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精霊宣託と神隠し

先導するベルサーレの案内で森の中を進むとすぐに小さな小川に行き当たる。

「川上に僕の狩猟小屋があるんだ」

ベルサーレは振り返りもせず川上を指さす、そのまま川に沿って進むと先に狩猟小屋が見えてくる。

「ここを拠点にしているんだ、そばに泉もあるよ」


狩猟小屋の外に設けられた作業場にうさぎの毛皮を投げ出した、そして肉の入った革袋を机の上に乗せ、

捕虜はまだ気絶していたが耳に粘土を詰め目隠してからルディガーが倉庫に放り込む。


「治療からだ、火を起こすから桶に水を入れてきて」

彼女は焚き火に火を起こし薪を放り込む、ルディガーが泉から汲んできた水を金属製の筒に移すしハンガーからぶら下げる。


「ルディここに座って」

焚き火のそばにある丸木を指差す、ルディガーは大人しく腰をかけた。

さっそく彼の上着を乱暴に脱がし始めた、ルディガーは驚いたが彼女がするに任せる、血が乾き初めて痛むようだが彼女は躊躇しない。


ベルサーレは怪我の状態を調べる、背中に新しい刀傷が二箇所あった、だがいずれも傷は浅く神経や筋肉は無傷だ。


「まずは何があったか教えて」

彼女は清潔な布を湿らせて汚れを拭き取る、小さな金属ボトルの消毒用の強い酒で傷を洗う、手慣れた様子だ。


「巻き込んですまなかったなベル、まさかこんな処で会うとは思わなかった、俺に反逆の疑いがかけられている」

「本当に反逆は考えていないんだろうな?」

「覚えはない!!」

「もう僕とルディの関係だから無関係じゃ済まないな、お前と出会わなければ何も知らないままお前の仲間として捕まる可能性があった、むしろ運がよかった」


「そうだな、まずお前が追放されてからの話からしようか?」


彼の傷を診ていたベルサーレが口を開く。

「傷は浅いけど縫った方がいい、これからまともに治療を受けらないからね、傷が開くと悪い風が入る、縫った上で傷薬を塗って包帯を巻こう」


「同感だなやってくれ、話しながらでもかまわん、俺は慣れている」

「うん、わかった」

治療道具の金属の蓋を開けると、針を火で焼き消毒し傷を縫い始める。


「ベル、2年前の神隠し事件を覚えているか?」

「忘れるも何も僕らが当事者じゃないか?とうさんは大公家狩猟場管理人を首になるし、騎士爵まで剥奪された、僕も公都から30キロ以内に入れなくなった」

「誰かに責任を取らせるしかなかったんだろう」

ルディは傷を縫われながらも平静を装ち苦痛に耐えている。


「あの後から義母(ハハ)が焦りだした、ちっ」

流石に少しは痛むようだ。

「あの神隠しと関係あるの?」

「俺が調べた範囲だが、5年前に義母(ハハ)が雇った大魔術師とやらっ、の予言が原因らしい、正確には精霊宣託だが、俗には予言で通ってしまっている、具体的な内容はわからん」

