13/21話
ロウナの仕草に苦笑いしながらジークが言い訳をした。
「箱入りの姫さんには解らないだろうが、外面というものがあるんだよ。妹想いの優しい兄、悲劇の兄妹というイメージを持たせておけば色々有利になるんだよ。」
そう言った後、ジークは出掛けるぞとロウナの手を取った。今度はすんなりと手を繋いでロウナはジークについていった。ジークが向かったのは市場だった。最初に服は揃えたがロウナの好みを知らなければ兄妹という設定も不安が出てくると考えていた。ロウナの好みを探るためにも色々物色しようと思っていたのだ。一方ロウナは初めて見る市場に好奇心をそそられていた。
「離れるなよ。と言うか手を離すなよ。見たいものがあれば後から寄ってやるから。」
周囲を見ては離れそうになるロウナの手を何度も握りなおしながら、ジークは目的の衣料店までなんとか辿り着いた。ロウナに確認しながらいくつか服を購入後、手を離さないことを条件にジークはロウナが先導することを許した。言葉を話せないという設定をロウナはちゃんと守っていた。指を指してジークの手を引きながら露店を覗くロウナは年相応の少女のようで微笑ましかった。ある程度見て回った頃、ジークは宿へ帰るとロウナに声をかけた。まだ満足していなかったロウナは残念そうにジークを見た。
「この先も街はあるから。」
ジークのその言葉にロウナは渋々頷いた。
部屋に戻ったジークは買ってきたものを整理していた。それを見ながら、ロウナもジークに買って貰った小さな鞄に人形や小物を詰め込んだ。整理が終わる頃には日が傾いていた。そろそろお腹も空いているだろうと、ジークはロウナを連れて宿屋の食堂へと向かった。食堂は宿泊客以外にも客がおり、大層賑わっていた。どうやらこの店は美味しいらしいという事が判った。座る場所を探していたジーク達に気づいた女将が、カウンターの端へ案内してくれた。メニューを見てもそれが何か判らないロウナに女将が適当に食べられそうなものを用意してくれた。ジークは大きな肉は切り分け、フォークとスプーンのみで食べられるようにしてロウナに渡した。ロウナはジークが食べている所を見ながら同じように食べ始めた。久しぶりの温かい食事は体に有り難かった。女将の目には確認しあいながら食べているような二人の姿は仲睦まじく見えていた。すっかり綺麗に食べ終えたロウナに女将は嬉しそうな笑顔を見せた。
部屋へ戻ったジークは術が解けてないことを確認した上で、ロウナにこの先の旅程を地図を広げて指差しながら説明した。
「ハドスまでは街道を南下する。ここまではそうそう危険は無いと思う。旅人に紛れる事が可能だからね。偽装もし易い。難点はここだ。」
ジークがハドスから東に延びる街道を指して言った。
「街道がある様に書かれているが、ここは砂漠地帯で何もない。もし万が一の事があるとしたらここだと思うが・・・」
言葉を濁したジークにロウナは不安を訴えるわけでもなくわかったと答えた。そして地図のある一点を指差した。
「ここ、ルアナが凍眠に入った。きっと見つかりそうになったんだと思う。」
そこはウラキア山脈南西のローグ領との境界辺りだった。
「冬眠?どういうことだ?」
冬眠と言えば冬に獣や爬虫類のすることだろう?とジークは呟いた。ロウナは不思議そうに首をかしげながら違うと答えた。
「ルアナはフィヨンの姫の護衛官だから。」
当然のように言うロウナにジークは困った表情を向けた。
「凍眠というのは・・・仮死状態になって地中に隠れる事だ。」
その回答にジークは驚くしかなかった。そんな事が可能なのかと思うと同時に、過去勉強から逃げ回っていた自分を恨んだ。
「それは・・・常識なのかな?」
「ティンファンのシャーマンならそうだと聞いている。」
ロウナの返事に再び過去の自分を恨んだ。