スリ男の救出
「もしかしてアダム様はアウラ様のお知り合いなのでしょうか?」
先程の一幕を見ていたコッキーの瞳にアゼルへの尊敬の光が見える。
「ああ、古い知り合いですよ、昔の話です」
「素敵です!!聖女様の昔のお話をお聞かせください!!」
空気を読めないコッキーが詰め寄るがアゼルは迷惑そうだ、コッキーは聖女に憧れを抱いている様子だ、だがベルサーレはアゼルの陰鬱な表情を見てこれはあまり触れたく無い話題なのだと悟る。
「ねえコッキー、リネインはどんな街なの?」
話題を振られたコッキーは嬉しかったのか嬉々として解説を始める。
「良く聞いてくださいました!!リネインは私の生まれた町なのです、ラーゼより随分小さな町です、リネイン伯爵様がおさめています、コウモリ伯爵とあだ名されているです」
「こうもり?・・・コッキーは今もリネインに住んでいるの?」
「はい、町の聖霊教会が私のお家なんです」
これはコッキーが孤児で有る事を意味している、聖霊教会は孤児院などの運営などを行っていた。
「そうなんだ」
話題が聖女アウラからそれたアゼルはベルサーレに少し感謝している、そんな視線を投げかけてくる、彼女はそれに苦笑いを浮かべた。
「で、コウモリ伯爵って何?」
「ふらふらと、ベンブローク派とヘムズビー派の間をコウモリの様に飛び交っているからです、昔町が焼かれた事もあったんで、町の平和の為ならしょうがないと皆おもっていますよ」
コッキーは自分の街の領主に辛辣だ。
「コウモリ伯爵だと真っ先に潰されそうだけど、ルディはどう思う?」
「ん?領主の双肩には家臣と領民の命がかかっているからな、綺麗事では生きられんのだ」
「ですよね、私のお父さんやお母さんは、町が焼かれた時に死んじゃったんです」
微妙な沈黙が流れる。
「だがな中途半端なコウモリは却って災疫を招く事がある、大義名分がなければ裏切る度に信用を失って行くそして最後には孤立してしまう」
ルディガーはどこか遠くを見るように語る。
コッキーは何かを思い出したらしい。
「でも最後まで騎士道精神と誇りを忘れなかった方たちも居ますよ、ド・ルージュ要塞の領主様とご家来衆は忠義を示して壮絶な最後を遂げられました」
「死んじゃったのか、でも本人が満足ならいいのかな?」
その点ベルサーレは現実主義者のクラスタ家の人間らしく辛辣だ。
「騎士道精神と忠義の鏡と言わてますよ、吟遊詩人の悲劇の歌にもなってますよ、もう40年近くも昔の話ですけど」
「コッキーはその騎士の事が好きなんだね」
「お母さんが小さい頃よく話してくれたのです!」
「まだこの国の混乱が始まったばかりの頃か」
ルディガーは何か思うところが有るようだった。
「ド・ルージュ要塞の廃墟は誰も近づきたがりません、夜になると領主様とご家来衆の亡霊が出てあたりをうろつくんだそうです」
「その廃墟はどこにあるの?」
ベルサーレはは廃墟の場所が気になった、怪談や幽霊話は昔から苦手なのだ。
「リネインから南西にだいたい一日程の場所です」
「ハイネとは別の方向だね、僕たちには関係ないか」
「ええ、リネインから西に歩いて二日でハイネです」
「リネインの南には何があるの?コッキー」
「徒歩で一日のところにマドニエが、更に一日行くとマルセナがありますよ、そこから南東にアラセナがその南の大きな山の向こうにオルビア王国です」
三人は感心しながら大体の位置関係を頭に叩き込んで行く、そして会話に疲れたのか一行はやがて黙々と歩き始めていた。
アルゼは昔のエーリカを思い出していた。
学業では突出して優秀だった、気弱だが一途で思い込むと突っ走る、何か失敗すると苦し紛れな言い訳をして深みに嵌まる癖があった、臆病で保身に走るのだ。
優秀で頭が切れるし基本的にお人好しで善良な気性だったからそれが大きな問題になる事はほとんどなかった。
美しく気弱で一途に思い込むと突っ走る、それを含めてアゼルはエーリカを愛していた。
さっきはエーリカの悪いところを、全部見せつけられた気がしましたよ。
「だいぶリネインに近づいてきたぞ?日没までに着くかな?」
アゼルはベルサーレの声で我にかえる、空は茜色に染まり太陽がまもなく沈もうとしている。
