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混乱のテレーゼ

「あなたともお別れですね、お世話になりました」

翌朝、アゼルは身軽になったロバを市場で売った、白猿のエリザもロバの背中に乗り旧友との別れを惜しんでいる、ロバの瞳も心なしか潤んでいる様に見えた。


「さあ行きましょうかお二人、昼食をとったあと買い出ししましょう」

アゼルは二人を促して、中央広場の方角を指さす。

「良い店とかあるの?」

「ベル嬢、東門近くに私の馴染みの飯屋があります」

三人はアゼルの案内でその飯屋に向かった。

「ところでどうしても小間使いの格好をしなきゃならないの?」

「ベル、そんなに嫌なのか?」

ルディガーは面白そうに語る、それに彼女は不機嫌になった。

「動きにくいと言うか戦いにくい」

「貴女らしい理由ですが、我慢してもらいます」

「でもこの剣とか似合わないよ?」

彼女は腰のグラディウスの柄を軽く叩く、小間使いの服とグラディウスは確かに似合いそうもない。

それにアゼルが興味を惹かれた。

「ベル嬢、その剣の鞘は昨日買ったのですよね?」

「中古の出物だよ」

「昨日はあまり良く見て居ませんでしたが、ずいぶんと古風な意匠の鞘ですね」

「城の図書館の壁に有った神話絵巻に描かれていたのと同じ」

「ああ、アウデンリートの・・・あれは歴史絵巻ですね、ロムレス帝国のユピテル軍団の記章ですよ」

「ユピテル軍団って何?」

「ユピテルは西方世界の宗教の主神の名前です、その主神の武器の雷撃を象った記章です、ユピテル軍団はその神の名を冠した軍団なんです」

「ほんとだね電のような意匠だね」

ロムレス帝国は大陸西部で建国され大陸の半分を支配した大帝国だ、二番目の帝国として第二帝国などとも呼ばれている、その帝国の重装歩兵は今も有名で彼女のグラディウスはその時代の武器だ。

ちなみに高名なセクサルド帝国は第六帝国と呼ばれている。


「でも傭兵のかっこの方がいろいろ動きやすいでしょ?」

脱線しかけた話をベルサーレが戻した。

「アゼルよそれは俺も思ったな、戦の多いテレーゼでは傭兵の方が自然ではないのか?」

話を聞いていたルディガーが加わる。

「いえ商人は流通を絶やさない為にある程度は庇護されますが、傭兵は関所で留められたり、組織に属していない傭兵は強制的に雇用される事すらあるんですよ」

「ここはそこまで酷い事になっているのか」

ルディガーは眉をひそめた。

「ええ、敵の陣営に傭兵が行かないようにするなどの嫌がらせが多いのです、敵を干す為に商人も足止めされる事もありますがね」


「ああ、見えてきましたそこです」

アゼルが指さしたのは小奇麗な飯屋だ、アゼルが言うには夜は酒場になるらしい。

ドアをくぐると店の店主がアゼルにさっそく声をかけてきた。


「あんたか?ひさしぶりだな今日は連れがいるのか」

「こんにちは」

ベルサーレが店主に愛想を振りまく、ルディガーはそれに密かに驚いた、彼女は二年前までお転婆とは言え貴族の令嬢だったのだから。


「ラーゼは安定して恵まれていますが、他は厳しいですよ、ここで十分食事を楽しみましょう」

三人は豚肉の野菜炒めを注文した、ここではかなり贅沢な料理なのだ。

席について落ち着いた頃、となりのテーブルの傭兵らしき男達の会話が漏れ聞こえてきた。


「ハイネ方面で戦が起きるぜ」

「今からじゃあ稼ぎにならんな、移動の邪魔なだけだぜ、でどこが戦うんだ?」

「ベンブローク派のヘンリー=ベントレー伯とヘムズビー派のアラン=ベントレーらしいな」

「また相続争い絡みかよ、どうしようもねーな」

「双方の援軍が集まりつつあるらしい」

「朝まではそんな話聞いてなかったがどうなっているんだ?」


そんな話を聞いていたベルサーレがルディガーに尋ねた。

「テレーゼっていったいどうなっているんだ?」

「簡単に言うとだな40年程前にテレーゼの王室で継承争いがあった、お互いに暗殺で殺し合った、最後の直系は恨まれた家臣に殺された。その後は縁戚の公爵家同士で争いが始まってな、二つの派閥で延々と争い続けている、それぞれベンブローク派ヘムズビー派などと呼ばれている」

「良く周りから攻め滅ぼされないね?」

「北はアラティア王国とセクサルド王国とグティムカル帝国が延々と争っていて介入する余力がない、クライルズ王国は湖沼地帯と山脈があって関心が薄い、エルニアはまだ開発する場所が多くてテレーゼに関心がない、むしろテレーゼから来る流民や盗賊や諸侯の奪略を何とかしたいのだ」


