14/21話
自分の勉強不足を見透かされたようで少しだけジークは居心地が悪くなった。
「俺の勉強不足は認めるよ。他国の情報や情勢なんか必要ないと思っていたからなぁ。あの事件の後から、情勢には気を付けていたが、情報は積極的収集しなかったからなぁ。話せる内容なら教えてくれると有難い・・・です。」
腹をくくってジークはロウナに頭を下げた。その視線の端で少しだけ勝ち誇ったように微笑むロウナの顔が見えた。
その夜、市場を歩いたせいか今までの疲れが出たのかロウナは早々に寝息を立てて寝てしまった。そんなロウナを見ながら、ジークはロウナに渡された本を読んでいた。ここまでの道のりではじっくり読むことが出来なかったからだ。フィヨンには女神の分身とされる姫達がそれぞれの都市を守護している、それは知っていた。姫は女神から与えられた神力を使う事が出来る事、それは姫によって違うという事も知っていた。姫の力については言及されていなかったが、そこは神の力である。ティンファンにもある女神の伝承を考えても、様々な力があることは容易に想像できた。ふと精鋭部隊の隊長であるトキの顔が浮かんだ。あの隊長は時おり人ではないような気配を出すときがあったと思い出していた。自分の知らない世界が密やかに迫っているような得体の知れない感覚に教われながら、ジークはとりあえず寝ることにした。
翌朝、ジークの頭はすっきりしていた。夢の記憶は無いのに不吉な気配が無かったからだ。ふとロウナの方を見ると、まだ寝息を立てていた。ジークはある程度荷物の準備をしてからロウナを起こした。
「おはよう、ロウナ。」
目を擦りながら起き上がったロウナにタオルを渡した。
「顔を洗って着替えたら朝御飯だ。女将に頼んである。それにな、テイクアウトも頼んである。昼は移動中になりそうだからな。」
ロウナはジークの言葉に頷いて支度を整えたら、手を繋いで食堂に向かった。前夜と同じカウンターに座ったジーク達に女将が笑顔で食事を出してくれた。
「昼食は後から渡すよ。それにしても、もうちょっとゆっくりしていってもいいんじゃないかい?」
女将の一言にジークはロウナを見て、急ぎたいと呟いた。それを見た女将はそれ以上の質問をすることは無かった。朝食を終えた二人は部屋に戻り、身支度を整えた。ロウナのローブをしっかりと締めながら、ジークは今一度気を引き締めることにした。ここまでは順調に来たが、ルアナが雲隠れした時点で捜索の手が拡大することは想像に難くなかった。街道の人通りも気になっていた。もしティンファンへの道が閑散としていたら、それどころかティンファンに向かう道に人通りがなかったらと様々な状況を考え、シミュレーションをしていた。しかし、結局はなるようにしかならないのだということは解っていた。
宿屋のカウンターで昼食を受け取って、女街道に出るとそれなりの人通りがあった。ジークが走る事も考えたが、逆に目立ってしまいそうだった。この辺りは目的地がティンファンの人だけでなく、アグニやローグの他の街に向かう人や行商人もまだまだ多かった。ジークとロウナは繋いだ手を離さないように並んでゆっくり歩いた。このペースだと夕刻まで掛かるかとジークは換算していた。時おり通りすがる馬車から声を掛けられる。大抵はロウナを見た気のいい人が乗っていけというものだった。断ることも多かったが、ちょうど昼頃に声をかけてきた馬車には乗ることにした。ロウナに食事を取らせたかったこともあったが、目的地が同じということもあった。馬車の人物が追跡者だったら、馬車ごと襲われたら、と考え対処を想定して警戒だけはしていた。食事を終えたロウナがジークに寄りかかって馬車に揺れていた。ジークは馬車の男とたわいもない世間話や旅の目的などを話しながら周囲を警戒していた。ジークの警戒をよそに馬車は目的の街の城門に到着した。お礼を伝え馬車を降りたジーク達は城門の受付を通り、街に入った。ジークは迷うことなく宿屋を探していた。そんなジークをロウナが不思議そうに見つめた。
「この辺りの街は把握している。ここから先の街もほとんど把握しているぞ。」
少しだけ得意そうにそう言うジークを見て、ロウナは小さく笑った。前の街より少し大きいこの街には数件の宿屋があった。ジークは悩むことなく一つの宿屋に向かっていた。