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新たなる聖霊宣託

ホンザが湯気を上げる緑の液体を木製のカップからすする。

「儂がまだ駆け出しの魔術師だった頃じゃ、テレーゼの内乱の前でな国内はまずまず平和で栄えておったよ」

老師は昔を懐かしむように虚空を見つめる。


「その時既にセザール=バシュレは今の儂ワシと同じぐらいな年だった」

「では奴は不老不死なのか?」

ルディガーの質問には答えることは無かった。


「儂がセザール=バシュレに弟子入りした頃、奴はテレーゼ随一の大魔術師としての地位を固めていた、だが奴は焦っていた、既に伝説と化していた精霊魔女アマリアの域にまで到達できず、迫り来る命の終わりに怯え焦っておった。

そして死靈術に手をだしての、アマリア様から破門されテレーゼにおける地位を失い追放された・・・はずだったのじゃ、だがすぐに内乱が始まっての、その混乱の中で奴の所在は不明になった」


アセルがホンザの灰色の瞳を見つめ口を開いた。

「ボンザさん、セザールが死靈術に手を出したのは、死を免れる為ですね」

「儂もそう考えておる」

「そして内乱が始まり、20年も経った頃から、再び奴の名が世に語られるようになった」

「セザール=バシュレが破門されているとなると、精霊魔女アマリアに会える手がかりにならない可能性があるのか・・・」

ルディガーは深い落胆の色を隠さなかった。


しばらく長い沈黙の後にホンザが再び口を開く。

「アゼルよ、お主は精霊宣託はできぬのじゃな?」

「はい、残念ながら精霊宣託師としての才能はありませんでした、下位の精霊宣託はできますが、これでは道端の占いとかわりません」

「そうか『力の行使者』なのか、もっとも魔術師の殆どはこの種類じゃが」


「ルディガー殿、試しに儂の精霊宣託を受けてみるかね?」

コッキーを除いた3名が驚く。

「ボンザ殿は精霊宣託師だったのか?」

「いや精霊宣託師としての才能もあったと言ったところじゃな、儂は中位の精霊宣託師でもあると言うだけじゃよ」


「今のままでは手詰まりだ、何か打開策が見つかるかもしれない、お願いしてもいいだろうか?ホンザ殿」

「ルディガー殿、少々お代をいただくぞ、そして少し時間もかかるがの、ほほほ」

「ルディお金の心配はいらないからね?」

ルディガーがギョッとして声のする方向を見た、そこには満面の可愛らしい笑みを浮かべたベルサーレのがいた。それに得も言われぬ不吉な物を感じたルディガーだが意を決した。

「わかったホンザ殿、頼みたい」


「若旦那様のおっしゃるとおりにいたします」

アゼルがそれを肯定した。

「中位の精霊宣託の相場は50アルビィンじゃよ、高位の精霊宣託ともなるとゼロが二つ以上増えるぞ?準備と結果が出るまで夕刻までかかる、ルディガー殿とアゼルはここに残ってくれ、さて本日は休店にしなければならぬのう」

ホンザは店の扉に『本日休店』の看板を出しに扉に向かう。


「今の内に何を質問したいか、アゼルと相談して決めて置くが良い、あと契約の条件も決めて置くが良い、後で取り返しが付かなくならないように気をつけるんじゃぞ?」


「ねえ、コッキーはハイネに仕事があるとか言っていたよね?僕は一日ここで待つつもりだけど」

ベルサーレは少し心ここにあらずなコッキーの顔を覗き込む。

「あっ、そうでした!!担ぎ屋さんの約束があるのでした」


思い出した瞬間コッキーの意識が遠くなる、彼女の瞳から光が消えた。


『コッキー、もっと大切な事があるでしょ?』


何処からともなく遠くから声が聞こえてくる、それは自分の内なる声のように虚ろに響いた。


(はいそうでした、忘れていましたです)


