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ベルサーレとアマンダ

城塞都市リネインの中央広場に面した食堂で、ベルサーレとアマンダが再会を祝い昼食を楽しんでいたころ、ルディガーとアゼルは聖霊教会前で群衆の波に揉まれていた。

「エリザベス私から離れないように」

アゼルは肩の上の小さな相棒に声をかける。


やがて聖霊教会の中から聖女と修道女達の聖霊讃歌が聞こえてくる、すでに儀式は佳境に入っているようだ、ルディガーはアゼルにささやく。

「俺も驚いたぞ、聖霊宣託の送迎団から行方不明者が出ていた事をお前の話で思い出した、彼女が聖女になっていたとはな、しかしアゼルこれでは彼女と話す機会を作るのは厳しいぞ」

「ええわかっていました、リネイン伯と聖霊教会の警備が厳しいですね、話をしたい事もありますが、一度は死んだと思っていた方です、いずれ必ず機会を作りますが、今はやらなければならない事があります・・・」

アゼルの口調は歯切れが悪い、ルディガーは話題を変えた。


「そうだ、そろそろアマンダがこの街に着く頃だ」

「私はアマンダ様が直々に来るとは思っていませんでした」

アマンダは聖霊拳の達人として知られていたが、エステーべ家の長女で貴族の令嬢なのだ。

「単なる連絡役では無いと言う事だ、何を話に来るかは予想がついている」

「お戻りになられるように言ってきますね」

ルディガーはアゼルの話を受け止めしばらく考える。

「ここは混雑して動きにくいな、ベルのように屋根の上を移動したいものだ、しかしベルは屋根の上で何をやっていたんだ?」

「屋根の上で退屈そうにしていましたね、もうどこかに遊びに行ったようですね、彼女よりエリザベスの方が余程落ち着きがありますよ」

「そうかもしれんな、はは」

ルディは快活に笑った。

「宿に戻りアマンダとの合流を考えよう」

二人は宿を目指し歩き始めた。




ベルサーレとアマンダはすでに宿に戻りルディガーとアゼルを待っていた。

「ルディガー様ご無事でなによりでした」

アマンダは今にも泣き出しそうな表情でルディガーを迎えた、アマンダは謀反騒ぎの時ルディガーを城から脱出させた後、クラスタ、エステーベに火急を伝える為に別れた、それ以来の再会となる。

アゼルが部屋の鍵をアマンダに手渡す。

「幸い空き部屋が有ったので部屋を追加で押さえました、アマンダ様とベル嬢はそちらを使ってください」

ベルサーレがこれに少しむくれる、ルディガーはそんな彼女のむくれ顔を見て微笑む。

「アマンダ、ベルとアゼルの二人がいなければここまで無事にたどりつけなかった」

ベルサーレの頭を撫でると彼女は顔を赤くしながらその手を振り払う。

「子供あつかいするなよ、ルディ」

ルディガーは改まってアマンダに向き直った。

「そしてアマンダ、皆が無事逃げられたのはお前が皆に変事を伝えてくれたからだ、感謝する」

「もったいないお言葉ですわ殿下」


アゼルは声を潜める。

「さて、とりあえずこの部屋で話し合いましょう、大切な荷物はこの部屋にいれて下さい、この町は治安があまり良くない、あと音を遮断する結界を張ります、宿の使用人も信用できませんから」

それに全員が無言で頷いた。

アゼルは精霊術を行使し始める、それは音を遮断する下位の精霊術だ。

全員が適当に椅子に座ると、座る椅子が無いベルサーレはベットに腰掛ける。


「アマンダお前が直々に来ると言うことは、お前でなければできない事があるからだな?」

ルディガーが改まった口調でアマンダに語りかける、いつもの砕けた口調ではないそこから緊張が走る。


そこでアマンダが立ち上がり淑女の礼を示した。

「わたくしアマンダ=エステーベは、ブラス=デラ=クエスタ、エリセオ=エステーベの名代として、ルディガー様の御意思を確認した上で、我々の拠点にお迎えしたく参りました」

