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テレーゼの恐怖と希望の光

夕食を終えて四人はルディガーの部屋に集まった、アゼルが精霊通信盤を調べるとカルメラからの通信が入っている、アゼルは謎解きの様な通信文の解読に取り掛かる、そこにベッドの下で寝ていたエリザが目を覚ましアゼルの肩に駆け上った。


ルディガーは明日の旅に備え荷物の整理と確認をしながらアゼルに話しかけた。

「明日はホンザ殿に挨拶をしてからこの街を出たい、彼のお蔭で大きく進展した」

「そうですね若旦那様・・・」

「精霊通信の内容ですが『アマンダ帰る』ですね、無事に戻られたようです」

「それは良かった、後は皆が俺の方針に納得してくれれば良いのだが」


「アマンダとは誰でしょう?」

コッキーは初めて聞く女性の名前に小首をかしげる、ベルサーレは小さなあくびをした。


「コッキー、僕たちは疲れたから早めに休ませてもらおう、部屋に行かない?」

「はい、私もとても疲れましたです」

ルディガーはベルサーレをふりかえりもせずに語りかけた。

「二人ともよく休んでくれ」

「じゃあおやすみルディ、アゼル」

「ルディさんアゼルさんお休みです」

ベルサーレとコッキーは自分たちの部屋に戻った、ベルサーレは武器を外しベッドの枕元に置く、短剣や暗器をテーブルの上に、小間使いの服を脱ぎ壁の服掛けに吊す、そして簡素な寝間着に着替える。


「コッキー汚れた服や下着はこの袋に入れて」

「ベルさん洗濯するのです?」

「明日起きたら、アゼルに浄化の魔術をかけてもらう、本当は洗濯してからの方が良いみたいだけどね」

「魔術って便利ですね・・・」

「うん、洗濯や下着を干すのに悩まなくて済むのは有り難い」

ベルサーレはベッドに飛び込む。

「ベッドも清潔でシーツも白い」

彼女はベッドの上で寝返りをうち仰向けになった。

「コッキーも寝巻きを買った方が良いよ」


「そうですね、ベルさんの寝巻きかわいいですよ」

「えっ?ええ、そう?」

ベルサーレは自分の寝巻き姿を慌ててチエックする。

寝巻きが大きすぎて合わないから可愛いのです、コッキーは心の中でそう言った。


「処でベルさん、アマンダさんって誰です?」

「ああ・・・そうかコッキーはアマンダと会ったこと無かったね?」

「はい会ったこと無いです」

「僕の親戚で幼馴染なんだ、最近までリネインに来ていたんだ、もう帰ったけどね」

「そうでしたか」

「この寝巻きはアマンダからもらったんだ、長い間森にいたから、じゃあ僕は眠るよおやすみ」

「ではお休みですベルさん」

コッキーがランプの灯りを消すと、部屋が真っ暗になった、階下の酒場がまだ賑わってるようでその喧騒が良く聞こえて来る、だが疲れ切った二人はすぐに深い眠りに落ちて行った。




暗い暗い場所で女性の泣き声が聞こえる、コッキーにはその声に覚えがあった、それは幼い自分の声。

「お母さん・・・どこにいるのですか?」

「貴方・・貴方・・コッキー・・どこにいるの・・・皆んなで逃げるの・・」


お父さんは・・どこです?

「・・どこにもいけないのよ・・・・・」


テレーゼから逃げるのです?

「・・いけないのよ・・・・どこにも・・・・」


コッキーは目を覚ました、前進に不快な汗をかいていた、耳を澄ませると階下の喧騒は静まり街の火も消えている、隣のベッドでベルサーレが静かな寝息を立てていた。


「最近つらい夢を見ている様な気がします」

独り言を言うと横になる。



コッキーが悪夢にうなされた同じ頃、ゲーラの遥か南方のド・ルージュの廃虚で、狂戦士エッベと不幸な無法者達が焚き火を囲んでいる、すでに日も暮れ辺りは深い闇に包まれ、滅んだ街に灯り一つ無いこの焚火だけが唯一の灯りだ。

エッベは唯でさえ少ない食糧を一人で貪り食っていた、もっともそれすら無法者達が農家から奪略してきたものだが、エッベに部下の食事など考える知性など残っていない、ただ本能的な慾望と盲目的な怒りにエッベは蝕ばまれている。

