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ハイネ到着

四人が夕焼けの色に染まる小さな丘を登ると大都市が一望できた。

「ほんとだ、ここからだとよく見える」

西日が眩しいベルサーレは手の平で額にひさしを作って背伸びする。

「私のいった通りなのです」

眼下に城壁に囲まれた旧市街と城壁の外に広がる新市街が広がっていた、それら全体が傾きかけた太陽にオレンジ色に照らしだされている。

城壁の内側に石造りの立派な大きな建物が幾つも重なる、街の北側に聳える巨大な城と四本の尖塔が威容を誇る。


「城壁の外に街があるな、テレーゼでは珍しい」

ルディガーは感慨深げだ、テレーゼ王国全盛時代は各地の都市の周囲に市街地が広がっていたが、戦乱の中でそれらは破壊され消滅していった。

ハイネはテレーゼ王国時代に王都だった大都市で全盛期の面影は失われたが今でもテレーゼ第一の大都市とされる。

王家が滅んだ今は大商人や各種ギルドや官僚貴族達によるハイネ評議会による自治都市となっていた、ハイネ評議会の傘下に治安維持や防衛を担う軍隊まで整備しているのだ。


「大きな街だ、ラーゼよりもずっと大きい、アウデンリートより大きいかも」

ベルサーレはいくぶん興奮気味だ。

「まだ時間に余裕がある、宿をとってからハイネの見物でもしようではないか?」

ルディガーが三人を見渡しながら提案する。

「私が案内いたしますよ」

コッキーがルディガーに申し出る、身長に差があるので彼を下から見上げる形になる。

「コッキーに頼もうか」

「ハイネの情報を把握しておきたいですね、私からもお願いします」

アゼルもそれに賛同した。

「まかせてください!!みなさん」


四人はそのまま丘を降りる、街に近づくにつれ城外の家並みがかなり粗末なのが見えてくる、ハイネが安定している為に移住して来た者達が城外に家を構えていた、だが彼らが簡単に生活できるわけではない。

「城壁は8メートルほどか?」

ルディガーが城壁を観察した、どうしても軍事的に見てしまう癖が抜けないのだ。


「うわお」

ハイネの東の城門を抜け中に入るとベルサーレが叫ぶ、ここ二年ほど森で生活していたので大きな町は久しぶりなのだ。

「大きな街です、ベルさん」

「若旦那様、さっさと宿を見つけて街を見てまわりましょう」

「さんせいだ、コッキーどこかいい宿無い?」


「そうですねー、泊まった事ありませんが、真ん中ぐらいの宿なら知っていますです」

「まあそのぐらいで良い」

ルディガーは鷹揚に応じた、だがベルサーレがルディガーの裾を軽く引っ張った、彼の財布を握っているのは彼女なのだ、彼女の顔を見てたちまち苦虫を噛み締めたような顔になる。


「ベルさんは本当に小間使いなのでしょうか?」

コッキーはまた疑問を新たにしたが、小さな声なので聞こえない、たぶん。

「えーここから一番近いのがこちらです」

コッキーの案内で東門から程近い東西を貫く大通りから少し北に入った庶民的な商業街の『ハイネの野菊亭』と言う名前の宿屋に案内される。

「地味ですが評判は良いみたいです」

「二部屋取れたらここにいたしましょう旦那様」

「おう、それで良い」

ルディガーは適当に応じた。


運良くその宿で二部屋確保する事ができた、しばらくこの宿が拠点になるだろう。

「みなさん夕食の前に街を見ておきましょう、時間が無いのですぐ出る準備をしておいてくださいね」

慌ててアゼルは精霊通信盤の設置を急ぐ。

「コッキー僕たちも部屋を見ておこうね」

「わかりましたです」

「ねえアゼル鍵を渡して」


さっそく二人は部屋に向かう、ベルが鍵を開けると部屋は飾り気が無く調度や絵画など目を楽しませるものは何も無い、ただ掃除は行き届いていた。

ベッドも質素なベッドが二つに小さな木の丸テーブルがあるだけだ。

ベルサーレはは鼻をすんすんとさせながら臭いをチェックしている。

「清潔でいい部屋だ」

彼女は『ハイネの野菊亭』に合格点を与える。

そして窓から外を眺めると、小さな通りの商店街はこの日最後の買い物客で賑わっていた、閉店が近いのか野菜や肉の安売りの声が聞こえてくる。

「おーい、二人共いくぞ!!」

二人はルディガー達の部屋に慌てて向かう。


小さな商店街に出た一行は人混みに揉まれながらハイネを東西を貫く大通りに向かう。

「そこのお嬢さん大根はどうだい?」

ベルサーレは露天の商人に適当に愛想を振り撒いて通り過ぎる。


「ルディどこ行こうか?」

「そうだな、コッキーこの街には魔術を研究する処とかあるかな?」

「えー評議会がやっている魔術学校があります、あと魔術のお店が集まっている通りがありますよ」

「ならば近い方から案内を頼む」

彼女の案内で中央広場を貫き東西に伸びる大通りを西に進む、通りの両側は二階階建ての建物が軒を並べていた。

ベルサーレは好奇心にかられキョロキョロと当たりを見回す。


一行が町の中心の大広場まで来ると、視界が大きく開け街の北側にある巨大な城が見える、城の周囲を囲む高さ12メートル程の内壁が威圧的に立ち塞がり、大城郭と城の四隅に立てられた四本の尖塔が目をひいた。