アマンダの態度は家臣や騎士の主君に対するそれである。

ベルサーレはそれに驚きを隠せない、アマンダのルディガーに対する態度と話し方はベルサーレが知っているアマンダとは別人だった。

ベルサーレはプライベートのアマンダしか知らなかった、ベルサーレは社交界に出る大切な時期に追放され森で暮らしていたからだ。


「まず、俺の考えを述べよう、俺は大公妃の精霊宣託の内容を知らなければならない、それまではそちらに行くことはできない」

ルディガーらしく結論を最初に示した。

「ベルサーレ様から事情はお聞きしております」


ベルの目が驚きで丸くなる、アマンダの口からベルサーレ様など聞いた事は無かった、不思議に新鮮でまるで大人扱いされたような気分になる、アマンダからはベルとかベルちゃんとしか呼ばれた記憶しか無い。


「どこまで聞いているのかな?」

「精霊魔女アマリアの高弟がハイネにおられ、その人物から精霊魔女アマリアへの手がかりを得ようとされているとお聞きしました」


「その通りです精霊魔女アマリアの高弟のセザール=バシュレがハイネにいます、彼との接触を測る予定です」

アゼルがそこで補足する。


「ルディガー様、仮に彼と接触できたとして、有益な情報を得られる保証はありません」

「それはわかっているのだアマンダ」

「大切な御身です、できるだけ早くクラビエの我々の拠点にお移り願います!」

「なぜ俺が、精霊宣託の内容をどうしても知らなければならないと考えたのか皆に話そう、これは俺の未来の運命に深く関わる内容であると考えたからだ、大公妃があからさまに俺を恐れ排除しようとする程の内容なのは間違いない」


「アマンダよ大公妃が悪だと思うか?」

「神隠し事件で殿下とベルサーレ様を貶めた御方ではありませんか?」

「大公妃が俺の敵であるのは間違いない、だが精霊宣託の内容によっては善かもしれないと考えた事は無いのか?」

「そんな!!」

これにはベルサーレもアゼルもアマンダも衝撃を受ける。


「俺が自信を持って前に進んで行く為に、これは乗り越えなければならない試練だ、最高位の精霊宣託の重みはお前たちも理解しているだろう?」

聖霊教圏において最高位の精霊宣託の重みは国家の行動すら縛る場合がある、大公妃が依頼した精霊宣託はそれに準ずる重みがある。

そして精霊宣託の依頼主の大公妃は精霊との契約において内容を偽る事が魔術的に強制的に禁じられている。


「俺と共に進もうとする者、俺を拝戴しようとする者の正当性にも関わる、そして大公妃が精霊宣託の内容を最後の切り札にしている可能性を考えてくれ」

「ルディガー様がそこまでお考えとは・・・」

アマンダから思わず言葉がもれる。

「ブラス殿やエリセオ殿にもこの事は認識して欲しいのだ、俺を拝戴した瞬間に大義名分を潰される可能性を頭にいれて置いてもらいたい、精霊宣託の内容を知って置く必要があるのだ」