「コッキー?」

一瞬固まり何の反応もなくなり佇むだけのコッキーにベルが声をかけた。

「はっ!!ベルさん達と一緒に居たいのです!!」

「わかった」

ルディガーは自分の思いにふけっていてコッキーの異変に気づかなかった。


(今までこんなにも誰かと一緒に居たい気持ちになったのは初めてなのです)

コッキーは軽く首を傾げた。


そしてルディガーがベルの肩に手を置く。

「ベルとコッキーは街を見物していてくれ、コッキーはベルから決して離れないようにな」

「ルディさん、わかりましたです」

元気いっぱいに応えた。


「じゃあバックパックはここに置かせて貰っていい?」

家主の答えを待たずにベルサーレがバックパックを下ろし始めた、袋から小銭を分けて懐に入れる。

「うむ、かまわんぞ、邪魔にならない場所に置いておくれ」


「じゃあ、僕たちは街を見物してくるよ」

「いってまいりますです」

ベルサーレとコッキーは魔術道具屋『精霊の椅子』のドアを開け街に飛び出してゆく。

やれやれと言った顔のルディガーとアゼルに向ってホンザが改めた態度で向き直る、それはホンザが老獪な商人から魔術師の顔に変わった瞬間だった。

「さて、ルディガー殿、アゼル、精霊宣託の手順と契約について説明するぞ・・・・」





ここはゲーラから南に伸びる街道を怪しげな8人の男達が南に向って歩く、この街道はド・ルージュの廃墟を経てルビンの街に至る。

男達の装備には統一性がまったくなくバラバラな武装をしている、彼らの防具は金属部分には錆が浮き、皮革の部分は汚れと垢で黒く埃を被っていた。

彼らはどこかの農家から奪略したらしき、食糧を手づかみで食い漁る、すでにゲーラ近郊の田園地帯を抜け、周辺は広大な森林地帯になっている、このあたりは街道沿いには放棄された村の跡があるだけだ。

やがて遠くの丘の上にド・ルージュ城塞の廃墟が見えて来る、その麓にはド・ルージュの街の廃墟があった。

この街道をそのまま進むとド・ルージュの街の廃墟を通り抜けて南のルビンに至る。


「おい、ド・ルージュが見えてきたぜ」

「本当にここを根城にするのか?」

「おまえ、幽霊を信じているのか?よけいな奴が寄り付かなくて安心だとは思わんのか?」

「ここはそれなりに商隊が通るんだ、ここでしのぎをするんだよ」

男たちは空元気の様に粗野に喚いたが、どこか疲れを感じさせた。

奪略したらしき酒を焼き物の容器から飲み干した、どうやら彼らは昼間から酔っていた。



その時、彼らから見て左手の森が俄に騒がしくなる、鳥の群れが一斉に騒ぎ立て飛び上がり、林の木々の枝や折れ下草や小木が踏みにじられる音が響き始める。

「なんだ!?てめえら警戒しろ!!」


森の中から街道の行く手を塞ぐように、彼らの目の前に何か大きな物が飛び出す、それは体高2メートルを優に越える大きな何かだ。

男達は一瞬熊か何かの大型の獣と思ったが、すぐにそれが人間だと認識を改めた。


「え、エッベだああああぁぁぁ!!」


男達はエッベを良く知っている、恐怖と欲望に支配され、コステロの商隊を襲い罠にかかり半壊、更にルディガー達を襲撃し壊滅した生き残りだったのだから。

あれから逃げ出し後三人ほど姿を消した、その3人の判断が最も賢明だった事を今になって思い知る事になる。


「ひー、逃げろー!!」

男達は蜘蛛の子を散らすように逃げ始める。


「に・げ・る・なーーー」


エッベが凄まじい怒声で咆哮する、その声の響に含まれた力が男達の体を竦ませ力を奪った、男達は冷や汗を流しながら失禁していた。

男達の酔いは醒め顔色は青を通り越して土気色になっている。


「俺に付いてこい!!!」

その命令に逆らえる者はいなかった、屠殺される家畜の群れの様にエッベに従うしかなかった。




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