「その大魔術師とやらに聞くしかないな」


「そいつはもうこの世にいない、殺された」

「えっ?簡単に殺されるようなら大した魔術師じゃあないだろ」

彼女は神や魔法といった物をあまり信用していないので辛辣な評価を下した。


「まあそう言うものではないぞ、魔術師といえども弱点がある、強大な魔術師が呆気なく倒される事もある」

「あの神隠し事件の後からおばさんが無茶をやりはじめたのか?」

大公夫人もベルにかかるとおばさん扱いだ、彼も思わず目を丸くして驚く。


「お、おばさん?もともと俺をあまり良く思っては居なかったが、弟の方が継承順位が高いし背後の勢力も遥かに強い、無理をする理由がない」

「あの神隠し事件でその予言を信じるようになったのか」

話をしながら傷を縫うのだから二人共かなり神経が太い、彼が歴戦の勇士で簡単な負傷に慣れているからできる事だ。


「良くわからないけど予言って未来の事がわかるのか?占いの様なもの?」

「俺も専門家ではないが立場上教育は受けている、術者が精霊に質問を行いそれに対して精霊が答えるのだ、占いなどとは別だぞ」


「精霊には未来が見える?」

「いや、見えない、例えば『今年は小麦が豊作か』と尋ねたとしよう、精霊は精霊が知る情報と知識から答えを導くだけなのだ」

「予言じゃなくてただの予測じゃないか!?」

「馬鹿にできるものではない、高位の精霊は支配下の精霊の意識を統括している、高位になるほど利用できる情報が増える、膨大な情報から得られる予測は予言に等しいのだ、まあこの事を理解している者は少ない、人々には奇跡や占いと区別がつかない、だから詐欺師が横行するわけだな」

「そいつ大魔術師と名乗っていたんだろ?詐欺師じゃないのか?」


彼は何かを思い出すかの様に考え込んだ。

「この種の精霊宣託を生業にする術士は、どれだけ高位の精霊に接触できるか、精霊の性格や性質や質問の内容を最適な物にできるかが腕の見せどころなのだ、海で嵐になるか知りたい時に、森の精霊に質問しても意味が無いだろ?」

「それはそうだ、詐欺師の予言のせいで大公夫人がおかしくなった?」

「奴が義母からどのような注文を受けたのか、どんな質問を精霊にしたのか、精霊の答えが何だったのか解からん」


「終わったぞ?・・・あとは傷薬を塗って包帯を巻いて終わり、その後は食事をしよう」

どうやら治療が終わったらしい。

「何か上に着るものはないかベル」

「着るものなんてないよ・・そのマントを纏っていて、そのボロも洗濯しておく、服は焚き火で乾かそう」




そんな二人が体を休めるバーレムのも森から遥か東の地、エルニア公国公都アウデンリートの中心に大公家の居城が聳え立っていた、エルニアはセクサルド帝国の公爵家が自立し公国を興した国だ、公国の歴史は70年に満たないがアウデンリート公爵家の支配は200年に及んでいる。

そのエルニア公国宰相ギスラン=ルマニクは大公の執務室の前で立ち止まった。

ギスラン=ルマニクは初老の痩身長躯の男で、短く刈り上げた頭髪は薄いブラウンでそこに白髪が混じる、知的で鋭利で文官だが覇気に満ちた人物で、僅かに釣り上がりな目元が酷薄な印象を与えている。


「大公殿下はお戻りになられたのだな?」

宰相の少し苛ついた質問に執務室の前に控える文官がそれに答えた。

「先ほどはもうしわけありませんでした閣下、大公様はお戻りになられております」


ギスランは僅かにため息を吐く。

「お目通りする開けよ」

扉が開かれたその奥の豪華な椅子に、中肉中背の中年の男が腰掛けている、その前に宰相は進み出る。


ギスランが対面するこの男こそ、セイクリッド=イスタリア=アウデンリートその人でエルニア公国の現大公だ。

大公は濃い黒髪に長身で大柄な体躯だが、長年の不摂生と飲酒、心の鬱屈が滲み出るかの様に疲れ果てギスランより若いはずだが年老いて見える。

面影はルディガーに似ているところがあるが、ルディガーの様な覇気や鷹揚さは全く感じられなかった。


「ギスランよ、あやつは城から逃げたのか?もうおらぬのだな?」

「大公殿下、ルディガー殿は今朝城から逃亡いたしました、すでに追手を放っております」

「そうかそうか、もうおらぬのか」


大公の表情からいかにも安心したかの様な感情を読み取り、ギスランは内心で大公に呆れ果てる。


「ルディガー殿には反逆罪の容疑がかかっております!!」

その反逆と言う言葉を聴いた大公に怯えた様な色が流れる。


「ご心配には及びません、彼に同調する者はほとんどおりません、三伯も七男爵もお味方ですぞ?」


名君と語られる先代大公ギデオン=イスタリア=アウデンリートに似ていると言われた自分の長子に嫉妬し恐れ憎み、長年つまらない嫌がらせをしてきた相手が、いざ反逆したと聞かされ怯え慌てふためくのだから見苦しい。

