狂戦士エッベ
マティアスは慌てて頭を回転させる、なぜエッベがここにいるのか状況を整理しなければならない。
「よおエッベさん、たしか新しい盗賊団を仕切っていたと思ったがどうしたんだい?」
マティアスの質問にエッベはギロリと睨みつける。
その話はコーム達に初耳だったらしく全員が 驚いた。
「もう無いぞ、そんなものはなあ」
その言葉に沈黙が落ちた 。
「盗賊団って落としたり、なくしちまうもんですかねテオさん?」
ジムがテオに小声でささやく。
「知るかよ」
テオは吐き捨てた 。
マティアスは更に慎重に言葉を選んだ。
「あんたの組織は50人くらいいたよな?どこいったんだい?」
「そうだコステロ、コステロの野郎おおおお!!!!」
エッベが叫びだしたので皆が三歩退いた。
コームが震え声で割り込んで来た。
「あのエッベさん、そのコステロって、ハイネのコステロファミリーのボスのエルヴィス=コステロの事じゃあありませんよね?」
「そいつに決まっているだろうが!!!ボケがー」
「「げっ!!!」」
これにコームファミリーどころかマティアスまでもが驚いた。
ハイネのコステロファミリーはテレーゼ最強の犯罪組織と言われ、表向きにはコステロ商会を持ち私設軍隊まで擁していた。
コームが顔を青ざめながらマティアスに近寄るとささやく。
「恩に切るぞ、あんたのお蔭でヤバイ話を早めに知る事ができた」
軽く頷くと先を続ける。
「じゃあ、あんたの手下はコステロファミリーに殺られたのかい?」
「半分だけだあ!!」
「こいつ『オヤツを半分食われちまったぜ』とかそんな乗りっすかね?」
ジムがテオに再び小声で呟いた。
「そうなのか?」
マティアスは好奇心をそそられた。
「なあじゃあ残り半分はどうなったんだい?」
「3人組に20人ほど殺られた!!」
「なに?3人組だって?」
テオとジムが顔を見合わせた。
「あのクソ女、犯してからぶっ殺してやるううう、この傷の借りは絶対に返してやるぞ!!!」
エッベがさらに激昂して叫ぶ。
「その傷はその女に付けられたのかい?もしかして長い黒い髪の女かな?」
マティアスはベルサーレを見たことは無い、たた得体の知れない3人組の話は聞かされていた。
「てめえ!!その女を知っているのか!?今どこにいるんだ!!」
マティアスが冷静に言葉をつなぐ。
「リネインに男二人と女の3人組がいたんだよ、一人は黒い長い髪の女で魔術師が一人だ、ハイネに向かうらしいぜ」
「間違いねえ!!!そいつらだあ!!!叩き潰してやる、どこにいるんだおい!?」
「え?襲うんですか?」
手下共が慌て始める。
「当たり前だろうが !!!」
テオがささやく 。
「一度負けているんだろ?何か策でもあるのか?」
「テオさん、あの3人に奴の手下が20人ほど殺られたなら、かなりの強さっすよ ?」
ジムが小声でささやく。
「ああ、こちらにテヘペロがいてどうなるかは未知数だが」
マティアスは知恵を絞った。
「3人組が街を出たらあんたに教える、これで協力関係を」
だが吠えたけるエッベに断ち切られた 。
「邪魔だ、見張りは俺の手下がやる!!お前らには用はねえ!!!」
マティアスの提案は拒否される。
マティアス達はコームファミリーの冥福を祈りながら盗賊村を去る事になる。
コーム達は絶望した眼差してマティアス達を見送った 。
3人は森の中を街道に戻る道を無言で進む 。
「話が通じねーぜ、 でもこれはこれでアンタラに都合が良いか・・・」
マティアスの愚痴にテオが答える。
「なあマティアスあのでかいのを知っていたのか?」
「ああ、ここらでは有名な奴だよ、力だけで話の通じない無法者だ」
マティアスは肩を竦める、三人は街道にたどり着くとリネインの方角に歩き始めた。
リネインのベルサーレとアマンダは中央広場の酒場にいた、昼間は食堂で夜は酒場になる、だが街に酒場そのものが少なく選択肢は無い。
「メニューが貧しいし高いよね、スープの値段とかエルニアの五倍はする」
