21/21話
アグニの女神がフィヨンの女神の肩に手を置いた。
「仕方がなかったんだ。あの時はうちらも若かったから、帰せなかったんだし・・・」
「まぁまぁ、それは今言っても仕方が無い事です。私としてはいくら先見の力で見ていたとはいえ、うちの子に伴侶になる素質があった事の方が驚きです。でも、これもまた良い事なのでしょうね。」
ティンファンの女神が再びジークを見て、話しかけた。
「ジーク、伴侶となった今、お前の為すべき事は彼女と共にある事です。私のトキの様に傍に居ずとも共にある事も一つの形ですが、お前はお前の望む形を探しなさい。伴侶となった時点でそれはわかっている筈です。」
そう言われたジークは女神の前に跪き、首を垂れた。
「シャーマンの長たる大巫女様に赦しを乞います。我、フィヨンのロウナと共にある為、ティンファンの地及び大巫女様の元より離れる事をお赦し下さい。」
ジークは簡易的ではあったが、ティンファン伝統の赦しの儀を唱えた。ティンファンの女神は大巫女としてそれに応えた。四組の男女の間に穏やかな空気が流れた。
砂漠の出来事から数日後、ジークとロウナは封印が解かれたタミナの街に到着した。タミナの街の入り口ではフィヨンの姫が勢ぞろいで待っていた。二人の姿が見えると、待っていた姫たちを差し置いて一人の女性が走り寄ってきた。
「ロウナ様、ジーク様、お帰りなさいませ。再びお目にかかることが出来てとても嬉しいです。」
満面の笑みでそう言ったのは、最初の頃に分かれたままだったルアナだった。
「えっと、久しぶり?でいいのか?それにしては随分と友好的になったな。」
ルアナの態度に少し引きながらジークは答えた。
「はい、私達護衛官は凍眠中でも主様と意識は通じているのです。ロウナ様とジーク様の成り行きはずっと感じておりました。」
ルアナの説明にジークは何とも言えない表情をした。そんなジークの困惑や照れなどお構いなしに、ルアナはロウナの手を引き人が沸き返る広場へと進んでいった。広場ではロウナの成人を祝う人々で溢れていた。そうして二人はタミナの住民に盛大に迎え入れられたのだった。
数年後
「隊長は人使いが荒い。」
ジークの元に飛来した鳥の足に結ばれた手紙を読みながら、ジークは呟いた。
「また仕事?頼られているのね。」
ロウナは頬杖を突きながらジークに問いかけた。
「はぁ、禊の口上までやったのにさ、隊員の立場はそのままとか、おかしくね?大巫女様も共にあれとか言ってたのにさぁ。・・・またしばらく傍にいられないとか・・・どうなのさ。」
窓を閉めてロウナの傍に立ったジークは愚痴を言っていたが、その表情は楽しそうであった。
「優秀なジーク。一緒に居られないのは寂しいけど、貴方はそうやっている方がとても貴方らしいと思うよ。」
笑顔でそう言ったロウナの額に軽く口付けをして、ジークは扉へと向かった。
「仕方ないから行ってくるよ。」
ジークは手を振りながら扉を開けた。その背中にロウナは声を掛けた。
「行ってらっしゃい。のんびり待ってるわ。」
ジークの姿が見えなくなると、ロウナは窓の外へ視線を向けて幸せそうに目を閉じた。窓から差し込む柔らかな光がロウナを包んでいた。