ちなみに三伯とは、公爵家が独立時に臣従させた帝国諸侯で七男爵は公爵家の直臣で領地を持たずに公国の要地を管理している。

エルニアは他に72の騎士爵がいるが、公国各地で領地を持ち大公家から武装招集が掛かると一族や農兵を徴発し馳せ参ずる、領地に応じて数十人から数百人と軍役が定められている。


「それに関しまして、召喚術師の投入許可をいただきにまいりました」

「あれを使うのか?あれを使わなければならない状況なのか?」


大公は急に不安になったようだ、宰相は内心で『チッ!!』と舌打ちした。


「反乱が成功する可能性はありませんが、国外に逃亡されると厄介です、外国に利用される危険がありますので」

国外に逃げられると厄介なのは宰相の本心からだった。


「いや私は知らんぞ?お前の判断で使うんだ!!」

ギスランの心に憤怒の炎が吹き上がる『こやつ将来責任を追求される事になったら私に責任をなすり付ける気か?いや、こいつの気性から、息子殺しに耐えられないだけかも知れない』

ギスランから憤怒は消え去りそれは哀れみに変わる。


「殿下、私はこれから対応に当たりますので、宰相室に戻らせていただきます」

ギスランは大公の居間から退去した。


宰相室に引き返すギスランは苛立ちながらも。

「大公夫人の方がまだ上に立つ器量があるのではなかろうか?」と思わず零す、それは小さな呟きだった。




質素な晩餐は、硬い黒パンとウサギの肉を焼き塩をまぶし森の山菜を添えたものだ、野いちごがデザートだ。

「本当に助かったぞベル、傷の治療や食事は諦めていた、まだ俺の運は尽きていなかったな」


「慌てて城から出てきただろ?」

ベルサーレが汚れ血染みができた豪奢な平服のルディガーを上から下まで眺める。


「馴染みの侍女から暗殺計画を教えてもらった」

「その侍女は無事なの?もしかしてその侍女はアマンダだな?」

「良くわかったな、彼女も城から退去したはずだ、後は無事を祈るしか無い」


「それにしてもルディを追ってきた奴らはかなりの使い手だった」

「それをあっと言う間に倒しただろ?お前も強くなったな、あれは神隠しの後からか?」


「そうだ、自分で言うのも変だが力も速さも強くなった、初めは気がつかなかった、森で狩りをしている時に異常に気がついたよ、ルディはどう?」

「俺は良く判らんな、気がつかないだけで何かが変わっているのかもしれんが」


ベルサーレが皿を舐め始めたのでルディガーは驚いてそれをつい見つめてしまう。


「あの連中は宰相直属の精鋭だ、すぐ動けるのが奴らしか居なかったのだろうな、これから本格的に大部隊を送り込んでくるはすだ」


「大公は知っているの?」

「知っているだろうな、むしろ義母(ハハ)よりも俺を憎んでおられた、義母(ハハ)は弟が可愛いだけなのだよ、むしろ長年父上を抑えてくれた程だ、その歯止めが消えた今もあの人(チチ)は自ら何も成す事はないだろう、義母(ハハ)に好きにさせる事で望みを叶えるつもりだ」

