ、高平くんって本当に半人間なの?血見せてよ、血!」
目を輝かせながら、更科さんは顔を近づけてそうお願いしてきた。俺のCAUでの初対面は、あまり良いものではなかったからそれが標準になってしまっていたために、少々戸惑ってしまった。いや、この人が異常なだけなのかもしれない。
俺は軽く指を噛んで、血を見せる。変わらずどこか青みがかった血の色だった。
「おー、ほんとだ!ほんとに半人間なんだ!」
「もういいだろ、更科。その辺にしとけ。あの高平が引いてるから、勘弁してやれ」
「え、ああーごめんごめん。私って珍しいものに目がないからさ」
皆端さんからの助け舟によって、俺は解放された。別に怖さを感じたわけではないけど、圧は感じた。好奇心旺盛なのは良いことだと思うが、ここまで来るとどこかで弊害がありそうだ。
「先輩方、早々に悪いんですが、俺たち平野さんに呼ばれているので失礼します」
俺を後ろから追い越す際に「ほら、早くしろ」と言って、久我山はその場を後にした。俺も先輩たちにその旨を軽く伝えて、それについていく。なんだか、初めてここに来て武器庫に案内された時のことを思い出した。
そういえば、カンチョーなんかしてたな。久しぶりにやってみるか。久我山もバレなければやっていいみたいなこと言ってたしな。
俺は前回の反省を生かして、違和感が出ないように少しずつ近づいていった。
「おりゃっ!!」
「いって!このガキが!」
見事に成功したカンチョーのお返しとして、久我山は後ろ蹴りをかましてきたが俺はそれを華麗に避けた。
「急に何すんだ、ガキが!」
「言っただろ?カンチョーしたくなるって。それに久我山も隙があったらしていいって許可しただろ?」
久我山はそれを思い出したのか、苦い顔をした。
「くそ、油断してた」
悔しそうにそう吐き捨てる久我山に、俺は達成感を覚えた。あの警戒心がめちゃくちゃ高い久我山から一本取れたことは、誇れることだ。
後でみんなに自慢しよ。
「さっさと行くぞ。お前が前歩け」
「へーい」
俺は手で防御をしながら歩くという、傍から見たらなかなかに奇妙で滑稽な姿を晒しながら、平野さんの元へ向かった。




