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聖女アウラ=フルメヴァーラ

ラーゼ城市の南門の扉が開かれる、最初に聖霊教会の巡察使団が門から出発していく、

聖霊教会の戦士8人が3人の修道女と指導者と荷運び人夫を守る様に取り囲んでいる。

その後に小さな傭兵団の10名程、更に商隊が二つ続き、その後から行商人と旅行者、最後にルディガー達が続く。


総勢は80名人近くになる、ほとんど全員が何らかの武装をしていた、巡察使団は強力な戦闘力を誇り傭兵団と商隊の護衛もかなりの戦力になるだろう、ケチな盗賊団ではまず手は出せない。


そしてルディガー達の姿は昨日までとは一新していた、ルディガーは旅に出された商会の若旦那の設定だがその頑健な肉体と二本の長剣からとてもそうは見えなかった。

名のある武人を思わせるような重厚な風格を備えていたが、妙な親しみ安さと軽薄さが同居している、端正な容貌と不思議と騎士の装備か貴族の礼服が似合いそうな気品を兼ね備えていた。

彼の偽名はルディ=ファルクラムだ。


ベルサーレは商家の小間使いの小娘のような服装をしている、だがその工夫を美しい鋭利な顔立ちと夜の闇の様な漆黒の黒い長髪が台無しにしている、眼力が強く態度や仕種が大胆でスカート姿で大股で歩きまわる、その動きは躍動感に満ち柔軟で力強い肢体を感じさせた、腰を幅広の革ベルトで締め短剣とグラディウスを佩いていた。

踊り子か曲芸団の団員が似合いそうだが本人に言ったら無事では済まないだろう。

彼女の偽名はリリーベル=グラディエイター


アゼルは商家の会計士か番頭のような格好をしている、田舎の小役人でも通じるだろう、神経質そうな顔と丸メガネがとても良く似合っている、むしろ商家の会計士か番頭か小役人以外に見えなかった。

見事な変装の手本の様に見えて、本当の処は商家の会計士か番頭か田舎の小役人以外に変装できない。

本人は変装に自信がなさげだがこの三人組の中では一番完璧に近い。

彼の偽名はアダム=ティンカー


その三人が行列の最後尾を飾っている。

ベルサーレはアゼルが心ここに在らずな態度なので眉を顰めた。

「アゼル、アマンダが来るんだって?」

「え、ええ、そうです昨晩連絡がありました、嬉しいですか?貴女の姉妹の様なお方でしたね?」

「うん、まあね」

彼女は話題を変えた。

「ルディ、みてピッポがあそこにいる」

ルディガーもピッポを探していたようだ。

「あああそこにいるな・・・奴は魔術師か学者なのだろうか?」

「ねえアゼルあいつが魔術師かどうか解る?」

アゼルは何事か考えているようで反応がない。


「えっ!?そうですね魔術師独特の空気がありません、それに学者とも思えません、まるで演劇にでてくる学者のような芝居がかった俗な服装です」

心ここに在らずなアゼルの反応を彼女は更に訝しむ。


アゼルは昨晩の事、ルディから聖霊教会の巡察使団に同伴してリネインを目指す意思を聞かされた時から心が騒いでいた。

そしてこの朝、南門に集まる群衆の中に聖霊教会の巡察使団の姿は一際目立っていた。

特にプラチナブロンドのエーリカの美しさは一際目立っていた、巡察使団の団長は初老の高位聖職者だが、エーリカもその中ではかなりの高位の立場のように見えル、修道女や聖戦士達の彼女への態度は敬意の籠もったものに見えた。

アゼルは無意識にエーリカの姿を追っている。

アゼルは大公妃の命でアルムトの聖霊宣託で高名なヘルマンニの送迎使節に従事した時の事を思い出した、エーリカが姿を消しアゼル達が彼女を探しまわった事、後ろ髪を引かれるようにエルニアに帰国しなければならなかったその時の心痛を思い出す。


「ルディあそこに居る、銀髪の人綺麗だね?」

「ご存知ないのですか?彼女こそ聖霊教会の一修道女から、未来の大聖女候補に駆け上がっている、新進気鋭のアウラ=フルメヴァーラ様ですよ」

すると近くにいた10代なかばの少女がベルに急に語りかけてきた、年齢的にはベルサーレに近い。

少女は小柄な美少女で落ち着きのない目をしていた、髪の色は薄い金髪でショートボブ、蒼い厚手のワンピースを着込み、薄い背嚢を背負い上から外套を羽織り、腰から短剣をぶら下げている。