「解りました、しかし殿下それでも精霊魔女アマリアに会える保証はどこにもありません」

ルディはここで深く考え込み始めた、三人ともルディの熟考を妨げることの無いように声を立てない、やがて考えが纏まったようだ。



「アマンダ、お前の判断をブラス殿達は受け入れるのだな」

「ルディガー様、私はこの問題の裁量を父上達から与えられています、報告を伝えるだけでしたら密偵の者を派遣すれば済むのですから」

「やはりアマンダが来たのはそういう事だったか」


「ハイネのセザール=バシュレと接触し精霊魔女アマリアの手がかりが見つからなかった場合、クラビエの拠点に向かうと約束しよう」

「ルディガー様、手がかりを見つけた場合、私がもう一度ルディガー様の元に参ります、そこでその先のお話を再度伺いたいと存じます、それでよろしいでしょうか?」

「わかったそうしよう」


「ねえアマンダはクラビエに戻るの?」

ベルサーレがおずおずとアマンダに声をかける、何か子供のような頼り無い響きと、そこには微かな秘められた安堵すら感じられた。


アマンダの心の奥がざわつく、だがそれは表に出る事は無かった。

「ええ、私はお父様達に報告する義務があります、ルディガー様は貴方達に任せるわね」


「アマンダ、クラビエとエルニアの事を詳しく聞かせてくれないか?」

「はい、かしこまりました殿下、さて父上達の名代としてはここまでですわ」

アマンダはクラビエとエルニアの状況に付いて話し始める。



夜もふけアマンダとベルは女性達に割り当てられた部屋に移る。

「ベルと同じ部屋で寝たのはいつかしら?」

「もう7~8年以上前の事だよ?」

「貴女はお化けが怖いとか言って、私のベッドに潜り込んできたわね、ふふ」

「もう、その話はやめてよ!!」


「ねえベル、私はお父様にルディガー様の側に居られるようにお願いしたの」

「あ、アマンダ!?」

「私はルディガー様の護衛として、殿下をお守りしてきたの、暗殺を見破った事もあったわ」

「暗殺!?」

ベルサーレが目を見開いた。

「ええ、演習中や狩猟中に狙われたり、練習用の剣の柄に毒が塗られていた事もあったわね」

「そこまで酷いのか・・」


「そんな顔をしないで、ルディガー様の周りで起きる小さな異変を見逃さずに、気を配らないと護衛は務まらないのよ?」

ベルサーレは何か言いたかった、思い切って口にする。

「アマンダはルディの事をどう思っているの?」

アマンダも驚いたが冷静さを保ったまま慎重に言葉を選んだ。


「・・・とても大切な御方です、私が産まれた7日後にルディガー様が産まれたのよ、お母様がルディガー様の乳母に選ばれました、私達は乳母姉弟です、そして・・・」

「そして?」

「ルディガー様は私の主でもあります、ルディガー様に総てを捧げてお使えするのが私の願いです」

「総てを捧げて?」

「ええこの命もこの身も捧げる覚悟をしていると言う意味です」


「騎士として?」

「ふふふ、女は騎士にはなれないわ、でもその覚悟でお使えしたいのです、女であってもいいえ女だからこそよ」

ベルサーレはは衝撃を受けそして俯いてしまう。


「今度は私が聞く番ね、ベルちゃんはルディガー様の事どう思っているの?」

彼女は驚いて顔を上げたが顔が真っ赤に染まって行く、そしてふいっとアマンダから顔を逸した。

「と、友達だよ」


アマンダはベルの頬を両手で優しくはさみ込み顔を自分の方に向ける。

「困ったわねーこの悪ガキは」

「何が悪ガキなんだ!?」

「ベルったら、ふふふ、まあ今はまだいいかな・・・」

「今はまだって?」


突然アマンダの空気が変わった、

「ベル?」

「なにアマンダ」

「ルディガー様がベルと出会わなければ、アゼルの山小屋まで辿り着けなかったでしょうね、バーレムの森を彷徨う事になってたわ、私がいても結果は同じ」

「アマンダ・・・」


「その間ルディガー様のお世話をしたのね?」

「火を起こして簡単な食事を出しただけだよ」

「私には無理ね、その簡単に自信がないのよ」

アマンダが少し上の空になる。


「そう言えばエステーベのお屋敷でルディに料理を作ったんだって?」

「えっ!!なぜ知っているの?さてはカルメラね?覚悟しなさい!」

「か、カルメラじゃないよ、ルディだよ」

ベルサーレはアマンダの妹の無実を晴らすべく必死になる。


「えっ、ルディガー様が!?な、なんておっしゃっていたの?」

アマンダの顔は今まで見たことのない弱気で頼り気の無い表情をしている、それは彼女の知らないアマンダだ、彼女の胸に不思議な感情が湧き上がる。


「名状しがたきもの、だってさ」

アマンダはがっくしとテーブルにうつ伏してしまった、指でアマンダの頭をつんつんと突く。


「いいかげんにしなさい、もう」

アマンダは笑いながらベルの指を手で払って起き上る、そして椅子から立ち上がった。


「私から父上達とクラビエにいる皆なを代表して貴方に感謝の意を捧げます」

「そんな急に改まらなくても」


「いいえルディガー様は私達の希望なの、良くここまで守ってくれたわねありがとう、ブラス叔父様も口には出さなくても貴方に感謝しているはずよ」

ベルサーレが照れて顔を赤くしている、アマンダはそんな彼女を後ろから抱きしめる。


「私はこの後帰らなければならないの、私はルディガー様とクラビエとの連絡役を果たして行かなければならないわ、これはベルには務まらない、でもね私は一時もルディガー様と離れていたくないの、それだけは貴方にも解っていて欲しい」

「アマンダって、やっぱり、ぶっ!!」


アマンダがベルの口を手の平で封じてしまう。

「ベルちゃんにはまだ語る資格はないわね、お願いルディガー様を守って」

彼女は口を塞がれたまま何度も頷く。


「ねえ、バーレムの森でルディガー様に出会ってから、ここまでの旅の事話してほしいの」

ベルサーレは夜がふけるまで冒険譚を語り続けた。





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