1/21話
ローグという大きな国があった。その北方にある辺境で反乱が始まった。ヘスティアというその都を治めていた公爵が国へと反旗を翻したのだ。その反乱はローグのみならず、ヘスティアを唯一の国交地点とする北方フィヨンへも被害を及ぼした。更に誤った情報が流布されたため、ジプシーの国ティンファンとも断絶する騒動へと発展した。この一件でローグ周辺は緊張した状態のまま五年という月日が過ぎていた。
ヘスティアの都の北部にある領主の館を一人の青年が物陰から窺っていた。
「こんな辺境の公爵領がねぇ。カギは噂の財宝かなぁ・・・頂いちまうか?・・・オババ様のためにもなぁ。」
その青年は往来の人に紛れぶつぶつ呟きながら、領主館の前を通り過ぎた。門の前で一瞬立ち止まり領主館を覗き見るような仕草を見せたが、往来の人々は青年のその行動に気づいてはいなかった。
その頃、領主館の給仕室では三人のメイドが噂話をしていた。領主の事、街の事、余程暇なのか話は止まるところを知らないようだった。その内一人が小声で話し始めた。
「ねぇ、あの塔ってさ、入れる人って限られてるでしょう?でもね、入ろうとした子がいたそうよ。」
「えぇ?それって確かすごく怖いお仕置きがあるとか聞いているわ。」
「そう、それでね、その子捕まって、お仕置きされたみたいなんだけど、それ以来見てないのよね。」
硬い表情で聞いていた三人目が口を開いた。
「その子、追い出されたみたいなんだけど、消息も不明みたいよ。・・・それに、あの塔の噂話をしているだけでも危ないって聞いたわ。」
それを聞いた二人が青くなって口を閉ざした。その瞬間給仕室の扉が開き、三人は飛び上がりそうなほど驚いた。それを冷ややかな目で見ながら、扉を開けたメイド長が口を開いた。
「休憩時間が長すぎです。早く仕事に戻りなさい。やることは沢山あるのです。」
パンパンと手を叩き三人を追い立てたメイド長だったが、何かの気配に気付き給仕室を見回した。だが特に目につくものは無く、メイド長はぶつぶつと何かを言いながら部屋を出て行った。給仕室の隅の陰から先ほどの青年が姿を現した。
「あの塔、か。調べ甲斐がありそうだ。」
窓から見える塔を一瞥した後、給仕室を一通り見回した青年は再び陰へと消えていった。
青年は噂の塔を探るため塔周辺の林で身を隠していた。噂の塔は館の敷地の外れにあり、警備兵が物々しい雰囲気で動き回っていた。塔に通じる道は一本で、周辺の林には様々な仕掛けが施されており、侵入者を知らせる鳴子があちこちに張り巡らされていた。林の中でも塔を観察するのに丁度良い木の梢に青年は移動した。
「あんなもんを鳴らすアホな侵入者が居たら笑ってやるよ。シーフなめんなっつーの。しっかし、警備兵がウヨウヨいやがる・・・」
その時、警備兵を窺う青年の目に塔から出てくるメイドの姿が映った。
「ん?なんだあれ?」
そのメイドは覆面のように顔半分を黒いマスクで覆い、二人で歩いているにも関わらず互いを見ることも無く、俯き加減にそそくさと本館の方へ歩いていった。林を抜けようとする辺りで、警備兵から身体検査を受けているようにも見えた。
「変な姿だな。・・・メイドまで身体検査するとなると、やはりあの塔か。さて、どうするか。」
青年はしばらく塔の周辺を探るように眺めた後、何かを確認したのか木々の間をすり抜けてその場を後にした。木々に張り巡らされた鳴子が音をたてることは無かった。