入学式ガチャ
私立駕知舎学園。
近年開校された、新しい学校だ。
この駕知舎学園では、新入生獲得のため、珍しい学生サービスを行っている。
その名も、入学式ガチャである。
四月初旬。
多くの学校が入学式を迎える時期。
私立駕知舎学園でも入学式が行われた。
この私立駕知舎学園での入学式は、他の学校の入学式とは少し違った。
新入生が入場し、校歌斉唱が行われ、校長先生の祝辞が行われた。
「新入生の皆さん。
本校への入学、おめでとうございます。
この駕知舎学園は、その名の通り、既存の知を凌ぐことを目標としています。
そしてもう一つ、この駕知舎学園の名には、意味が込められています。
それは、みなさんもよくご存知の、ガチャであります。」
校長先生の言葉に、新入生達がガヤガヤと騒ぎ始めた。
「ガチャって何だ?」
「ガチャはガチャだろう。」
「あのレバーを回してカプセルトイが出てくるやつ?」
「最近はデジタルのガチャもあるよな。」
「それで、学校とおもちゃと、何の関係があるんだ?」
騒ぐ新入生達をものともせず、校長先生は宣言する。
「本校では、新入生にガチャを回してもらいます。
中には外れもあれば、大当たりもある。
いずれにせよ、今後の学園生活を左右することでしょう。
では、入学式ガチャの始まりです!」
校長先生の合図で、壇上の背後に吊られていた幕が切って落とされた。
そこには、数多のガチャ、カプセルトイの機械が並べられていた。
私立駕知舎学園では入学式ガチャが行われる。
今年の入学式でも、いよいよ入学式ガチャの時を迎えた。
新入生の前には今、ガチャ、いわゆるカプセルトイの機械が並べられている。
校長先生が高らかに宣言する。
「これから、新入生のみなさんには、
順番にガチャを一回ずつ回してもらいます。
もしも、当たりが出れば、おめでとう。
先生が景品と交換します。
外れが出ても、安心してください。入学は取り消しにはなりません。
さあ、入学式ガチャを始めましょう!」
そうして新入生達は、おっかなびっくり、ガチャを回し始めた。
まず一人目が回して出てきたカプセルを開ける。
すると中には、入学おめでとうと書かれた紙が入っていた。
先生が言う。
「おや、残念。君は外れだね。でもお祝いごとには違いない。
入学おめでとう!では次の人。」
言われるがまま、次の新入生がガチャを回す。
すると今度は中に、クラス選択自由、と書かれた紙が入っていた。
「おめでとう!当たりだ。
君は入学後、クラス分けの時に、クラスを自由に選ぶことができる。
では、次の人。」
そうして、入学式ガチャは、ざわざわと騒がしくも恙無く進行した。
その結果。
入学式ガチャの当たりには以下のようなものが複数あった。
クラス選択自由:入学後のクラス分けの時、好きなクラスを選ぶことができる。
席自由:授業の時、好きな席を優先的に選ぶことができる。
制服自由:制服着用時、服装を自由に選ぶことができる。
出席番号自由:出席番号を自由に選ぶことができる。
定期代免除:通学定期代が免除される。
学食無料:学生食堂を無料で使うことができる。
遅刻免除:任意の授業に遅刻しても出席扱いになる。
欠席免除:任意の授業に欠席しても出席扱いになる。
週休自由:基本、週休二日の学校だが、週休を自由に選ぶことができる。
体育免除:体育の授業を選択した場合、単位を取得できる。
学費免除:学費が免除される。
試験免除:任意の試験を免除される。
単位取得:任意の単位を取得できる。
席自由や制服自由はともかく、試験免除や単位取得は、
そもそも学校に来る必要が無くなるほどの大当たり。
学生達は入学式ガチャの結果に一喜一憂、大騒ぎとなった。
「やった!学食無料だ!好きなもの食べ放題じゃん!」
「いいなー。俺は定期代免除だってよ。」
「いいじゃないか。こっちは外れ、何も無しだぞ。」
「それよりも、試験免除や単位免除の奴らが羨ましいよ。」
「うん、そうだね。もう学校に来なくてもいいんだし。」
中には少数ながらも、こんなに重要なことをガチャで決めていいのか、
疑問を呈する新入生もいるにはいた。