「なんかとても情けない人?」


それに彼は答えない、彼女も幼馴染の父親に対する意見をそれ以上言うことができなかった。

「ルディ、本当に反逆は考えていなかったんだろうな?」

「ああ、冤罪だ・・・」

彼女は話題を変える。

「ところでなぜアゼルのいる場所に向かっているんだ」


アゼルは総務庁の役人で魔術師でルディガーの旧友だった。

「俺が城に居られなくなったら合流する予定だった、事態が急に動いたがな、あとはベルとどうやって接触するか悩みどころだったが、それはこうして解決した」

「まあ・・そうだね」


「アゼルは神隠し事件の後に都から退去したのだ」

「まったく知らなかったよ・・・」


「俺は今までアゼルと連絡は取り合っていた、向こうから一方的に連絡してくるだけだがな、神隠しの後から俺は自由に動けなくなりお前とも連絡が付けられなくなった」

「ルディはあの城で孤立していたんだな・・・」

「僅かだが味方がいないわけでもないアマンダとかな」


「でさアゼルはエドナのどこにいるの?」

「地図はオレの頭に入っている・・」


「ええっ!?じゃあここに地図を書いて!!!」

焼け炭で作業場の床板をトントンと叩いてから、焼け炭を彼に投げつける。



やがて作業場の床に書きなぐったエドナ山塊の地図を眺めながら、彼女は憐れむ様に作者の顔を見つめる。

「絵の才能ないよね、ところでこの角が生えた犬は何?」

「これは『鹿の踊り場』と言う意味なんだぞ!?」

彼の声は僅かな怒りを帯びている。

「鹿だったの?犬にしか見えない!!」

ベルが笑い転げはじめたところで、不機嫌になったルディがベルの漆黒の長髪をわしゃわしゃと掻き乱し、逞しい腕がベルの首を軽くロックした。


「うがーー、苦しい、やめて」

少し泣きが入ってから解放されたが、ルディを軽く肘で突いた後で再び地図を睨む。


「そこが『鹿の踊り場』ならその三角は『エドナの鼻』と呼ばれる岩山だな、麓で一泊してその翌日の昼には着く、明日は日の出前にここを出よう」

「ベル、エドナの鼻の東側の斜面にアゼルの山小屋があるはずだ、山は花崗岩の尖頭でそれほど大きくはない、近くに行けば山小屋が見えるらしい」

「なら山まで森の中を突っ切ろう、狩猟小屋はもう使わない、追跡してくる奴らは馬鹿でも無い限りガイドを雇うはずだ」

「狩猟小屋の場所が割れているかもしれんのだな?」

彼女は頷きそれを認めた。

「うん、一泊だけなら野宿で、寝る前に荷造りしておこう、あと売り物はここに置いて行くしかないな」

「必要な物だけ運ぶのだな」

「そう、あとそこに川があるだろ?あの花畑の泉からも川が流れてる、追手が町から川沿いに進んで来たら遅くとも5時間でここまで来る」


「明日は早めに動いたほうがいい」

彼女は食事の後片付を終えると治療道具の掃除を初める。

「ルディ、これは消毒用の酒だ、飲めるけど絶対飲むなよ?」

「なあ俺を何だと思っているんだ?」

残念そうな何か言いたげな顔でベルを見つめている。


無言で出発の準備を進めていると、彼が再び口を開いた。

「なあベル、気がかりな事があるのだ」

「何?」

「大公家のお抱え術士の中に精霊召喚を生業にする者がいる、精霊宣託や精霊の力を直接行使する術士は多いが、精霊召喚士は非常に少ない」

「召喚士だと問題があるの?ごめん魔術とか精霊とか知らないことが多くて」

「そうだったな、だが先の事を思うとベルにも精霊について知ってもらった方が良い、いや神隠に巻き込まれた以上もう知らないでは済まないだろう」

彼女も観念したのか大人しく生徒になる覚悟を決めた様子だ。


「俺たちのいる世界を『現実界』または『物質界』と言う、『現実界』に近い順に『幽界』『霊界』『神界』『魔界』などがある、すべて俺達のいる世界と同じ場所に存在していて、すべて重なっているが、壁を越えなければ行き来できない、例えるのが難しいのですまんな、そして精霊は幽界の住人なのだ、幽界は『現実界』に一番近い世界だ、何かしら媒体になる物や力が有れば、こちら側の世界に現れる事ができる、自然が美しい場所など神秘的な気分になる事があるだろ?人にもある程度は力を知覚できる、そのような場所は精霊の力が現れ易い場所になる」

