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17/21

17/21話

ただ、せっかちに動き回らない分だけ、二人は市場をゆっくり見て回った。今回も旅程の都合で必要なものを買わなければならなかった。二人はそれを買いそろえると宿へと戻っていった。その途中で一つだけロウナはジークにおねだりをした。それは小さな露天で見かけた雪の結晶の形をした小さな髪飾りだった。それをジークに着けてもらって嬉しそうに俯きながら、しっかり手を繋いで後をついていくロウナ、そんな二人の姿は本当に仲の良い兄妹のようだった。

 宿に着いたジークは相変わらず荷物の整理と今後の旅程の確認に余念が無かった。ロウナはそんなジークをずっと見ていた。既にロウナにはある予感があったのだが、それは今ではないと思っていた。

最初に見たときは驚いた。塔から抜け出した最初の夜は安堵した。ルアナと別行動になっても不安はなかった。シャルマンなのに伝承に詳しくないのは不満だった。でも、否定をされなかった。それから一緒にいると何となく暖かいのが気に入っていた。

そんなことを考えながら、ジークを見ていたら急に目があった。

「よし、飯にするか。」

ロウナの考えなどは気付く事も無く、ジークは的外れな声をかけた。一瞬驚いたロウナだったが、自分の考えを隠すように笑顔で頷いてベッドから飛び降りた。

 翌日、二人が街道に出るため城門の辺りまで行くと、門の外側にローブを着た集団がいる事に二人は気付いた。隠しているつもりだったのだろうが、ローブの下には甲冑が見えていた。二人は緊張を隠して集団の横を通り抜けながら、彼らの様子を窺った。ちらりと見えた甲冑の胸元にはヘスティアの紋章が付いていた。彼らはおそらく自分たちを探している偵察部隊で、彼らがここで動く事は無いだろうとジークは推察した。通り過ぎた後も注意深く背後の彼らを観察していたが、自分達に気がつかずにずっと城門を見張っている事に胸を撫で下ろしてその場を離れた。街が見えなくなった頃、ジークはようやくロウナに話しかけた。

「ロウナ、兵士たちが大々的に俺たちを探し始めたようだ。まぁ、さっきのやつらには気づかれなかったから良かったが、この先ティンファンに向かうルートに入れば確実に気づかれるだろう。なにしろここ五年はティンファンに行くものはほとんどいないからな。砂漠で本隊に出会う可能性はあるが、俺が必ずティンファンまで連れていってやるよ。信じてくれるか?」

ジークは最後の言葉の後、ロウナの手を無意識に強く握った。ロウナは深く頷いて、ジークに答えるように握り返した。次の街の後はティンファンへの直通街道かアグニヘの直通街道しか無いため、ジークはそこからが正念場だろうと思った。次の街はローグ最大の交通拠点であり、貿易の要の巨大都市だ。ジークは人通りも多く大きなマーケットがあり大通りに宿があるその都市は、人に紛れて相手の目を眩ますのに都合が良いと考えた。なるべく早く雑踏に紛れたいと思ったジークは、ロウナを抱え上げて次の街へと急いだ。

 ローグ最大の貿易拠点都市ハドスは伝説の街としても有名だった。女神がまだ身近な存在だったとされた時代、この街にフィン・モーゼスとダナン・ハルバドという青年が住んでいた。三姉妹の女神が平和に治めていたこの地に、女神の兄神である邪神が降臨し世界が荒れた。人類は邪神に対抗しようとしたが、神の力には遠く及ばなかった。その状況に妹神の三女神は、人類の適合者を伴侶とする事で邪神に対抗する術を編み出した。フィヨンの女神とアグニの女神はそれぞれフィンとダナンを伴侶とし、兄神である邪神を退け、ローグとアグニを興したというのがこの地に残る伝説だった。もちろん三女神という事でティンファンの女神も一緒に邪神に対抗したのだが、彼女の伴侶についてはその伝説には記されていなかった。ただ、伴侶同士は強い友情で結ばれていたと語られていた。

 そんな伝説の残るハドスは荷馬車も通れる大通りを中心に街が形成されていた。ティンファンとの交易が減ったとはいえ、アグニとの交易もあるため人通りはそれほど減っているという印象は無かった。ジークは大通りにある馴染みの宿へと向かった。同郷の者が営むこの宿も五年前の騒動の際にはかなりの被害があったと聞いていたが、そんな形跡は微塵も感じなかった。店主と一言二言言葉を交わした後、ジークは大通りが見える部屋を選んだ。

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