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第二十四話

繰り出された半人間の左拳を掴んだ。そのまま左手で腹に喰らわせようと力を込めた時、体が少し浮いた。

半人間が掴まれた左手を使って、俺を投げようとしている。咄嗟に左手を離すと、すかさず視界の左からまたも拳が迫ってきた。

やばい。

そう思った時だった。半人間の左目に矢が突き刺さって、紫色の血が舞い、その頭部が痺れるように軽く震えた。

今だ!

俺は全身全霊の力を込めて、顔面をぶん殴った。半人間は十メートルほど後ろに吹き飛んだ。

 ここで殺す!

 地を蹴って、その距離を詰めている途中に、路駐してあった車の横を通った。その瞬間に、俺は自分の目を疑った。

 そこには怯えて、膝を抱えている男性がいた。半人間と今の今まで戦っていたからわかる。この人は紛れもなく人間だ。

 俺は状況を忘れて、唖然としてしまった。

なぜここにいる?逃げ遅れたのか?

そんなことを考えていたら、いつの間にか立ち上がっていた半人間からの猛攻に襲われた。俺は防ぐことができないと判断して、後ろに下がることでそれを回避した。

「久我山!車の後ろに人がいる!」

「なっ!本当か!?」

「ああ、本当だ!だから、俺がこいつを引きつれる。その隙久我山が避難させてくれ!」

 言い終わったときに、半人間が逃げ遅れた人の方を見た。俺は猛烈に嫌な予感がした。

 半人間はその男性の首を掴み、こちらに見せつけてきた。それはさながら、引きこもり犯が行う人質作戦のようだった。

「こいつ、知性があるのか!?」

 驚いた声で久我山は叫んだ。

「普通はないのか?」

「ああ、今までそんな半人間はいなかったはずだ。お前以外では恐らく初めてだ」

 俺は生唾を飲み込んだ。

 元は人間であるのだから、知性があることはおかしくはない。何より、俺がその当人なのだからそのことはすぐに嚥下できるはずなのに、それはできなかった。

 半人間はさらに首を掴む手に力をこめる。男性の苦しそうな声が漏れ出る。

「どうすればいい?」

 俺は全てを久我山に丸投げした。こういうのは俺よりも久我山の方が適任だ。俺はそれに従って、半人間を倒せばいい。適材適所というやつだ。

 俺が久我山の元に近づいて、作戦を話し合う時間も余裕もない。そんなに悠長にしていたら、男性の首がちょんぎられてしまう。

「確証はないが、俺らの会話を理解している可能性は排除しきれない。だから、とにかく好きなように、がむしゃらに行け」

「いいのか?そんなことしたら男の人が……」

「大丈夫だ。俺を信じろ」

 先ほどから、久我山の雰囲気が変わっている。憑き物がとれたような、何かが吹っ切れたようなそんな感じだ。それが今はとても頼もしく感じる。

 そんな久我山がそう言うなら、存分に俺の好きなようにいかせてもらう……!

 重心を下げて、踵を浮かせる。

 一瞬だ。一瞬で距離を詰めるしかない。俺がトロかったら、男性が死ぬ。男性の生死は俺にかかっている。

 一発勝負。ミスは許されない。いいじゃないか。シンプルで分かりやすい。

 俺は一気に距離を縮める。その間に左脇の下を矢が通過していった。

 スゲェ、技術じゃねぇか……! 

 矢は男性を掴んでいた半人間の右腕に命中した。痺れが全身に回っているのか小刻みに震えている。

 俺はその隙を見逃さず、すかさず顔面に膝蹴りを喰らわせた。

 半人間は後ろに飛んでいったが、俺の想定通りの展開とはならなかった。この半人間の目的は人を殺すことだったのだ。それも、できるだけ多く。

 男性は吹っ飛ばされている最中の半人間に投げられて、後頭部を電柱に強打した。そのまま床に突っ伏して、赤い血が徐々に広がっていく。男性はピクリとも動かなかった。

 俺は目の前に瀕死の半人間がいるのを忘れて、男性へ駆け寄ろうとした。だが、後ろからの怒号が俺を止めた。

「今しかない!高平、殺れ!」

 俺は履き違えそうになった目的を再び、半人間を殺すという本来のものに修正した。

 俺は半人間の顔面に精一杯のシラを込めて、殴ろうと腕を上げたときだった。

「ヤ……メテ……」

 半人間が喋った。殺されまいと、今できる最大限の抵抗を示してきた。

 俺は改めて、目の前の化け物が見た目はただの人間でさらには、もともとが人間で、この日本で日々を謳歌していたのだと、思ってしまった。それが俺の判断を鈍らせた。

 だが、反撃されることはなかった。いつの間にか俺を追い越した久我山が、ナイフを心臓に突き刺したからだ。

 半人間はコレティスと同じように、灰となって宙に舞っていった。

「半人間は人間じゃない。躊躇うな。さもなければ、お前が死ぬぞ」

 そんなことわかっている。だけど、俺には……

「モタモタしている暇はない。お前はあの男の人の生死を確認しろ。俺は平野さんのがどうなっているか確認してくる」

 そうだ。男の人がまだいる。まだ生きているかもしれない。

 慌てて、男性の元に駆け寄る。頭が割れて、大量の血が流れている。

 呼びかけてみるが、返事はない。慎重に腕を取って、脈を確認する。              まだ、ある…!

 俺は急いで、救急車と坂出さんに連絡をした。

「おい、おっさん!今、救急車呼んだから!あとちょっとだけ頑張れ!」

 俺の必死の叫びが届いたのか、男性が何かを言って。だが、それはあまりに掠れていて、あまりに小さくてよく聞こえなかった。

 口元に耳を近づける。

「ころ……して……く……れ」

「…………え?」

 殺してくれ。確かに男性はそう言った。

「あとちょっと耐えれば助かるかもしれない!あとちょっとだけ!」

「いた……い……。くる………し…‥い。もう、ころして……くれ……」

 俺は、頭が真っ白になって倒れそうになった。

 正しい判断は何なのだ。このまま助けが来るまで男性に苦痛を耐え忍んでもらい、一命を取り留めるという細い糸にしがみつくのが良いのかここで男性を楽にしてやるのかのが良いのか。

 男性はずっと辛そうた。顔を歪めることすらできていない。

 俺は心を殺した。

 そして、男性も殺した。

 これが正解だったのだろうか?俺は正しい行動をしたのだろうか?

 一人の男性の命を奪った。まだこの世で生き続けられるかもしれない可能性のある人の未来を奪った。

 俺は半人間を殺すことを躊躇った。その結果、俺には半人間を殺すことができなかった。

 俺は人間を殺すことを躊躇った。その結果、俺は人間を殺した。

 俺は倒さなければいけない存在を殺さなかった。俺は守らなければいけない存在を殺した。

 美しいほどの対比に、俺はこの世界の残酷さが身に沁みてわかった。

 心の中で何かが崩れていったのを感じた。それは修復されることなく、穴となって俺の心に居座り続けている。

 俺は生きている心地がしなかった。


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