「ああわかるような気がする、何かが出てきそうな気分になる場所があるな」

彼女は先程戦った泉と天然の花壇を思い出した、何か神秘的な何かが出てきそうな気分になる場所だ、今は血と屍体で汚されてしまったが。


「精霊召喚術士は幽界の生物をこちらに呼び出し使役する、だが幽界の生物には極めて厄介な化物がいる、そして強力な生物ほど召喚には大きな危険が伴う」

「そんなのが精霊なの?」

「人と会話ができる、有益な情報を得られる、安全に力を借りられる幽界の住人しか知られていないだけだ、幽界の生物を精霊と呼ぶのだ、こちらにも危険な獣がいるように幽界にもいる、そして精霊を呼び出すには、精霊と会話するだけ、力だけ借りるのとは桁が違う労力が求められるのだ、普通は自然界の力が濃い場所で召喚を行うようだな」

「ルディよくそんな事を知っているな!?」

「おれは大公家の公子だぞ?基本的な知識は叩き込まれるんだ、もし自然界の力が利用できない場合、より特殊な触媒や大きな魔力、さらに従わせる為に己の命を削る必要がある、それが召喚術士は長命ではないと言われる理由だ」

「そのなかでも危険な精霊を使役する場合、一生で召喚する回数が限られたり、使役に失敗すると精霊に殺されかねない、そのせいで召喚士をやる者が少ないのだ」


「そんな術に意味があるのか?」

「利点もある、精霊から力を借りる術の多くは術士の近くでなければ行使できない、召喚精霊はこちらに具現化した後は術士から離れて行動できる、力を使い尽くすまではな、偵察や手紙を運ばせるなど、比較的安全に呼び出せる召喚精霊はなかなか役に立つ、精霊宣託のような曖昧なものではないからな」


「誰かを殺せと命じたら追いかけて命令を実行できるわけだな?だいたい何を言いたいか分かってきた」

「ああ、使われる精霊は長い時間活動でき追跡能力があり大型で戦闘力が求められる、召喚する方も命がけだ」


彼女は異界の化物が追跡してくるさまを想像して思わず震えた。

「僕たちが人では捕まえられないとみ切った時にそいつを使ってくる可能性があるわけか」

彼はそれを否定しなかった。


「アゼルが言うには、極めて危険な召喚を行える術士を大公家が抱えているようだ、一生に2~3度しか使えない様な化物を使役できるらしい、まあ大公家の切り札だがそれを使って来る可能性もある、アゼルならもっと詳しい話を聞けるんだがな」

「召喚された精霊とやらが襲って来たらどうする?」

「逃げられる相手ではあるまい、倒すか力を使い果たせば元の世界に帰っていく、強力な精霊ほど力を使うし、それは術士がどれだけの力を精霊に与えられるかで決まる」

彼は愛剣の柄を頼もしげに叩いた。


「この剣はこの世の者で無い物に刃が届く、ダメージを与えるだけ精霊から力も失われる抵抗は無意味ではない、そしてここからが重要なのだベル、精霊召喚の逆が神隠しでは無いかと言われてる」

彼女は目を見開きルディを見つめた。

「僕たちが幽界に呼ばれたとでも言うの?」


「察しが良くて助かる、俺たちはなんらかの理由であちらに引き込まれたか、こちらから幽界にはみ出し、その後こちらの世界に戻ったわけだ」

神隠しの間の奇妙な現実感の無さ、空腹も疲労も感じず、時間感覚すら失われていた経験を思い出し言葉を失う。


奇妙な感覚から解放された時、すでに二ヶ月もの時間が過ぎ去っていた、公子ルディガーが当事者だった事から大きな事件となったものだ。


「呼ばれる理由にもいろいろあるが、精霊の気まぐれや戯れから人を拐う場合があるらしい、神話には精霊に呼ばれた英雄の話があるだろ、魔力の暴走から勝手に向こうの世界にはみ出す事例があるらしいな、俺にはこれ以上詳しい説明はできない」

彼女はしばらく唖然としていたが我に帰る。


「ああ、そうだ忘れていた、捕虜から話を聞こうか」

「たいした話は聞けそうもないがな」

彼は苦く笑っていた。




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