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16 役割

 カーライルは五将軍の一人を追っていた。ニーナの代わりに新規に加入した剣士が活躍し、魔王軍に大損害を与えたのである。

 そして、もう一歩で五将軍を討ち取れるかというところで邪魔が入り、逃げ出す隙を与えてしまったのであった。

 カーライルとしてはパーティーを脱退したニーナが四天王を倒したとあっては、何としても五将軍を討ち取りたかった。なので、敗走する魔王軍を執拗に追いかける。

 カーライルは五将軍の背中が見えない中、追撃を邪魔する魔物にイラついていた。


「くそっ!こんなところで時間を食っていては、折角の相手に逃げられてしまうじゃないか」


 目の前で行く手を阻むゴブリンやオークに、怒りの限りをぶつけて斬る。流石にこの程度の相手であれば、カーライルの実力であれば一撃で屠ることが出来た。

 ラーリットはそんなカーライルの背中を見ながら思う。


(これこそ本来の在りようだわ。ここで上手く五将軍を討つことが出来れば、今までの汚名を雪ぐことが出来る)


 そんなラーリットと違い、ズーとアンはいつもと違って上手く行き過ぎていることに違和感があった。

 確かに五将軍には追い付けていないが、今までのような苦労がないのである。それもそのはずで、邪魔をしてくるのはゴブリンやオークといった、勇者からしてみれば弱い魔物だけなのである。

 オーガロードどころか、ジェネラルも普通のオーガも今のところ見かけない。さらに、思い返せば五将軍も大して攻撃をせずに逃げ出したような気もした。順調の裏側には何かあると疑いたくなるのも無理はない。

 とはいえ、敵の動きがおかしいから撤退するというのは、勇者パーティーとしての役割に反する行為なので、前に進むしかないのだが。

 そして、さらに進んだ先で緑の勇者を見つけた。緑の勇者は瀕死の重傷を負っており、そのパーティーメンバーと思われる者たちも、勇者の周りに倒れていた。

 カーライルは緑の勇者に駆け寄った。


「これはどうした状況だ?」

「魔王軍……四天王バーミンと……戦って……」


 緑の勇者は弱々しくバーミンを指さした。カーライルが震える指の指し示す先を見ると、魔王軍の魔物たちが倒れており、その中には真っ赤な不死鳥であるバーミリオンの姿もあった。バーミリオンはかろうじて息があるものの、後一撃で倒せるのは明らかである。

 そこに、カーライルに遅れてラーリットたちもやってくる。


「どうやら、緑の勇者と四天王が戦ったみたいね。双方相打ちっていうところかしら」

「みたいだな。五将軍の姿はないが、こちらに来たというわけではないのか」


 カーライルが周囲を見渡すが、五将軍がいる様子はない。

 その時である。ラーリットに悪意ある閃きが起きた。彼女はカーライルにこっそり耳打ちする。


「今なら私たちしか見ていないし、緑の勇者がここで死ねば四天王を倒した実績は貴方の物よ」

「しかし……」


 カーライルは難色を示す。緑の勇者がここで死ねばというのは、自分がとどめを刺すということである。流石にそれは躊躇した。

 そんな勇者を見て、ラーリットはさらに続ける。


「ニーナも四天王を倒しているわ。実績で水をあけられるわけにはいかないでしょう?」


 ニーナという言葉に勇者は弱かった。そして、ラーリットもそれをわかっており、ニーナの名前を出して、躊躇する勇者に決断を迫ったのだ。ラーリットとしても、勇者に手柄を立ててもらわなければ困るのだ。

 ニーナの名前に反応したカーライルは覚悟を決める。

 剣を抜くと、それを緑の勇者に突き立てた。


「何を――――」


 緑の勇者は信じられないものを見た驚きで、目を大きく見開きカーライルに抗議しようとしたが、最後まで言葉を発することが出来ずに絶命した。

 驚いたのはズーたちパーティーメンバーも一緒である。


「何をしているんだ!?緑の勇者を殺すなんて」


 睨むズーに対し、カーライルは笑う。緑の勇者から剣を抜いて、彼の血を舌でなめとった。


「四天王を倒した手柄は俺のものだ。いいな?」


 狂気の光を帯びた目で、パーティーメンバーに命令を出すカーライル。しかし、ズーやカリムは納得しない。


「勇者にあるまじき行為ではないか!」

「その通り!」


 その批判にカーライルはイラッと来た。


「うるせえ!!」


 怒声とともに放った攻撃で、ズーとカリムは絶命した。まさかカーライルが自分たちにも攻撃するとは思っておらず、対処が遅れたために致命傷を受けてしまったのだ。


「ひっ!!」


 アンは叫び声をあげて背中を見せて走り出す。しかし、カーライルはそんな彼女にも

後ろから襲い掛かり、心臓を一撃で貫いた。


「はーっ、はーっ」


 呼吸が荒くなるカーライル。勢いとはいえ、緑の勇者と仲間三人を殺したことで、彼は異常な興奮をしていた。そんなカーライルにラーリットが近寄る。


「これは私たち二人だけの秘密ね」


 声を掛けられ振り向いたカーライルの目は、もはや正気を失っていた。しかし、ラーリットはこれから待っているバラ色の人生に期待を膨らませ、それに気づくのが遅れた。


「お前にもしゃべられちゃ困るんだよ」


 カーライルはそういうと、ラーリットの首を刎ねた。地面に転がるラーリットの顔は、驚きの表情のままであった。

 そんなラーリットの首には興味も示さず、カーライルはバーミリオンにとどめを刺すべく、そちらへと足を向ける。

 その瞬間、彼に強烈な頭痛が襲い掛かる。そして、四肢がしびれて体の自由が無くなり、地面に倒れた。それを待っていたかのように、三賢者であるカスパーとバルタザールが現れた。