しかし、新しい世代の新入生達は、常日頃からガチャに慣れ親しんでいる。
いや、ガチャに汚染されているといってもいい。
ガチャというただの運ゲーム、
あるいは操作された運ゲームに運命を弄ばれるのは慣れている。
入学式ガチャに反対を唱える声は、大勢の声にかき消されてしまった。
こうして、私立駕知舎学園の新入生達は、
入学式ガチャの結果によって、
その後の学園生活を大きく左右されことになった。
私立駕知舎学園の新入生たちが学園生活に慣れてきた頃。
入学式ガチャによって、新入生たちの生活は大きく変わっていた。
それは差ではなく変化。
一見、良いと思える入学式ガチャの当たりにも、欠点があった。
その欠点とは、例えば、以下のようなものだった。
クラス選択自由:出来の悪いクラスを選んでしまった場合に困ることになった。
席自由:教壇から遠い席を選んだことで、授業中に集中しにくくなった。
制服自由:制服がなくなったことで、返って着るものに困ることになった。
出席番号自由:極端に前後の出席番号だと、授業の指名の順序で不利になる。
定期代免除:他の新入生たちから妬まれた。
学食無料:食べすぎて肥満の原因となった。
遅刻免除:遅刻が癖になり、いつも授業の最初を聞き逃すことになった。
欠席免除:授業に出席しなくなり、授業についていけなくなった。
週休自由:同上。
体育免除:運動不足で肥満の原因となった。
学費免除:他の新入生の保護者たちから抗議の対象とされ、仲間外れに。
試験免除:授業を受けていれば試験は自ずと解けるので意味が薄い。
単位取得:単位は取得しても、卒業論文、卒業研究をできる学力がない。
このように、入学式ガチャの当たりは大きければ大きいほど、
その欠点も大きく、また他の新入生や保護者たちから妬まれ攻撃された。
また、大当たりの中には、卒業に影響を及ぼすものもある。
結果として新入生たちは、入学式ガチャの当たりの特権を捨て、
皆が同じただの学生として日々の授業で研鑽を積む日々を選んでいった。
そうして月日が過ぎて。
あの入学式ガチャをした学生達が、卒業式を迎える頃になった。
その頃にはもう学生達は入学式ガチャのことなど忘れ、
各々が同じ学生として立派に学業を修了していた。
卒業生となった学生達は、答辞でこう述べた。
「私達はこの学校で、努力の大切さを学びました。
この世の中は、ガチャのようにはいきません。
ガチャは回すだけで誰にでも当たりのチャンスがあります。
でも、この世の中は、まず努力が大切で、
運に身を任せるのはその後です。
そのことを、この私立駕知舎学園で学びました。」
入学式ガチャに一喜一憂させられていた学生達が、
今は立派な卒業生になっていた。
私立駕知舎学園の先生達は、その様子を頼もしく見守っていた。
今も、私立駕知舎学園では、入学式ガチャは続けられている。
それは、学生達にガチャの愚かさを教えるため、ではない。
それは、学生達が自ら選択したこと。でもそれすらも表向きの理由でしかない。
入学式ガチャの本当の目的。それは、
先生たちが、新入生達にガチャを回させる快楽を満たすため。
ガチャに最も熱狂していたのは、回す本人である新入生達ではない。
ガチャを回させる先生達だった。
ガチャの結果に一喜一憂する新入生達を見るのが楽しい。
その後の予見不能な影響が興味深い。他人事であるがゆえの享楽。
結局、ガチャに一番依存しているのは、ガチャを人に回させる胴元の方だった。
「まったく、これだからガチャは止められない・・・!」
校長先生は新しい新入生達を前に、人知れずほくそ笑んでいた。
ガチャから抜け出せなくなっているのが自分であることの自覚もなしに。
終わり。
世の中、あちらもこちらもガチャガチャガチャ、ガチャばかり。
だからいっそ学園生活もガチャで決める学校の話を書きました。
でも影響が大きいことをガチャで決めてしまえば、
外れた人達からは妬まれて当然。
ガチャが公平だとも限らない。
結局、ガチャで一番楽しんでるのは、
ガチャを回させている胴元だと思いました。
お読み頂きありがとうございました。