尖塔は円筒形で三角錐の細長い屋根を支えて空高く聳え立っている、その塔は大陸有数の高さと言われテレーゼ王国の自慢の建造物だ。

その城こそがテレーゼ国王の居城だったハイネ城で今は評議会の管理下になっている。

「そこの大きな建物が評議会です、もともとハイネの市役所だったらしいですよ」

中央広場に面して石造りの三階建ての大きな建物があった、それをコッキーが指さした。

他にもここには名の知られた大商人達が店を構えているらしい。

「みてあれコステロ商会だ」

ベルが目ざとくコステロ商会の看板がかかった三階建の大きな建物を見つけた。


「こんな処に堂々とあったのか・・」

ルディガーは呆れ気味に呟く、テレーゼ有数の裏世界の雄が堂々と看板を掲げているのだから。


「ここから北に行きますよ」

コッキーはすっかり旅行ガイドの気分になっている。

大きな商店が立ち並ぶ南北にハイネを貫く大通を北に進んでいく、はるか先に城の正門が見えている。

「学校はお城の近くにあるのです」

大通りの行き止まりに城の重厚な正門が構えている、だが門の扉は固く閉じられ、門の前には武装した警備の者がいる。


「あの装備のマークが評議会の目印ですよ」

正門の手前を東西に小さなな通りが走っている。

「ここを左に曲がります、200メートルぐらいで学校があります」

観光ガイドになったコッキーはどこか誇らしげだった。


やがて鉄柵で囲われた広大な緑地が見えてくる。

「この中が学校なのです」

学校の正門から南に伸びる小路沿いに魔術道具屋が立ち並んでいた。

「ここが魔術街って言われている所なんですよ」

「これは凄いな」

ゲーラの魔術道具屋『精霊の椅子』のような、個性的な魔術道具屋が軒を連ねていた、通りは魔術師らしき男女、そして卸の商人や学生らしき通行人で溢れていた。


「中に入ってみよう、掘り出し物があるかもしれない」

そうベルサーレが提案したラーゼの中古武器屋で不思議なダガーを手に入れた事があったからだ。

「あのダガーのような物があるかもしれないからか?」

「うんメダルとかないかな」

「そうですねセザール=バシュレの情報も仕入れたい処です、慎重にやらなければなりませんが」

その時コッキーの背中に何かが当たる、思わず彼女は後ろを振り返った。


魔術道具屋に挟まれた人一人が通れるぐらいの狭い小路から、20代半ば程の若い男が彼女を手招きしていた。

中肉中背の濃い金髪で意思が弱そうな細い顎と、狡猾そうな目と卑しそうな口元の男だった。

それはコッキーが良く見知った顔だった、その男はコッキーが運び屋をやっているジンバー商会の使用人長のオーバンだった、そしてコッキーはこの男が余り好きでは無ない。

ふと足元を見ると小石が落ちている。


「あれはオーバンさんではないですか?お仕事の話しでしょうか?ここはジンバー商会から遠いのに!?」

オーバンはコッキーにまだ手招きしている、コッキーは思わずそちらに向って歩きだしてしまった。


「込み入った話がある少し奥に来い」

オーバンはコッキーにささやくと彼女を連れて魔術道具屋の間を進み裏通りに出た。


「ここでいいや、お前こんな処で何をやっているんだよ?契約を忘れたのか?ベントレーの戦があったとは言え3日も遅れているぞ?」

「リネインから大回りしたんです、え、えっとリネインとゲーラの間で盗賊団が出てもっと遅れたんです」

ベントレーを経由すればラーゼからハイネまで徒歩で2日で行くことができる、馬や馬車ならば急げは一日の距離だ。

「仕事の話はいいや、お前には別の用があるんだ」


オーバンは嫌な笑いを浮かべた、コッキーは嫌な予感を感じ距離を取ろうとしたが、背中が何かにぶつかった。

振り返ると二人の男がコッキーの退路を塞いでいる事に気がついた。

後ろの男がコッキーの口を塞ぎ、更に奥の狭い小路にコッキーを連れ込んだ、もだえ抵抗するが彼女の力では振り解く事はできなかった、一人が猿轡サルグツワを取り出しコッキーの口を塞ぎ、もう一人が大きな袋を頭から被せて彼女を完全に中に押し込めてしまった。

「いそぐぞ!!」


「コッキーを何処に連れて行くつもりだ!!」

三人の男がその袋を担ぎ運び去ろうとしたところ怒気に満ちた鋭い声が狭い路地に響き渡る。


男達がその声の主の方向を振り向く、そこには黒い小間使いのドレスを身に纏マトい、黒い長髪と薄い青い瞳の少女が男達を睨みつけている。

よく見ると少女は服の上から幅広の皮ベルトを締め奇妙な剣を吊していた。

「なんだ!?お前は誰だ!?」

その黒い小間使のドレスの少女が怒りに満ちた声で応じる。


「その袋を置いていってもらおうか!」




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