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第十一話

 車内の中では、沈黙が場を支配していた。横には窓枠に肘をついて外を眺めている藤井がいる。

 白が現れた。俺らはその現場に向かっている真っ最中だ。俺は今回、見ているだけ。戦うことは禁じられているし、俺もその気はない。平野さんは藤井と仲良くなった方が良いと言っていたが、俺は藤井にとって異分子でしかない。そんな奴が馴れ馴れしく話してきたところで、さらに俺への当たりが強くなるだけであることは、火を見るよりも明らかである。

 今はとりあえず、俺と言う存在を認めてもらうためにも波風を立てないように大人しくするべきであると判断した。それが吉と出るか凶と出るかは、未来にならないと誰も知ることはできない。

「そろそろ到着します。準備してください」

 運転手の伊良波さんの言葉に藤井の雰囲気が少し鋭さを増したのを感じた。初の討伐に緊張しているのが、俺から見てもわかる。一方の俺は授業参観で手を上げて必死に頑張っている子を見守る親のような気持ちだ。主役になることはない。

「着きました。私は終わるまでここに待機しております。健闘を祈ります」

 その言葉を皮切りに、俺と藤井は各々近い方のドアを開いて外に出る。助手席から監督役として、皆端と名乗った人も降りる。その背中には斧が担がれている。

「よし、入るぞ。準備はいいか、藤井、高平」

「「うっす」」

 俺らは声を揃えて返事をした。そのことを不快に感じたのか、藤井は舌打ちをして俺の方を見向きもせずに前へ進んで行った。

 現場はなんてことないただの街中であった。警察による交通規制のおかげで、周りには人っ子一人いない。

 藤井と皆端さんが横並びで歩くその後ろで、俺はポケットに手を入れて緊張なんてものからは程遠い心持ちで、それについていく。

 そして、ようやくコレティスは姿を現した。白色で俺が初めて見たコレティスとは同類なのか疑ってしまうほど、小さくて弱そうであった。

 藤井は、半歩だけ後ろに下がったが、皆端さんは怯むことなく真っ直ぐコレティスを見据えていた。

「よし、こいつだ。白だからそんなに緊張しなくていい。死ぬこともほとんどない。任せたぞ、藤井」

 そう言って余裕そうに背を向けて、皆端さんは俺の隣に並んだ。

 俺と同時に、藤井が駆け出した。ただ、俺の目から見てもわかるくらいにそのスピードは鈍かった。そこから繰り出される拳もそこら辺の人に毛が生えたくらいの程度であった。

「言っただろ、藤井!緊張するな!緊張すればするほどシラの回りが悪くなる!実戦じゃなくて訓練だと思え!」

 藤井は一度、距離を取って大きく息を吐いた。そして、自分の頬を両手で勢いよく挟み込んだ。その瞬間に、纏っている空気感が変わった。

「高平、お前は随分と大事に扱われているんだな」

「え?」

「平野さんに、絶対に死なせるなって言われててな。もともと平野さんが連れてきたし、肩入れする気持ちもわかるが、白討伐にしては異常なほどに真剣だったんだわ。ちょっと怖すぎて、今日の夢に出てくるかもしれん」

 集中力を研ぎ澄ましている藤井の後ろで、何でもないような雑談をしてくる皆端さんに俺は調子を狂わされたような気持ちになった。

 藤井は俺らのことを気にかけずに、コレティスに突進した。その速度は先ほどと比べ物にならないくらいに速かった。そして、その勢いを殺すことなく右手でコレティスの顔面を殴った。

 コレティスは後ろに豪快に吹っ飛んで、そのまま塵となって消えて行った。

「え、呆気な!?」

 思わず口からそんな言葉が漏れ出てしまった。それに隣の皆端さんは鼻で笑った。

「白はこんなもんだ。見えていたらシラの知識なんていらなくても勝てる。一人前になるための登竜門みたいに扱われるが、みんな簡単に倒しちまって慢心するんだ。その結果、死んでいくやつを僕は何人も見てきた。お前たち二人はそうなるなよ。さて、帰るか」

 来た道をあくびをしながら戻っていく皆端さんには、俺らの上司のような威厳さはまるでなかった。

 そのとき、どこからか大きな音が轟いた。そして、その数秒後にビルの陰から白よりも三倍くらい大きい、目測で二メートル半はあるコレティスが現れた。体には無数の目があり、その一つ一つが忙しなく動き続けている。腕は左右二本ずつの計四本。脚は二本。上下の不釣合いさが、悍ましい。

 皆端さんは歩みを止めて、斧に手をかけた。


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