7/21話
そんなロウナを見てジークはちょっと思考を巡らせた後、口を開いた。
「それじゃ遠慮なく・・・ロウナ。」
ジークが名前を呼んだ時、ロウナの中で何かが引っかかる気がした。それは表情にも表れなかった為、ジークは気付かなかった。
「お得体質とかどこで覚えたよ?フィヨンの姫は庶民派かよ?」
ジークがロウナの頭をぽんぽんと優しく叩いた。ロウナはそのような事をされた経験がない為、照れくさそうに頭を抱えた。
「さ、明るいうちにローグ領の村に行くぞ。キャラバンの隠れ家もあるしな。まぁどうなっているかわからないけど。」
再びジークはロウナを抱えてウラキア山脈を駆け抜けた。程なくして山脈の東の端に到達した。山の麓には村が見えていた。
「あの村まで行けばローグ領だぞ。ロウナの護衛官は優秀だな。追手の気配が全く無い。あの村が安全だったら有難いが・・・」
ジークはそう言って村に向かって駆け下りた。しかし村から少し離れた林で足を止めると、木々の梢を渡って林の中を偵察した。林の中は不自然に積み重なった木が所々にある事が見受けられた。ジークは梢からその一つ一つの様子を確認していた。全てを確認し終えたのか、そのうちの一つに近づいた。
「ここまでするのか・・・中が無事だといいけどなぁ。」
積み重なった木々に見えたものは、元が建物だった事が分からなくなるほど崩壊した残骸だった。ロウナは目の前の残骸に中と呼べる場所など無いように感じて不思議そうにジークを見た。
「中?」
ロウナの問いにジークは答えなかった。ロウナを降ろしその残骸を一周して、おもむろに地面にしゃがみ込んだ。ロウナも同じようにしゃがんでジークの視線を追って見た先には地面に倒れた扉のような物があった。ジークは残骸の隙間を抜け、その扉に辿り着くと扉に耳を着けて様子を窺っていた。ロウナが口を開けようとすると、ジークがその口を手で塞いで静かにと合図した。ジークが再び周辺を窺って、その扉を開くと地下への階段が現れた。ロウナを促して素早く階段へ降りたジークは警戒しながらそっと扉を閉めた。内側から錠を掛けてから、ジークは地下へと降りて行った。地下室に着いたジークはロウナに動かないように伝え灯りをつけた。そこはいくつか扉がある小さな部屋だった。動こうとするロウナを再び制して、全ての部屋をジークが慎重に確認して回った。全て確認し終わったジークがロウナに声を掛けた。
「上が酷かったからな、こっちもどうかと思っていたが、下は大丈夫だったらしい。」
そう言いながらジークはようやく一息ついた表情をロウナに見せた。
「ここは安全って事でいいんだよね?僕の力を使わなくても大丈夫?」
ロウナがジークを見上げて階段の方向を指差して聞いた。ジークはロウナを見下ろして穏やかに笑った。
「ここはティンファンのシャーマンの呪術がかかっているからな。早々見つからない・・・五年前からな・・・」
最後の方は少し寂しそうにジークが言うと、ロウナは心配そうな顔をした。
「あ~、心配させちまったか。あっちに部屋がある。移動するか。」
ジークが扉の一つを指してロウナを促した。扉を開くと二人が寝泊まりするには丁度良い家具が整っている部屋があった。ところがロウナは何を思ったかその部屋には入らず、隣の部屋に入っていった。慌てたジークが後を追うと、ロウナは隣の部屋の書棚の前に立っていた。
「どうした?」
怪訝そうにジークが声を掛けると、ロウナは無言で一冊の本を指差した。ジークが不思議に思いながらもその本を手に取ると、ロウナはジークが最初に案内した部屋に戻っていった。余りにも勝手な行動にジークは深いため息を吐いた。
「重要人物じゃなけりゃ放り出してぇ。」
聞こえないように呟いた筈だったが、扉からロウナが顔を出しジッとジークを見つめていた。