それはその日の朝の事だ、ラーゼ城市の東門から護送馬車が出発する、
その馬車を騎馬衛兵隊8名が護送任務に、その護送馬車の鉄の檻の中には5人の男達が詰め込まれていた。
護送馬車はエドナ山塊の裾野の開拓地に向かう、ラーゼの東側や北側は比較的安全デそちらの開発を優先していた。
犯罪奴隷たちの中でもラーゼの者は数年で懲役を終える者もいるが、流れ者は一生木を切る仕事に従事する末路をたどると言う。
護送隊はラーゼの郊外を抜け徐々に街道の周りの樹木が増え始める、森林地帯に近づく、そして遠くにエドナ山塊の裾野に立てられた砦が見えてきた。
その街道沿いの森の中にテヘペロとジムが隠れて護送馬車を待ち伏せしていた。
「姉さんテオさんが来ますよ」
「そうねジム君、打ち合わせ通りにやるわよ」
突然、護送隊はその動きを止める、馬車を牽引する馬と前方の騎馬衛兵2名が突然動かなくなった、後ろの護衛達が即座に異常を察知する。
「どうした?なぜ止まったんだ?」
「御者が寝ているぞ?おい起きろ?」
そして前方の騎馬衛兵の衛兵が落馬した。
「何が起きた?警戒しろ!!」
そしてまた衛兵と馬が何人か動きを止める。
「なんだ、何が起きているんだ?」
「おい馬車の中の奴らも寝ている!!」
残った衛兵は恐慌状態に陥りつつあった、だが残った衛兵と馬もすぐに動きを止め、そして何人かは同じ様に落馬した。
「姉さんやりましたね」
「きついわー『精霊の深き眠り』三連発よ?」
無属性の中位の睡眠魔術を連続で行使したのだ、大型の動物にも効く上に、簡単な衝撃では目が醒めない上に効果時間も長い、だが効果範囲が狭いのが難点。
「じゃあジム君お願いね」
ジム少年は馬車を馬から外し人力で押し始めた、凄まじい剛力だ、その間にテヘペロは隊長らしき男の懐をまさぐり牢の鍵を見つけ出す。
ジムは馬車を森の中まで押し込みテヘペロが牢の鍵を開ける、だが中の5人は昏睡したままだ。
「姉さんこれくらい離れればいいっすよね?」
「十分よ、じゃあ起こすわよ?これでしばらくは魔術を使えないわ、何かあったらテオだけ連れて逃げるわよ」
「まかせてくださいよ、コイツラがおかしな動きをしたらぶちのめします」
「まかせた」
テヘペロが『精霊の深き眠り』を解呪すると、もぞもぞと5人の男達が目を醒ましはじめた。
「くそ、なにが起きた?」
「おお、テヘペロと坊やか」
テオがすぐに二人に気づいた。
「なんだ、お前の知り合いか?」
馬車の中で男たちが騒ぐ、テオが申し訳なさげにテヘペロ達に詫びた。
「ヘマをやらかしたすまん」
「あんたらしくないね」
「化物みたいな女にやられた」
「あの変な小娘?」
「おい、お前ら何なんだよ?」
他の5人の囚人の事を忘れていたのだ。
「貴方達はテオのついでに助けて上げたのよ、好きにしなさい」
「おっ、ありがてえぜ!!」
「でも私達の儲け話を手伝う気があるなら使ってやってもいいわよ?」
「おれは故郷に帰らせてもらう・・・」
結局のところ3人の囚人はそれぞれの道を行く事になった。
去る者は追わない、脱走囚人が個別に動くならラーゼの警備を混乱させてくれるだろう。
一人残ったのは30代ほどの中肉中背の頑強な男だった、職業は見ただけでは解らないが堅気には見えない。。
「さて、残った人だけど試験させてもらうわよ?」
「なんだと!?」
「貴方、何か特技とか無いの?前の仕事とかあるなら言ってみて?あと何をやらかしたのか」
「俺は傭兵をやってた、食料の横流しがバレて逃げ出してな、逃げる時に仲間を殺した、そして強盗をやらかしてこのざまだ」
「採用ね」
その場に居た者達は気を緩める。
テヘペロは傭兵に向き直り値踏みするように眺めた。
「さて傭兵君の名前は?」
「俺はマティアス=エロー」
「私はテヘペロ=パンナコッタ、とっても素敵な魔女よ」
続いてスリが自己紹介をした。
「俺はテオ=ブルース、昔時計職人だった男だ」
最後に大柄な少年が名乗る。
「僕はジム=ロジャー、未来の冒険商人さ」
「じゃあ、急いでピッポと合流するわよ」
「で、とっても素敵な魔女さん、儲け話って何なんだ?」
「あとでね急いで離れるわよ、リネインに向かうよ!」
四人は急いでリネインに向かう道を急ぐ。




