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第十八話

「よーし、ようやく俺の番だな!俺は藤井とグッドウィンのどっちと戦えばいいんだ?」

 やっと回ってきた俺の出番に、心躍らせる。肩をブンブン回して温める。藤井とやったら、拳同士の戦いとなり学べることも多くなるはず。グッドウィンだったら武器を持っている敵と……。いや、基本的にコレティスが武器を持つことはあり得ないから意外と無意味か?でも、半人間だったらもしかしたら……?

「じゃあ、次は和泉くんと蒼真くんって言いたいところだけど、お昼も近いし一時中断にしようか。お昼食べてから再開するから、それまでしっかり体を休めてね」

 平野さんの言葉で、熱くなっていた心が急速に冷めていった。ただ、腹が減っては戦はできぬという言葉もあるくらいなのだから、空腹を満たすことも必要だ。

 五人で食堂に向かおうとすると、後ろで何かを思い出したかのような声がした。

「そうだ、伝え忘れていたんだけど、今食堂使えないんだ」

「え!?なんでですか?」

「食中毒になった人がいてね。一時的に閉鎖しなくちゃいけなくなったの。だから、悪いんだけどコンビニとかで済まして欲しいの」

 最近は暑い日が続いて、そういう菌の増殖が活発なのだろう。

「ちなみに誰が食中毒になったんすか?」

「皆端くん。多分、今頃は医務室のベッドで横になっているんじゃないかな?」

 なんでだろう?すごいその姿が想像しやすい。

 そんなことを考えていたら、何か焦ったように久我山が声を上げた。

「ちょっと待ってください、平野さん。ここからコンビニって下手したら三キロくらいありますよね?」

「そうだね、そのくらいあると思うよ。でも、トレーニングの一環だと思ってさ」

 平野さんがイタズラに笑うその傍で俺たち五人の間に重苦しい空気に包まれた。誰か行けよ、というように幾つもの視線が交差する。

 そして次第にその視線は花道に集まった。

「いやいや、あたしは行かないよ!それにほら、あたしは体が小さいから不必要な負担は避けなきゃいけないの!」 

「それを負担と感じないためのトレーニングなんだから、花道が適任だな。体力つけろってことだ」

 久我山が好機とばかりに、詰め寄る。俺は大人気ないその様子にちょっと引いた。

「ここは公平に、じゃんけ……。いや、あたしトランプ持ってるからポーカーで勝負しよう!ポーカー!」

「これだけのためにポーカーするのか?」

「ジャンケンよりもじっくりできるからハラハラするじゃん!それに一番役が強かった人だけが抜けるってことにすれば、残った人の曇っていく顔が見れて最高よ!」

 花道は狂ったような顔つきになった。俺はそれを見た瞬間に察した。

 花道円香はギャンブル好きだ、と。

 テーブルと椅子は使えるとのことだったので、部屋にトランプを取りに行く花道以外は食堂に集まった。藤井なんかはくだらないと言って参加しなさそうと思っていたが、昼ごはんを買いに行くのは嫌らしい。そして、グッドウィンは自信ありげな様子であった。

 花道がトランプを持ってきて、シャッフルさせ始めた。そしてそれを配ろうとした時に、久我山がそれを止めた。なんでも、花道はイカサマする可能性があると考えたようで、この中で一番中立そうな藤井にその役目を任せた。花道が舌打ちをしたのが、隣にいた俺には聞こえた。

