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第5話 ダンガー子爵との出会い 逃げちゃダメだ、逃げちゃ…………

◆決意の出口と、地下に眠るもの◆


「……悪いけど、わたしはここから出るわ」


 その瞬間、ダンガー子爵の目が細くなった。


 「ほう。せっかく誘ってやったのに、つれない返事だな」


 彼の声にはどこか嘲笑が混じっていたけど、わたしはもう迷わなかった。


 「あなたが何を企んでいるか知らないけど……わたしは、“元のリリス”とは違うの」


 「ふん。やっぱり、そういうことか」


 ダンガー子爵が立ち上がる。薄暗いランプの灯りに、彼の影が長く伸びる。


 「まあいい。おまえが俺の手を取らずとも、利用できるネタはある。おまえ自身だ」


 「何ですって?」


 「貴族の娘が、深夜に一人で伯爵の館の地下をうろついてる……その事実だけでも十分だろう。それとも、俺が何も言わずに見逃してくれると思ったか?」


 ぞわり、と背中が冷たくなった。


 たしかにこの状況、変に知られたら困るのはこっちだ。


 でも――


 「なら、口封じでもする?」


 わたしはぎりっと奥歯を噛みしめながら言った。


 「ここであなたを倒して逃げれば、それで済むわ」


 一瞬、子爵がぽかんとした顔をしてから――腹を抱えて笑い出した。


 「……ははっ、面白い! 侯爵令嬢が、俺に刃を向ける時代か!」


 そして、彼は大きく肩をすくめて後ずさる。


 「好きにしろ。だが忠告しておくぞ。おまえがこれから足を踏み入れる“地下の奥”は……まともな場所じゃねぇ」


 そう言って、ダンガー子爵は細い通路をすり抜け、闇の中へと消えていった。


 わたしは少しの間、その暗闇を見つめてから、そっと前を向いた。


 「……じゃあ、行かせてもらうわ。地下の“出口”を探しに」


◇ ◇ ◇


 石の通路は、湿っていてひんやりと冷たい。


 照らすのは手元のランタンだけ。足元には古い板が敷かれているが、時折ぎしぎしと音を立てて頼りない。


 どこまでも続く闇の中、やがてわたしの前に、重そうな鉄の扉が現れた。


 「……ここ?」


 取っ手には錆が浮き、長年誰にも開けられていないことを語っていた。でも、なぜか妙な“気配”がする。


 ごくりと息を呑んで、扉に手をかける。


 ギギィ……という耳障りな音とともに、扉が開いた。


 その向こうには――ひとつの地下室。


 壁中に書物が並び、古い魔法陣が床に描かれている。天井からは、魔石らしきものが鈍く光を放っていた。


 「なにこれ……本の山?」


 思わず、口をぽかんと開けてしまう。


 本棚には“禁術”“禁呪”と書かれた黒革の本が並んでいる。なかには、「魂移しの儀式」「時の結界」なんてものまであった。


 明らかに、王国が認めていない内容ばかり。


 「これ、全部……禁書?」


 わたしはそっと一冊を手に取ってみた。


 『第四層の魔眼――魂と視線の共鳴』


 読み進めると、視線を通して相手の感情や記憶を読み取る魔眼についての詳細がびっしりと書かれていた。理論だけでなく、術式図、使用条件まで揃っている。


 「……って、すごすぎるでしょこれ……!」


 もしかしてこの部屋、ラ・ロシェ伯爵が秘密裏に集めていた禁術のアーカイブなのかもしれない。


 原作では語られていなかった“館の地下”のもうひとつの顔――それは、「闇魔術研究室」。


 ――どうしてこんなものが?


 しかも、机の上には魔道具らしきものがいくつも並べられていた。水晶球、銀の短剣、黒曜石のネックレス、紫色に光るリング……。


 「これは……“破滅の指輪”?」


 指輪の内側に刻まれた紋章を見て、思い出した。


 これは原作でも一度だけ登場した“自爆型”魔道具。使用者の命を引き換えに、対象を巻き込んで消し飛ばす禁忌の品。


 「何考えてたのよ、ラ・ロシェ伯爵……」


 もし、彼が本当にこれらを使っていたら――ただの冷酷な貴族どころか、国家を揺るがす“反逆者”だ。


 そのとき。


 部屋の奥の本棚が、ひとりでにぐらりと動いた。


 「っ……!?」


 風が巻き上がり、棚の裏に隠されていた“階段”が現れる。


 暗くて、底の見えない、奈落のような階段。


 「……これって……外に、通じてる?」


 いや、違う。空気が違う。もっと“深いところ”とつながってる。


 でも、下りるしかない気がした。


 わたしの知っている原作の“結末”では、リリスはここに来なかった。だからこそ、ここにこそ“未来を変える鍵”がある気がする。


 そして。


 「わたしは、この世界で……生き抜くって決めたんだから」


 静かに階段を下り始めた。


 禁書の知識と、魔道具の気配を背に受けながら。


 まるで、この地下室が、わたしの“本当の物語”の始まりを告げているかのように。

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