 バルタザールはすぐにバーミリオンに回復魔法を使う。


「バーミリオン殿、お役目御苦労」


 カスパーは傷が癒えて立ち上がったバーミリオンにうやうやしく頭を下げた。

 バーミリオンは人間形態に戻ると、ニヤリと笑って白い歯を見せた。


「まったく、相打ちっぽくなるように勝ってくれなんて、難しい注文は今回限りにしてもらいたいぜ」

「作戦は成功ですから、これにて終わりでござます」


 カスパーも笑う。

 カーライルは今の状況が理解できなかった。なので、頭痛に襲われ苦痛に顔をゆがめながらも、カスパーに問う。


「作戦……だと?どうい……こと……だ?」

「ふむ。主役である貴殿にも、今回の作戦を説明するとしよう。今回の作戦は勇者の闇堕ち。貴殿が勇者としての資質を失い、神のギフトを失うことがまずひとつ。今、とても苦しいじゃろう?それは、体からギフトが剥がされるときの苦しみ。貴殿は既に神から勇者にはふさわしくないと認められたのじゃ」

「何だと!?」


 カーライルはカスパーの説明に驚いた。自分は死ぬまで勇者であると思っていたが、途中で勇者でなくなるという事実を突きつけられ混乱した。


「じゃあ……俺は……これから……どう?」

「そう、貴殿がこれからどうなるかが、本作戦の最大の目的。勇者ではなくなったが、勇者であった強靭な肉体は残る。そこに、ギフトが抜けてあいた穴のようなものがあり、ギフトの代わりに新たな力を宿すのじゃ。バルタザール!」


 カスパーはバルタザールを呼んだ。

 そして、二人で呪文を唱え始める。すると、カーライルを中心に魔方陣が出現した。

 それを見たカスパーとバルタザールは、魔方陣のふちに触れて魔力を流し始めた。


「来たれ、精霊よ!」


 カスパーの求めに応じて精霊が召喚され、カーライルの体の中へと入る。

 その時の衝撃が激痛であり、カーライルは叫び声をあげた。


「ぐあああああああああ!!!!!」


 カーライルの声に反応するかのように、魔方陣は輝きを増す。そして、光に包まれてカーライルの姿は見えなくなった。

 その神々しいまでの光に、カスパーとバルタザール、バーミリオンは恍惚の表情となった。

 そして、光が終息すると直立のカーライルの姿が出現する。


「素晴らしい」


 カスパーはカーライルを見てそうつぶやいた。

 そのカーライルであるが、痛みが消えた体を確かめるように、手や腕を動かす。


「今までと変わらんな」


 勇者であった時と、そうでなくなった時で身体に変化はなかった。ただ、頭の中で


「汝のなしたいようになすがよい」


 と囁く声がするだけであった。 

 カスパーはカーライルに頭を下げた。


「ようこそ、元勇者様。魔王軍は貴方様を歓迎いたします。どうぞ、その力を魔王様のために存分にふるっていただけますよう」

「具体的に何をすればよい?」

「まずは、貴方様の幼馴染である剣聖と荷物運びを処分していただければ」

「荷物運び?」


 カスパーの口から出た荷物運びという言葉にカーライルは不快感を示す。それがコアンのことであるのは彼もわかっていた。


「ええ。その荷物運びでございますが、実は並々ならぬ力を持っておりまして。先日、わが軍の四天王が剣聖に倒されたのも、そやつのせい」

「まさか」


 とカーライルは一笑に付すが、頭の中で囁く声が聞こえた。


「そいつを殺せ」


 カーライルは何故かその声に従わなければと思う。その理由は彼自身わかっていなかったが。


「よかろう。俺は昔からあいつが嫌いだった。もっと早く、この世から消しておくべきだったな」


 カーライルの返答に、カスパーは満足そうに頷いた。

 そして、傍らに転がるラーリットの首をちらりと見た。


(ここまでの作戦は成功。勇者に精神魔法はきかないが、そのメンバーを精神魔法で操ることは可能。貴女の死は無駄にはせんよ)


 カスパーは心の中でラーリットに話しかけた。

 ラーリットはかなり前からカスパーの魔法により操られていた。操るといっても、カーライルを手に入れたいという気持ちを増幅したに過ぎないのだが。

 彼女はカーライルを闇堕ちさせる駒として、見事にその役割を果たしたのだった。


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