大胆で人懐っこい少女にベルサーレも驚いた。


「君は?」

「いえいえ大した者ではありませんよ、お姉さんと兄さんは、一昨日スリを捕まえたり盾を真っ二つにした方々ではありませんか?」

「ああ、君あそこにいたんだね?」

ベルサーレは少女を見下ろしながら微笑む。


「あれは熱く燃えましよ」

「ルディ、ファンができたよ?」

「ん?私はルディ=ファルクラムだ、貴女の名は?」

ルディガーの気さくながらどことなく気品のある態度に少女は少し当惑した。


「えー私はコッキー=フローテンと申します」

「僕は、ラ、リリーベル=グラディエイターだよ、ベルでいいよ」

「私はアダム=ティンカーと申します」

アゼルの肩の上で小さな白い猿が鳴いて挨拶する。


「コッキー、君は何の用でリネインに行くの?」

年の近いベルサーレの方が話し易いようだ。

「ハイネにご注文の品を届けにまいります、あれなんですよ、外国の商隊はラーゼより先にあまり進みたがらないので、私達も担ぎ屋で稼げるんですです」

少女の奇妙な口調にベルサーレは当惑したが気を取り直す。

「危険じゃないの?」

「でも背に腹は変えられませんです、仲買商が間に入って担ぎ屋がラーゼとハイネを繋いでいるんですよ」


その間ルディガーは街道を進みながら周辺の風景を観察していた、ラーゼ城市周辺は整った田園風景が広がっていたが、4時間も歩くと、次第に林が拡がり始める。


「うむ、平地のはずだが林が多いな、それにあの丘の上に廃墟があるぞ」

開墾すれば良い農地になりそうだが雑木林が延々と広がっている。


「ここらへんも昔は農地だったそうですよ?おばあちゃんが言ってました」

「ルディ、そこの林の中に石壁の跡や家の土台の跡がある、村の廃墟だね」

恐るべき観察眼のベルサーレが言葉を添えた。

更にどのくらい歩いた事だろうか?特にリーダがいるわけではないが、聖霊教の巡察使団の休憩と共に全体が休息を摂り始めた。


三人は昼食として携帯食料に手を出す。

「多めに買ってきて良かったよ」

その時列の前の方から歓声が聞こえてくる、ベルサーレが思わず立ち上がり前方を観察した。

遠目にも美しいプラチナブロンドの美しい女性が3人程の護衛を連れ、行列の商隊や旅人に精霊の祝福を与えながら後方に向かってくる。



「聖女アウラ様が来ますよ!!」

コッキーも少し興奮気味に騒ぎ出した。


「すごい綺麗な人だね」

「たしかにな」

それにルディガーも相槌を打つ。

そしてアゼルはこちらに向かっていくる聖女アウラを凝視していた、それにベルサーレが気づく。

アゼルには他の者達のような憧れや喜びは無く、アゼルの表情から苦痛と悲痛な何かを感じ取る。

「アゼル・・?」


アゼルはエーリカが行方不明なままエルニアに帰国した後、私塾の先生と共に港町リエカのエーリカの両親の元に赴き彼女の両親に報告し詫たのだ、

自分たちが至らないばかりにエーリカを見失ったと、その時の両親の悲しみを忘れることができない。

アゼルはエーリカの両親とも長年の旧知だった。


そして三年後に故郷にエーリカの墓を立てたと言う話を風の便りに聞いた頃、私塾の先生からエーリカが名を変えて生きている事を聞かされた、アゼルはそれを卑怯だと憤る。

そしてエーリカ=サロマーが聖女アウラ=フルメヴァーラとしてアゼルの前に姿を現したのだ。


アゼルは胸に湧き上がる暗い感情を制御しようと必死だった、ルディガーとベルサーレはアゼルの異変に気がつき当惑する。


そして行列に祝福を授けながら聖女アウラが近づいてきた。


「精霊の祝福が命の子らの元にありますように」

ルディガー達三人も礼を逸しない態度でそれを受ける。



アルゼの顔色が悪い、そして突然アルゼが突然口を開く。

「アウラ様、悩みが一つあるのです、相談に乗っていただけませんでしょうか?」

アウラは僅かに体を震わせる。

「は、はい、かまいません」

二人は当惑してアゼルと聖女アウラを交互に見つめる。


「私の知人にあるご夫婦が居ます、彼らは娘がいましたが死んだと思っています、ところが娘は生きていました、彼らに娘が生きている事を伝えるべきか伝えないべきが悩んでいるのです」

「その御夫婦は、娘さんが生きている事を知らないのですか?そんな・・」


私に直接伝えられないから先生に伝え、ご両親には私が伝えると思っていましたね、それが卑怯なのです!!

それがアゼルの心の声だ。


護衛の戦士がアウラの態度に不審を抱く。


「アウラ様どうかなさりましたか?」

アウラの表情からは、当惑、後悔、悲しみ、苦痛、そのどれとも取れる色が読み取れる。

「もし生きている事をお伝えする事は、娘の裏切りをお伝えしなければならなくなるからです、でもそれでも生きていて欲しいと思うのも親心ですから悩むのです」

私やご両親に直接伝えるべきではありませんか?謝るのが嫌でしたか?それとも責められるのが・・・

アゼルは内心の怒りを抑えるのに苦痛を感じていた。


「わ、私も未熟者ゆえ、答えは時が解決するのではないでしょうか?」

アゼルはこの瞬間激昂した、だがアゼルの右腕をベルの腕が掴んでいる、アゼルの腕は鋼鉄の軛に繋がれた様にびくとも動かなかった。

そしてルディガーがアゼルの肩を力強く掴んでいる、その手は大きく温かい。

そしてアゼルは急激に冷静になった。


「彼女を大切に思っていた全ての人に対する裏切りだったのですから」


貴女を一番大切に思っていたのは私でした、エーリカ!!

そうアゼルは心でそう叫んでいた。





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