【ホラー】まっくらトンネルの変じる噂
「夏のホラー2024」参加作品です。テーマは「噂」。
■登場キャラクタ
主人公 :「私」。まっくらトンネルの「赤い服の女の幽霊」の噂に巻き込まれる。
赤い服の女の幽霊:噂に出てくる幽霊。
■注意書き
・オリジナルのホラー小説です。
・段々と怖くなっていく話に挑戦しました。
私がその噂を最初に聞いたのは小学生の頃だった。
「まっくらトンネルに赤い服の女の幽霊が出るんだって!」
怖いもの好きな友達が嬉しそうに話してくれた。
まっくらトンネルは大きな車道の下に作られた人用のトンネルだ。半地下なのと建物の位置の関係で、いつも出入口が影になっている。そのせいで「まっくらトンネル」と呼ばれていた。
私はそのトンネルを良く使っていたが、幽霊なんか見たことはない。どちらかと言うと何もないつまらないトンネルだった。
しかし友達の手前、そうなんだと話を合わせた。
そして幽霊が見たいという友達と一緒に、放課後、まっくらトンネルへ行くことになった。
まっくらトンネルの入り口はいつものように影になって暗かったが、中は照明が点いており、薄暗いながらも向こうの出口まで見通すことができた。
「幽霊いないね。」
トンネルを何往復もした後、友達は残念そうな顔で呟く。
「そうだね。」
私も同意するような返事をしたが、心の中では違った。
(いる…いる…いる…いる…)
何故なら、私には「赤い服の女の幽霊」が視えていたからだ。
トンネルの中間辺りの壁際で、動かずに立っているだけだが、小学生の私には怖くてたまらなかった。
「もう帰ろう?買い物を頼まれてたんだ。」
本当はすぐにでも走り出したかったが、視えていることに気付かれれば、何か怖いことが起こるような気がしたので、適当な理由を付けてトンネルを出た。
私はそれからまっくらトンネルを使わないようになった。
次に噂を聞いたのは高校生の頃である。
クラスの四人組が話していたのが聞こえてきたのだ。
「まっくらトンネルに赤い服の女の幽霊が出るんだって。」
「気付かれると追いかけてくるんでしょう?」
「何それー。」
「コワーイ。」
噂の内容が少し変わっていた。
話を聞いて、あの時の記憶が蘇る。
幽霊の顔は覚えていない。怖くて見ていなかったのだと思う。しかし色褪せた赤いワンピースと、ボロボロの長い黒髪に、作り物のような青白い肌だったのは憶えている。
四人組が放課後にまっくらトンネルへ行くと言っていたのが気になって、私は気付かれないように付いていくことにした。
「幽霊いないじゃん。」
「やっぱり、ただの噂だったんだ。」
「つまんないー。」
「ザーンネン。」
四人はスマホで動画や画像を何枚も撮った後、騒々しいまま立ち去った。
その後、私はトンネルに入ることにした。
小学生の頃の記憶は、何かを見間違えたか、思い込みによる幻覚だったのではないか。今になってそんな気がしてきたからだ。
トンネルに入る為の階段を下りた。中は照明が付いていて薄暗いながらも向こうまで見渡せる。
何もいない。
やはり幽霊なんかいなかったのだ。そう思った時、視界の端に赤いものが入った。
記憶と同じ場所に、赤い服の女の幽霊が立っている。
「ひッ!」
思わず私は小さな悲鳴をあげた。
その途端、女の顔がこちらを向く。
目が合った。
(ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!)
私は慌てて走り出した。トンネルは長くない。出口はすぐそこだ。
トンネルを出て陽の当たる場所まで来て振り返ると、女の幽霊はトンネルの端まで来て消えるところだった。
(前は立っているだけだったのに、何で今日は私の声に反応したの?)
私は恐怖と疑問で頭がいっぱいになった。
そして今度こそ、私はまっくらトンネルへ近付くのをやめた。
数年後、私はまたあの噂を聞くことになる。
私は教育実習生として母校の小学校に来ていた。そんなある日、生徒達があの噂について話をしていたのだ。
「まっくらトンネルに赤い服の女の幽霊が出るんだって。」
「幽霊に気付かれたら追いかけられるんだぞ。」
「捕まったらあの世に連れていかれちゃうんでしょう?」
(あの世!?)
噂はまた変わっていた。それも物騒な方向に。
「度胸試ししようぜ!」
「望むところだ!」
「逃げるなよ。」
「お前こそ。」
二人の生徒がトンネルに行く話をしている。
「こらこら、道で遊ぶのは危ないからダメよ。」
私は何か嫌な予感がして、生徒達を止めた。
二人とも「はーい」と素直に返事をしたが、私には何となく虫の知らせがあった。
だから、本当は嫌だったが、放課後にまっくらトンネルへ行くことにした。
「どうだ、こんなの怖くないぞ!」
「幽霊なんかいないじゃないか。これじゃあ度胸試しにならないよ。」
やはりあの二人が来ている。
「こぉーらぁー」
少しおどけて、私は声をかけた。
「あ、先生!」
「道で遊んじゃダメって言ったでしょう?」
「ごめんなさい。」
「さあ、気を付けて帰りなさい。」
「はーい。」
「先生、さよーならー。」
子供達をトンネルから出した後、私はついトンネルの中を眺めてしまった。
(ひッ!)
赤い服の女の幽霊がそこにいる。
(だ、大丈夫。まだ気付かれていない。)
動揺したものの、冷静な自分も残っていた。
(落ち着いて行動すれば問題ない。)
私はゆっくり後ずさる。
カランカラン…
その矢先、転がっていた空き缶に踵が当たった。
「うそッ!」
思わず小さく声が出た。
私は幽霊の方は見ずに一目散に走った。トンネルを出ても建物の影のせいで暗い。そのまま息を切らせながら階段を登ると、影とは対照的な眩しい場所がすぐそこにある。
(あそこまで行けば!)
縺れる足を何とか前に出して、私は影を出て陽の当たる場所に辿り着いた。
太陽は傾きかけていたが、まだとても明るい。それにホッとして後ろを振り返る。
女の幽霊はトンネルの端まで来た。そして……
そのまま私に向かってきたのである。
(ウソウソウソウソ!!!)
あまりの出来事に私の体は動かなくなった。
私の目の前に来た女の幽霊は、色褪せた赤い服を着て、ボロボロの長い黒髪を振り乱し、青白くて木の枝のような不気味な指をいっぱいに広げて私の頭を掴んだ。
つ・か・ま・え・た
「あ"ーーーーーーーー!!!!!」
「ねえねえ、まっくらトンネルに赤い服の女の幽霊が出るの知ってる?」
「気付かれると追いかけられるんだよね。」
「捕まったらあの世に連れて行かれるって聞いたよ。」
「頭を掴まれて引きずられるんだって。」
「それって根も葉もない噂でしょう?」
「それがね……行方不明になった女の人が本当にいるらしいよ。」
おしまい。
お読み頂きありがとうございます!
主人公が噂の発端の話も考えましたが、完全に巻き込まれ型の方を選んでみました。
一時でも夏の暑さを忘れるお手伝いができたなら幸いです。