9/21話
彼の言葉に含まれる感情に気付いたジークが要求を口にした。
「それなら三日分の食料を頼むよ。」
ロキはようやく覇気を取り戻したかのように、あぁと頷いた。一息おいて、ジークが次の言葉を繋げた。
「二人分だ。」
「二人分?」
ロキが怪訝な顔をした。用意できないことはないがと呟きながら立ち上がると台所へと消えていった。
「携帯食料でいいのか?二人分ならすぐに用意できるが・・・」
常に用意していたのかロキはすぐに戻ってきた。渡された袋の中身を確認しながら、ジークは頷いた。
「大丈夫だろ。詳しくは言えないが、ちょっと一人運ばなきゃいけなくてな。」
助かるよとロキの肩を叩き、ジークは消えるようにその場を後にした。ジークの消えた陰を見つめながら、ロキは少しだけ柔らかな表情を浮かべた。故知の友が生きていた事とようやく役に立つ何かが出来た事が彼の心を軽くした。
「また来い。いつでも待っている。」
ロキはそう呟いて窓の外を見上げた。窓の外は綺麗な夕焼けが広がっていた。
ジークが隠れ家に戻ると、ロウナが小さな人形を抱えてベッドに横になっていた。その人形を見た瞬間、ジークは持っていた袋をテーブルの上に放り出し駆け寄った。ジークが慌ててその人形に手を伸ばすと同時に、ロウナが目を開けた。
「おかえり。」
ロウナの身に何もない事を安堵したジークだったが、それでも気になったため人形を取り上げようとした。
「それは呪い人形だ。離せ。」
普段と違う真剣なトーンでジークが手を伸ばした。ロウナは人形を守る様に身を丸めて鋭い視線をジークに向けた。
「心配しなくても大丈夫だから!僕だってそのぐらい感知できる力はあるから!」
その言い方は拗ねているようにも怒っているようにも聞こえた。ロウナの雰囲気にジークは手を戻したが、納得はしていないようだった。
「じゃぁ、なんで掴まったんだよ。護衛官も追跡の呪詛掛けられてさ・・・」
小声で不満を呟きながら、ジークは投げたままの食料を確認して食事の用意を始めた。
「そう言えば、ご飯食べてなかったねぇ。」
準備するジークをベッドの上に座って眺めていたロウナが嬉しそうな声を出した。
「対象が人だって判っていれば食料の準備も出来たし、あんな簡易運搬用ハーネスじゃないヤツも準備できたんだが、悪かったな。」
食事の準備を終えたジークがロウナに座る様に促した。ロウナは人形を膝の上に置いて椅子に座ると温かいスープとパンを目の前に笑顔を見せた。
「いっただっきま~す。」
明るい声と対象にロウナの食事風景はジークを驚かせた。パンを鷲掴みにしボウルに口を付けてすする姿はとても姫と呼ばれる人物とは思えなかったからである。
「ロウナ・・・お前、食事はいつもそうなのか?」
恐る恐る聞くジークにロウナの食事の手が止まった。
「いつも?」
片手にはパンもう片方にはスープボウルを持ったロウナが首を傾げた。ジークは額に手を当てて、どう説明するかを逡巡した。
「人前で食事をしたことは無いのか?」
「ルアナはいつも傍にいたよ?」
無邪気な返事が今はとても苛立ちを覚えた。