彼女は周りを見渡してから更に声を落とした。

「クラビエの自由開拓民の村はテレーゼからの流民で開発したんだよ、父さん達はエルニアからは農民を入れないようにしていたみたい」

「ああ、そういう事か!!」

ルディガーはクエスタ家の狡猾さに頭を抱える、今度はアゼルが続けた。

「あとですねグダグダ続く理由がありまして、例えば相続争いで兄がベンブローク派に付くと弟は反対側に、領地争いが起き片方がヘムズビー派に付くと、敵対している方が反対側につく、二つの陣営の勢力図が入り乱れ絶えず変化しています、何時の間にか敵対し合う者の陣営が入れ替わっている事すらありました」

ルディガーがそこで顔を上げた。

「ここ40年で人口が半減したと言う者もいるのだ」

「えっ?それは酷いね」

これには流石のベルサーレも驚いた様子だ。

「誰も正確な情勢を知っている者がいないとさえ言われる」

「それでもな、今までも何度か混乱が収まりかけた事もあったのだ、だが大概予期せぬ出来事が起きて混乱状態に戻るのだ」

「呪われた大地とか、外国からの謀略と怪しむ者も多い」

そこに料理が運ばれてきた、給仕の若い少女はアゼルを見て顔を赤らめた。


「しかし戦場の真ん中を進むのは無謀だ」

「殿下、こんな事はよくあることです、南のリネインやその南からハイネに迂回できるかもしれません、遠回りですが戦がいつ終わるかなんてわかりませんから」

「そうだなリネインを迂回するか」


昼食を終えた彼らは中央広場近くの衣料店に向かう。

商人の制服が有るわけではないのでそう見える衣裳を購入するだけだ、男二人の衣裳は簡単に確保できたが、彼女が衣装に悩みなかなか終わらない、男二人が痺れを切らし始めた。


「衣装代は私が持ちますから悩まないでください」

「ベルよ俺が選んでやろうか?城の侍女服には詳しいぞ?」

「勝手な事しないで!!わかったから」

彼女は素早く小間使いに見えそうな服を選んだ、小間使いにしては少々高級に見えるがやはり育ちが良いのだろうと、男達は何も言わずに自由にさせていた。

「まあこれなら、商人の一行らしく見えますよね・・」

だがアゼルは自分の買い物にあまり自信が無いようだ。


「さて、私は魔術用の触媒などを確保しなければなりません、今後の旅に絶対欠かせない物なので時間をいただきます、あとまともに物が手に入るのはリネインぐらいなので、必要な物はここで買っておいてください、日が暮れるまでには宿に戻ります」

「僕は野営道具を買い直す、あと携帯食料を補充しなきゃ」

「俺はベルに付き合うぞ、その後で西門に行き戦の話でも集めるか」


二人がアゼルと別れ中央広場を抜け西門に向かう街路に入ったところで、後ろから声を掛けてくる者がいた。

「やあやあ、昨日のお二人ではありませんか?」

振り返るとそこにいたのはピッポだ、だが昨日の女魔術師の姿は無い。

「昨日の親父じゃないか、儲けさせて貰って済まなかったな」

「イヒヒ、こんな処で偶然合うとは、昨日は兄さんには驚かされましたですぞ」

「ところで昨日の美人の姉さんはどうしたんだ?」

「え!?いえいえそんな女性はおりませんぞ?何かの見間違いではありませんか?」

「そうか、すまなかった、後ろにいた綺麗な姉さんが、親父殿の仲間だと誤解していたようだ、ところで何の御用かな?」


ピッポは相変わらずにやけた笑みを貼り付けた顔をしておりその表情の変化は読みにくい。

「ハイネへの道が危険になりまして、我々も迂回してハイネに行きたいので、どこかに便乗しようと思いまして」

「俺達に便乗したいのか?」

「お兄さん方もハイネですか?聖霊教会の視察使団が南に向かうので、我々もそちらに便乗するつもりです、お兄さん方もそうしたらどうですかな?ヒヒヒ」

男は胡散臭い笑みを浮かべながら嘘くさい笑い声を上げる。

「おお、聖霊教会の視察使団ならば安全は高まるな、俺達も便乗させてもらおう」

「旅は数が多いほうが安全ですぞ」


そこに彼女が話に割り込んでくる。

「ねえ、あの盾叩くのに一回3ビィンだと苦しいんじゃないの?もっと値上げした方が良いのに」

「いえいえ、そのくらいじゃないと余興で乗ってくれるお方が居ないんですよ、長年の経験と言うやつです、こちらも厳しいのですよ、イヒヒッ」

ルディガーは何かに気がついた様に彼女に視線を投げる。


「ところで聖霊教会の視察使団はいつ出るのかな?」

「明日の早朝の開門と共に出るそうですぞ」

「ありがとうよ、ではまた明日会おう」

二人はピッポに手を振りながら別れを告げ西門に向かって歩きだす。


「俺の剣に目をつけている可能性が高いな、まあ俺の正体を嗅ぎつけた可能性もゼロではないが」

「そっちの可能性もあるのか・・・」


「ところでベルはスリも奴の仲間だと疑っていたのか?」

「ボルトにも居たんだよ、大道芸人が人を集めて仲間がスリで稼ぐんだ」

「なるほどな、そう言うことには疎くてな」


「あとアイツ『我々も』と言ってたね」

「ああ、やはりあの女とスリも仲間だな」


二人はそのまま西門に向かった。




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