3/21話
困ったような素振りをしていても青年は焦っている様子はなく、楽しそうに脱出方法を模索しているようだった。青年の横で少女が自分のマスクを叩きながら何かを訴えていた。それに気が付いた青年が少女をしばし見つめた。警備兵の足音は徐々に近づいてきていた。再び青年は自分の勘に頼ることにした。
「そのマスク、取ったら逃げられるか?」
真剣な目をして少女に問いかけた。少女はその問いに対して何度も頷いた。青年が少女のマスクに手を当て数秒眺めると、すぐさま針金のような物を取り出し呆気なく開錠した。警備兵の足音が部屋の前まで迫る中、マスクを取り外した少女が叫んだ。
『鍵よ、閉まれ。』
その声に反応したように瞬時に部屋の扉の鍵が閉まった。扉を開けようとしていた警備兵は足止めを食らってしまった。少女が青年の腕を掴んで窓の前に引っ張っていった。
「ルアナを離さないで。」
少女の言葉に青年は親指を立てて返した。ルアナと呼ばれた女性を抱えた青年を一瞥し、少女は窓へ顔を向けた。
『割れろ』
窓ガラスが外側に向かって弾け飛んだ。そして今度は青年の方に向き直り、真剣な顔をして口を開いた。
「僕を恐れないで、信じて。」
青年が頷くと、少女は息を吸って言葉を発した。
『飛べ』
次の瞬間、青年と少女の体が宙に浮き、窓から外へと飛び出した。ほぼ同時に警備兵が部屋になだれ込んだが、飛び去る三人を捉える事は出来なかった。
「こりゃ、すげぇな。なるほど、宝だ。」
青年は少女を見つめて一人納得していた。少女に腕を掴まれている以上、行く先は少女に任せるほかは無いかった。しかし宝を盗むという目的は達成した為、何とかなるだろうとお気楽に空中浮遊を楽しもうと思っていた。しかし次の瞬間少女の一言に流石に顔がこわばってしまった。
「矢が・・・」
『飛べ、速く。矢よりも速く。』
飛行速度が一気に上がり、青年は女性を落とさぬようにする事だけで精一杯になってしまった。風圧と抱えている女性の体重に耐えながら周囲を確認すると、ヘスティアの都がぐんぐん遠ざかっていくのが見えた。前方へ目をやるとウラキア山脈がどんどん迫ってきていた。
「悪い、そろそろ減速してくれ。」
青年が少女に懇願した。いくら鍛えられたシーフとはいえ、高速飛行で何キロも移動した事など無いのだ。既にヘスティアの都からは四十キロ以上離れていた。少女が驚いたように青年を見た。少女は逃げる事に必死で青年の事を忘れていたらしかった。
「ごめん、降りる。」
『ゆっくり降りろ』
少女がそう言うと、二人の体はゆっくりと地面に向かって下降を始めた。数分後地面に降り立った青年は抱えていた女性を地面に横たえて座り込んだ。
「はぁ、流石に俺でも参る。空飛ぶとかした事ねぇし。」
大きくため息を吐いた後、首の後ろをさすりながら青年が呟いた。そんな青年を横目に少女は横たわった女性に駆け寄った。