「やっぱり一人ずつ抜けるのは流石に長い。昼飯を食う時間がなくなる。だから、弱かった二人以外は抜けるにするぞ」

 久我山の半ば強引の提案に、花道は不満そうに声をあげたが、他の人が久我山に賛成し、その提案自体も極めて正論だったため渋々認めた。

 ということで、ポーカーは二回戦だけの対決となった。

 藤井が全員に五枚ずつ配って、俺は自分の手札を見た。Kのスリーカードだった。俺はニヤけないように必死で表情筋を制御することに努めた。

 全員の手札の入れ替えが終わり、ショーダウンとなった。

「Kのスリーカード!!」

 俺は勝ちを確信して、元気よくそう言い放った。

「ストレートだ」

「フラッシュ」

「フルハウスデス」

「……ブタ」

 矢継ぎ早に明かされる俺より強い役に俺は理解が追いつかなかった。落ち着け。

 俺はスリーカード。久我山がストレート。藤井がフルハウス。グッドウィンがフルハウス。花道はブタ。

 あれ、ってことは……

「弱いのはハナミチさんとタカヒラさんデスネ?」

「「いやーーー!!」」

 俺と花道が同時に悲鳴を上げた。

 Kのスリーカードで負けるって、コイツらどんだけ運いいんだよ!

 運命の勝負の対戦相手となった花道は、最初の地震はどこへいったのやら、血色が悪くなっていった。俺もそうなっているかもしれない。

「ねえ、高平くん。提案があるんだけど」

「なんだ?」

「ここからは三回勝負にしない?」

 俺はその提案に素直に頷こうとした。しかし、その瞬間だった。

「長い。却下だ」

 冷たく一蹴する声がした。花道はすかさず言い返した。

「黙らっしゃい、久我山!敗者は引っ込んでろ!」

「革命でも起きているのか?ともかく、時間短縮のために下から2人が戦うことにしたんだから、三回勝負にしたら意味無くなるだろ」

 花道は黙り込んでしまった。

この久我山亮という男は敗者に慈悲の心がない。正論パンチを容赦なく繰り返してくる冷徹男だ。

俺は腹を括って、一発勝負に気合を入れた。 

「ちなみに、三人はどっちが勝つと思う?」

 俺の問いかけに、久我山とグッドウィンは迷いなく言った。

「花道」「ハナミチさんデス」

「ふ、藤井はどうだ!?」

「オレは………貴様だ」

 真っ直ぐにこちらの目を見てそう言ってくる藤井に少々面食らった。勝つと思ってもらえたのは嬉しいはずなのに、意外性が大きくて戸惑ってしまった。

 けど、そうか……。藤井は俺に……。

「よし、任せとけ藤井!ぜってーに勝つ!」 

 俺は自然なほどのサムズアップで、藤井の期待に応える。

そして、例の如く藤井が俺と花道にトランプを配った。俺の手札は3のワンペアであった。だが、負けを確信するのにはまだ早い。手札交換でもう一枚3が来れば、十分戦える。

しかし、現実は無情だった。俺は絶望しながら花道の顔を見た。

何も読み取れなかった。強いのか弱いのか、そんなのは全く顔に出ておらず、ただ無表情でトランプを見下していた。

そして、運命のショーダウン。

「3のワンペア」

 俺は小さくそう告げた。花道はまだ手札を公開しなかった。

 俺は速くなる鼓動と共に、花道がブタという一縷の望みに賭けた。

 花道はゆっくりと口角を上げた。

「4のワンペア」

 時間が止まったような感覚だった。負けた、そのことを認識するのを脳が拒んでいるのだろうか。

「よっしゃーー!!!ザマァ見ろ高身長が!!!チビに負けたんだぞ!!!」

「お前、女がしちゃいけない顔してるし、キャラが崩壊してる」

 久我山のツッコミを無視して、悪役の如く高笑いをして勝利の味を噛み締める花道の横で、俺は頭を抱えて机に伏せるしかできなかった。

 三キロ先のコンビニに行かなくてはいけないのか……?三キロ??そんなのもうコンビニエンスじゃない!インコンビニエンスストアに改名しろよ!

「タカヒラさんの負けデスネ。笑止千万デス」

「なんで煽るときだけ四字熟語の使い方正しいんだよ!?」

 俺が肩を落としていると、その肩を叩かれた。振り返ると、ゲスの笑みを浮かべた花道がいた。

「じゃあ、よろしくね。た・か・ひ・らくん」

 もうこれが花道だと思えなかった。いや、もしかしたらこれが本性なのか?それともギャンブルが変えてしまったのか?

 いずれにしても、俺はこれから先、ギャンブルはやらない。そう心に固く誓った。


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