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第十四話

「平野さん、助けていただきありがとうございました。来てくれなかったら正直、危なかったです」

「いや、どうだろう。皆端くんならもう少し戦えたと思うよ。それに和泉くんも蒼真くんもいたし、そのまま私が介入しなかったら結果はどうなるかわからなかったよ」

 軽い応急処置によって包帯が巻かれている皆端さんは、行きと違って助手席を平野さんに譲り、後部座席へと場所を移した。これで負傷者三人が横並びとなった。といっても、俺の怪我は順調に治ってきている。

「僕の見立てでは、あのコレティスは緑だったと思うんですが、平野さんはどう感じましたか?」

「私も緑だと思う。けど、あれはもう紫の領域に片足を突っ込んでいたね。あんなのが白討伐に紛れていたなんて、少し怖いね」

 今回は平野さんが駆けつけてくれたから、ことなきを得たが、もしそうでなかった場合、果たして生きて帰って来れたのだろうか。少なくとも五体満足での帰還は不可能だっただろう。

 これが死と隣り合わせのCAUなのだ。生半可な覚悟ではすぐに命を落としてしまう。

「それより、僕が一番気になるのは、高平、なぜ傷がもう治ってきているんだ」

 恐ろしいものでも見るかのような、この視線。食堂で花道とグッドウィンに向けられたものと同じだ。俺の心を容赦なく引き裂くこれは何度されても慣れることはない。

 平野さんを横目で見ると、軽く頷いてくれた。俺が半人間であるという暴露をしても良いという合図だ。

 俺は一つ息を大きく吐いて、気持ちを落ち着ける。カードを切るタイミングは今が最良だ。そうわかっているのにどのような反応をされるかが怖くて、唇が震えた。

 しかし、ダンマリを決め込むつもりはない。俺は意を決して口を開いた。

「それは、俺が、半人間だから、です……」

 俺は身構えた。憎悪の対象として認識されるかもしれないし、横にいる藤井から何かしらのアクションを起こされるかもしれない。それほどまでに俺は人間にとって、CAUにとって異質で、危険分子なのだ。

 だが、俺の想像と現実は異なった。誰も言葉は発しないと言う面では一致していたが、ただそれだけだった。納得しているような、なんとか嚥下しようとしているような、何も起きない時間だけが流れていく。

 その沈黙を破ったのは、藤井であった。

「……敵なのか?」

「………え?」

「貴様は、敵なのか、と訊いている」

 俺は予想外の質問に思考を停止しそうになったが、なんとか踏みとどまった。ここで黙り込むとあらぬ方向に誤解されかねない。

「いや、違う。俺はCAUの、人間の味方だ」

 真剣に、前を見ている藤井の目を横から力強く見つめて、言った。

「そうか。ならいい。オレらを裏切ったら殺すだけだ」

「……ああ、そうしてくれ」

 皆端さんが小さく笑った。

「はは、高平は半人間だったのか。通りで。こんなにしっかりと会話ができる半人間もいるんだな。富良野さんに隅々まで調べられたんじゃないか?」

「ああ、まあ、そうっすね」

 苦笑いで、答える俺の心は安堵で満ち満ちていた。俺はそのお陰が、ある決心がついた。

「平野さん、お願いがあります」

「うん、わかってる。いい機会だし、みんなに蒼真くんが半人間であることをバラしちゃおうか。そっちの方が気が楽そうだしね」

 口角を緩めて、バックミラー越しに目が合った。俺は躊躇うことなく首を縦に振った。


「じゃあ、みんな。今日はお疲れ様。皆端くんと和泉くんは富良野のとこで治療を受けてね。そこから完治するまでは討伐参加はお預けで。蒼真くんは円香ちゃんとスティーブンにどうやって説明するか考えておいて。他の人は私がやるけど、その二人だけは直接伝えてあげて」

 全員が車から降りたことを確認した後に、平野はそう言った。言及された三人は各々頷いて、それぞれの目的地へと歩いて行った。

「平野さん、本当に高平くんをこのまま野放しにするつもりですか?」

 伊良波は不安そうな声でそう尋ねる。

「伊良波さんは、蒼真くんが危険な存在だと思うの?」

「正直、私は怖いです。私には他の人と違って、対抗する力はありませんので、その気になられたら簡単に死んでしまいます」

「そうだね。でも、蒼真くんが普通の半人間とは異なっているのは伊良波さんだってもうすでに感じているでしょう?彼には理性があって、知性があって、それにコレティスに対して憎悪も敵意も持てる。私もそんな半人間は今までで一体しか出会ったことはないよ」

 少しの葛藤の後に、伊良波は諦めたようにため息を吐いた。

「わかりました。私も全力で彼をサポートします。ただ、もし暴れた時はしっかりと処分をお願いします」

「それは心得ている。ただ、その時私は蒼真くんを殺せることはできない気がする」

「あなたほどの実力の持ち主なら心配入りませんよ」

「そうだといいけど」

 平野は思い出したかのように、小さく声を漏らした。

「大阪支部と本部には蒼真くんのことはまだ黙っていて。下手したらこちらに乗り込んで力技で彼を殺そうとするかもしれないから」

「もしなんらかの形で知られてしまった場合、報告をしなかったらまずいのではないですか?」

「そのときはつい最近まで気づかなかったってことで、誤魔化すよ。それが無理だとしてもクビになることはないしね」

「……また古谷さんに怒られそうですが、承知しました」


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