それを無法者達は絶望的な表情で見守る事しかできなかった。


その時の事だ男の一人が不意に立ち上がる。


「なんだあの光は?」

それは街を見下ろす小高い丘の上に建つド・ルージュ要塞の廃虚の一角が薄暗い緑の光に包まれていた。

男達は全員そちらを見上げる。


「なんだ、気味の悪い光だな」

「エ、エッベさんあれを見てくださいよ」

エッベはそれを無視し一人で貪り食っている。

「エッベさん聞いてくださいよ?」


そこに突然、耳慣れない虚ろなしわがれ声が響いた、その声はとても耳障りで掠れ聞き取りにくい、だが重々しい威厳と威圧に満たされていた。

「こんナところをウろついていたのか」


焚き火の光の照り返しを浴びながら、黒いローブをまとった長身の人物が闇の中から現れた、ローブを深くかぶっていて顔は全く見えない。

その場に居た全員がその声の主を見る、それはエッベも同様だ。


「丁度良カった、実験素材ガ不足していタところダッタ」


その人物から無数の薬品が混じったような刺激臭が漂ってくる、だが無法者達はその細身の人物から発せられる圧倒的な威圧感にねじ伏せられていた。

ローブの奥底に青く燃える炎の様な二つの輝きを目撃した時、恐怖で体が動かなくなる、そして怖ろしい程の冷気が襲って来た、それは恐怖による冷や汗ではなく、その男が凍てつく冷気を纏っていたからに他ならない。


恐怖で乱れる男達の吐く息が白くなる、だがまだその様な季節ではない。

だがエッベはこの男達とは別格だった。


「貴様か?貴様かーーー!!殺してやる!!殺してやるぞー」

エッベから凄まじい気が発散され怒号と共に夜の空に向って吠え猛る、これが男達から最後の気力を奪い何人かが再び失禁する。

エッベは自慢の大鉈を振りかぶりその黒いローブの男に襲いかかる。


「止まれ、ナンジに命ズル、オロカ者よ何も学ばヌのか?」

エッベの突進は突然止まった、エッベの顔から表情が失われ、先程まで野盗達を圧倒した威圧感も狂気も消えていた。

「引き上げるゾ」

その黒いローブの男とエッベは夜の闇に溶けるように消えた、後には呆然と立ち尽くす野盗達だけが取り残された。



「な、何だ、今のはよ?」

「アイツがエッベを連れて行った、まあエッベが居なくなったんだ感謝しねえと」

「そりゃそうだな」

無法者達はエッベから解放された事を素直に喜ぶばかりだ。

だがある男が周囲の森と仲間たちが、薄っすらと緑の灯りに照らされてる事に気がついた。


「おい、なんだありゃ!?」

一人が要塞の方角を指差す、何か巨大な緑色の光の雲の様なものが向って来る、それはしだいに自分達に接近してくる。


男達の表情は不審から恐怖へ変わりやがて表情を失った、彼らの顔は緑の光に照らされる。

彼らは迫りくる何かを目撃したのだ、そして理解した、それは彼らに完全なる絶望と破滅をもたらす光だ。




テレーゼの朝の空は快晴で雲ひとつ無かった、朝の爽やかな朝の光を浴びながらゲーラの西門にルディガー達が集まっていた。

「おはよーおじいさん」

まだ眠そうなベルサーレがホンザに手をふった。

「爺扱いはやめんか!!」

ホンザは彼女を睨らんだ。


ルディガーは丁寧に老魔術師に礼をする。

「ホンザ殿、貴方のお蔭で大きく前進できた、ありがとう」

「偶然が重なっただけじゃ、むしろあんたらのお蔭で珍しい体験ができた、魔術師冥利に尽きるわい」

「我々はアマリア魔術学院の廃虚に寄って行くつもりだ」

「そうじゃな、その方が良いかもしれぬの」

続いてアゼルも別れを告げた。

「見送り恐縮ですホンザ殿」

「おおアゼルも無事でな」

「ところで今後の事もあるので精霊通信用の符号を交換しませんか?」

「うむ、それも良いかもしれぬのう、わかった」

アゼルとホンザは精霊通信用の符号を交換しあう、これでお互いに通信が可能になるのだ。

中央広場から西門への大通は屋台の準備で賑わい始める、車輪付きの屋台が設置され商品が並べられていく、西門はハイネに向かう馬車や旅人で賑わい始め、ルディガー達の側を次から次へと通り過ぎていく。


「ではそろそろ我々も行こうか」

「じゃあおじいちゃん、おたっしゃでー」

ベルサーレが軽口を叩く。

「人を爺扱いするんじゃないわい!!」

コッキーも小さく手をふった。

「ではまたおあいしましょうです」

「うむ」

石畳みの上で遊んでいたエリザがアゼルの肩の上に駆け上がる。

「さて、お前達の前途に幸あれじゃ!!」

最後に老魔術師が別れを告げる。


ベルサーレとコッキーが振り返りながら手を振る。

去っていく四人の後ろ姿に一人呟いた。

「これからはいくら幸運があっても足らん事になるのう」


四人はハイネへ向かう道を西に進む、テレーゼの青い空が彼らの前途を祝福するものであれば、ホンザは去っていく者達を何時までも見送っていた。




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