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第二十話

 車の中には運転席には伊良波さんじゃなくて、眼鏡もかけていない男性、後部座席には久我山がいた。

 俺が乗り込むと同時に、助手席の扉が開かれて平野さんが座った。

「平野さんも行くんすか?」

「うん。念の為ね」

 スイカを食べながら、緊迫感のない声で平野さんはそう答えた。

 運転手の男性は初対面である俺に坂出と名乗ってから、車を発進させた。

「今回は私たちが今向かっている場所に半人間、和泉くんとスティーブンと円香ちゃん、それから亮くんは知ってると思うけど、更科奏っていう銃使いの女の子が向かっている場所にコレティスが出現。どちらも推定緑。半人間の方は既に二名の死亡が確認されている。コレティスの方は今のところ被害の報告はなし」

 淡々と詳細を語る平野さん。俺は前回戦った緑を思い出して、思わず背筋を伸ばす。一方の久我山は冷静であった。

「私たちが到着するまで、パトロールしていた戦闘経験がある警察官数名が時間を稼いでくれているから、そこに合流した後、私たちが半人間を撃退。いいね?」

俺と久我山は了承の意を伝える。初めての半人間討伐だ。気を抜かずにいかなければ。気合いを入れるために両頬を叩く。久我山は突然の俺の行動に一瞬だけ驚いたようだったが、すぐにいつもの様子に戻った。

そして、現場に到着した。

そこには、少し遠くに二つの遺体と、すぐ近くにひとつの警官の死体があった。そして、その先には弾丸を受けているにも関わらずに、その体から一切の血を流さない、見た目的には普通の人間と遜色ない半人間がいた。

 俺らは警察官の前に出て、その役割を変わることを伝える。彼らは警戒しながらも後ろに下がっていき、俺らに討伐を託した。

「うん、大丈夫。いけるね」

 余裕綽々といった様子で、平野さんは俺らよりも二歩ほど後ろに下がった。

「この半人間は二人で倒して。私はいざとなった時にしか加勢しないから」

「マジすか……」

俺は苦笑いをしながらも、前にいる人間の姿をした半人間から目を離さないでいた。

「久我山、行くぞ!」

「ああ……!」

 俺は前衛として、さらに前に出る。久我山は弓を構えながら、数歩後ろに下がる。

 俺が足に力を込めて、一気に距離を詰めようとしたときだった。

 チリーン

 そんな鈴のような高い金属音が耳朶を打った。その刹那、目の前に知らない光景が広がった。

 ここは、どこだ。なぜ、色がないのだ。目の前にいる二人の男女は一体……。ああ、死んでいる。この二人は床に突っ伏して、大量の血を流しながら息絶えている。

 あ……。

 そうだ、この二人は俺の両親だ。写真越しでしか見られなかった俺の生みの親だ。その二人が倒れている。

 どうして?

 人影がもう一つあった。その人は生きている。誰なのかはわからない。でも、両親を殺した強盗ということだけは理解した。

 怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわい

「ああああ!!」 

 色が戻った。場所だってどこだかわかる。

 今のはなんだ……?あれは俺の経験した現実なのか……?

「おい!どうした!何があった!」

 後ろで大声を出す久我山の存在で俺は現在に戻ってきたのだとようやく認識した。嫌な汗が大量に流れている。頭が痛い。心臓の鼓動がありえないくらいに速くなっている。

「高平!前見ろ!」

 その声で反射的に顔を上げると、腹に全身がしびれるほどの衝撃が走った。殴られたのだと理解するのと同時に、勝手に体が半人間から離れていく。碌に受け身は取れずに、全身に痛みを伴いながら、地面に転がる。

「平野さん!」

 久我山が縋るようにそう叫んだ。

「ダメ。悪いけど、助けられない。いる」

 以前に聴いたことあるような声色で、平野さんはそれを拒んだ。そのとき、コレティスが現れた。

 それを見た瞬間に畏怖が全身に駆け巡った。本能が逃げ出せと、そう警鐘を鳴らしている。あれは目の前にいる半人間とも、前に戦った紫に近い緑のコレティスとも比べ物にならない。これは俺にだってわかる。コイツは間違いなく、黒だ。

 先ほどまで叫んでいた久我山も言葉を失っている。そんな中で平野さんだけはゆっくりと黒に向かって歩いて行った。

「私はあのコレティスを倒してくる。だから、半人間はお願いするよ。絶対に死なないでね」

 俺は痛む全身に鞭を打って、立ち上がる。平野さんはあんな恐ろしい相手に一人で立ち向かうのだ。こんな弱っちいやつなんかに殺されて堪るか!

「わりぃ、久我山。もう大丈夫だ」

「何があったかこの後、聞かせろよ」

 俺は手首と足首をぶらぶらさせる。さっき起こったことは、今考えるべきではない。今は目の前にやつに、集中しろ。

 俺は半人間に向かってと全力で走る。屈んで攻撃を躱して、腹に渾身の一撃をお見舞いする。しかし……

 かってぇ!!

 人間のそれとは思えない硬さで、殴ったこっちの拳がジンジンと痛む。半人間は少しよろめいただけであった。その後に繰り出された蹴りを何とか左手一本で守る。

 その攻撃は重く、燃えるような痛みに顔をゆがめる。シラがなかったらもしかしたら骨が折れていたかもしれない。

「久我山!弓どうした、弓!」

「人が前にいるときに射た経験がないから、タイミングがわからないんだ」

 確かにそうか。まだ久我山は体術をメインに訓練していたから、まだ弓を使って援護射撃するということに慣れていないのだ。それに、弓道では特に、人が前にいる時には矢を放たないように、気を遣っていただろうから尚更だ。

 でも、俺は知っている。

 夜、寝静まった頃に俺を起こさないように静かに寮を出て、一人弓の練習に励んでいることを。ただひたすらに何十回も何百回も的に目掛けて弓を引いていることを。それなのに、その努力をひた隠しにして、おくびにも出さないことを。

「久我山!俺のことは構わずに、自分のタイミングで矢を放て!」

「でも、お前に刺さったら……」

「大丈夫だ!」

 俺は急所以外であったら、刺さっても簡単には死なない。それに……

「俺はお前を信じてる!」

 俺はそう言い放って、再び半人間に挑んだ。

 


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