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16/21

16/21話

モーラの話し方は流れるような心地の良いものだった。

「伝承によれば、フィヨンの姫は幼性というものがある。彼女達は女神から与えられた力を使えるが、幼性の姫ではその力を十分に引き出せないと言われている。ジークも知っている通り・・・知っているよな?いや、知らなかったら困るが、どの国の女神達も祝福を受けた伴侶を持っている。」

「女神の伴侶ぐらい知っている。実在するかは知らないが、伴侶になると不老不死になるんだろ?」

「そうだ。そして、フィヨンの姫は伴侶を見つけないと成人になれないと言われている。姫とは言え女神の眷属だ。その伴侶も不老不死となるらしい。フィヨンの守りは全ての姫が成人する事で強固になるという伝承だ。まさか未だに幼性の姫がいたとは思いもしなかったがね。その結果が今回の動乱という事だろうな。」

モーラは一息ついて目の前の二人を交互に見つめた。

「まぁ、伴侶の条件までは知らないのだけどね。つまり、お前の隣にいるそちらの姫さんはまだ成人前ということだ。」

ロウナはモーラの話を遮るでも、相づちを打つでもなくただうつむいて聞いていた。姉達は早々に伴侶を見つけて成人していく中、どうにも伴侶を見つけられなかった自分を思い出していた。成人する事に焦ってはいたが、言葉に神力が宿りそうで伴侶になってほしいと伝えても大丈夫だと思える相手に出会えなかったというのが事実だった。

「成人前か。女神の分身なんだから、最初から成人だと思っていたよ。これでも、一人前かと。」

「トキの部隊に入る前に神代の勉強ちゃんとしておけよ。特にトキは神代に最も関わりの深い人物だというのにさ。」

呆れたように言うモーラに、ジークは返す言葉も無かった。それでも精鋭部隊に入る事が出来たのは知識不足を差し引いても余りあるシーフとしての実力だった。更にジークは指示を的確にこなし、指令を遂行する能力に関しては精鋭部隊随一だったのだ。今回の指令も恐らくジークの技術がなければ遂行することも困難だったに違いなかった。それでもモーラの元までたどり着いた事は想定以上に十分な成果だった。

「ここまで追跡を逃れる技術はお前ぐらいにしかないよ。さて、ここから先が困難だろうが、想定も含め計画はあるのだろう?」

確信を持ったように聞くモーラに、ジークは当然と言う顔をして軽く頷いた。ジークの頷きを見たモーラは、視線をロウナに移した。ロウナはその視線にすぐに気づき、モーラの顔を見上げた。自身の秘密を話されても、特に不満に思う様もないその瞳にモーラは少しだけ安堵した。不安もあっただろうが、どうやらジークはロウナの信頼を得る事が出来ているらしいと感じられた。モーラは自身がトキから与えられた指令は完遂したと思った。全てを語らない曲者の隊長が出す指示は先を見過ぎていて、いつも周囲は振り回されるのだ。気の毒にと思いながら、今度はジークを見た。

「さて、モーラが俺に言うことは終わったんだろう?そろそろロウナも市場を見たいだろうから、俺たちは行くよ。」

モーラの視線で用事は終わったと確信したジークは、ロウナに手を差し伸べながら立ち上がった。ロウナは躊躇い無くその手を取り、立ち上がった。二人の様子を見たモーラは軽く頷いて優しげな笑顔で手を振った。

 再び壁をすり抜けたロウナは目の前の景色に驚いた。元の路地に出ると思ったが、そこは市場のあの怪しい雑貨店だった。手を繋いだまま、二人は市場へと歩を進めた。以前に寄った街よりも大きな市場だったが、ロウナは思ったよりもおとなしかった。ロウナは珍しいものは気になるが物欲と言うものが無かった。今のところ服も食べる物も寝る場所も足りていると考えていた。更に前回の街である程度の好奇心を満たしてしまったのも一因だった。そんなロウナを見て、ジークがつまらないかと問いかけた。ロウナは首を横に振り笑顔を見せた。それなら良いがと拍子抜けしたようにジークが呟いた。

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