ベルサーレが店員に聞こえない様に小声で囁いた。
「いいえ、ここなんてまだまし、場所によっては物々交換じゃないと何も手に入らない場所もあるのよ?」
「ほんと聞きしに勝る酷さだよね」
二人はあまり美味くない昼食を口に運んだ。
「ねえベル、聞いていいかしら?」
「えっ、何?」
彼女の表情がどこか怯えた様に変化したのをアマンダは見逃さない。
「ルディガー様の事だけど、もしかして何か目的とかおありなのかしら?」
彼女の表情が少し安心した様に変る。
二人は顔を寄せ会いひそひそと話始めた。
「僕たちは大公妃の精霊宣託の内容を知りたいんだ、そして神隠しの謎も知りたい」
「ああ、大公妃の精霊宣託と神隠し事件ね、ルディガー様の追い落とし、ブラス叔父様が失脚する原因になったのは解るけど、もう知りようが無いでしょ?」
「精霊宣託に関わった精霊より上位の精霊ならば宣託の内容を知ることができるとアゼルは言っていたよ」
「えっ!?ヘルマンニは有名な上位精霊術者よ?その上なんていったら精霊王しか居ないわ、精霊王と契約している術者なんて伝説の精霊魔女アマリアぐらいしか居ない」
そのアマンダの顔はベルが今まで見たことも無い様な驚き顔だ。
「僕たちはその精霊魔女アマリアと会う計画なんだけど?」
「なっ!!!?なんですって!!!!?」
アマンダ驚くのは当然だ、伝説の人物に会いに行くなどと言い出したら正気を疑われるのは当たり前の事だ、それもエルニア公国の元第二継承者と上位魔術師が言い出しているのだから。
突然の大声に酒場にいた他の客が二人の方に一斉に顔を向ける。
「あははははっ」
ベルサーレがアマンダの顔を指差し笑い始める。
「ベル!!何が可笑しいのよ?」
「いつも澄ました顔しているから、驚いたアマンダの顔が面白くて!!」
「貴女がとんでもない事言い出すからでしょ!?」
アマンダは両手の手の平で彼女の頬を挟み込む、聖霊拳を極めし者の手の平らしく、強力な吸着力があるかのように彼女を拘束する。
彼女の口は封殺されたが、アマンダはそれでは飽き足らず両手の親指をベルの口に差し込むと、無慈悲に左右にうにうにと引っ張った。
「ふぎゅ!?ふぁまんだ、なぃをふるんだ、もうこどもじゃないだりょ!?」
「ああ、懐かしいわねこうするのも、ふふ、うふふふふ」
アマンダの顔が紅潮し目の光が宵の明星の様に輝いた。
「いい加減にしてくれそこの二人!!止めないと出ていってもらうぞ!!」
店主が怒りながら奥から出てくる。
冷静になった二人は 店主にわびた。
「ごめんなひゃい」
「久しぶりに貴方に会ったからタガが外れたわね」
「口がおかしくなたよ?ほんと子供の喧嘩じゃないか?」
ベルはまだ喋りが元に戻らない様だ。
だが周りの客たちからは美女二人の喧嘩が終わってしまって残念な空気がひしひしと伝わってくる。
二人は再び顔を寄せ会いひそひそと話始めた。
「精霊魔女アマリアに会うと言う話だけど馬鹿げているわね、ルディガー様やアゼルは本気なの?」
「ハイネにアマリアの高弟がいるらしいんだ、そいつからアマリアに会う方法を得る予定」
「ああ、そういう事ね」
「そいつの名前は忘れたけどアゼルならもう少し詳しい話を知っているよ」
「ここに来て良かったわ、ルディガー様の目的が判ったのは収獲でした」
「ねえ、アマンダの目的はそれだけなの?」
「いいえ、ルディガー様に目的があるなら知ること、その上でお戻りになられるように説得することなのよ」
「戻る?エルニアには戻れないから、クラビエの事だね」
「ええそうよ」
「他に無いの?」
「えっ?」
アマンダはベルの何時になく真剣な眼差しから何かを感じたようだ。
「そうね・・あとで話すわね?」
「えっ・・わかった・・・」
アマンダの口元に僅かな翳ろいが浮かんでいたがベルはそれに気がつく事は無かった。
「ねえ、貴方達が宿泊している宿に案内して欲しいの」
食事を終えた二人は今日の宿に向った。




