12/21話
それに比べ街道や街を通り人混みに紛れるルートにすれば遠回りになるが強硬手段に出にくいという利点もあった。なるべくロウナの力を使わずに危険を回避するためには街道ルートの方が良いと判断した。唯一の難所は街道を南下した後にある砂漠越えだが、砂漠越えが得意な自分の方が有利だと考えてもいた。ロキと軽く挨拶を交わし、ジーク達はその場を離れた。ロキはその背中を見えなくなるまで見送っていた。
ジーク達は街道沿いを進み一番近い街に近づいた頃、ジークは街の外で潜める場所を探し始めた。辺りを見回しているジークに気づいたロウナがあっちと小さく声を出した。ロウナの示した方角を見ると小さな茂みがあった。
「これじゃすぐ見つかる。」
ジークが呆れたようにロウナを見ると、ロウナは小さく笑った。
「長い時間ではないのだろう?それならそんなに力は使わないから大丈夫。」
あまりロウナの力に頼りたく無かったが今回は頼る事にした。
「気をつけろよ。一応ロウナの力の外側にも俺の幻術をかけておくからな。」
移動用のハーネスから降ろされたロウナは茂みに隠れ言葉の力を使った。それを見届けて茂みに幻術をかけたジークは街へと入っていった。
五年も経てばティンファンの者を気に留める者はいなかった。普通に人込みに紛れたジークは衣料店を探した。市場で自分用の衣服とロウナ用の衣服と靴と鞄を買った。幻視術を使えば兄妹で大丈夫だろうと考え、その為の兄妹風の服装が必要だった。それとは別に街の様子を確認しておきたかったという事もあって一人で来たのだった。街の状況を一通り確認した後ロウナの所へ戻ると、ロウナ用の服を一式茂みに投げ込み着替えるように伝えた。しばらくすると着替えたロウナが今まで着ていた服を手に持って出てきた。
「その服、持って行くのか?」
ジークが問いかけるとロウナは頷いた。ロウナに渡した鞄にはその服は入りきらないと判断したジークは自分の荷物の一番下にその服を詰め込んだ。
「街に入る前に約束事がある。ちょっと面倒かもしれないが大丈夫か?」
ロウナが頷くのを待ってジークは続きを離し始めた。
「まずは、俺達は兄妹だ。という事にしておくと楽だ。次に、俺達はティンファン人の孤児だ。五年前に取り残された可哀想な孤児にしておけば詮索されにくいからな。そして最後に、妹のロウナは口がきけない。」
その一言を聞いた時、一瞬ロウナが驚いたような顔をした。しかしジークはそれに反応する事無く話を続けた。
「ティンファンに行けば妹が話せるようになるかもしれないと言えば皆協力してくれる。そういう人達に囲まれていれば危険回避にも役立つんだ。」
ロウナは頷いた後に確認するように口を開いた。
「ジークと僕は兄妹でジークはお兄ちゃんで僕は喋れなくて・・・故郷に帰れば喋れるようになるかもしれないから故郷に帰る旅をしているって事?」
その通りだと微笑みながらジークはロウナの頭を撫でた。じゃぁ行くかと呟いたジークがロウナの手を握ると、驚いたロウナが手を引っ込めた。
「大事な妹だ。手を繋がなかったら危険だろう?」
ジークはそう言ってロウナへ向けて手を差し出した。手を繋ぐ事に慣れていないロウナは戸惑いながらその手を握った。
再び街に入ったジークはまず宿を取る事にした。宿屋の女将にさりげなく身上を語ったジークをロウナは不思議なものを見るような顔で眺めていた。部屋に入ったジークは防音と警戒用結界を張り、部屋の中なら話しても大丈夫だとロウナに言った。
「さっきのジークは偽物だ。」
首を傾げてジークの顔を見つめながらロウナが笑った。