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生徒会戦国史 -絆と闘争の交差点-  作者: 元永平一郎
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プロローグ

 1976年7月27日。日本列島改造論。人々がその大きなロマンに乗っかることで狂乱の如き上昇を見せた物価、遥か中東での領土・覇権争いに伴う石油資源の輸出制限。そして、札束が飛び交った金脈問題に、国境を越えた黄金メッキでできたスキャンダル疑惑大騒動。世は大波乱。そんな壮大な政治のロマンを功罪ともに作り上げたコンピュータ付ブルドーザー、"今太閤" 田中角栄が、悪名高いロッキード事件の収賄疑惑で逮捕された。この大スケールのニュースは羽ばたく間に全国に知れ渡り、それはここ、明城(みょうじょう)高校でも例外ではなかった。

 広大な平野が続く愛知県愛西市南部。灰色のコンクリートに、緑色の街路樹が並ぶ歩道。その歩道から体格が良く、制服をしっかりと着込む男子高校生たちが次々と明城高校の校門へと駆け込む。部活動に励み向かおうとした者たちはその異様な光景に立ち止まった。

 そんな一切の曇りなく、カラッと晴れ渡った猛暑日に、その熱さに拍車をかけた大ニュースが、どのように影響を与えたのか。そして、何が男たちを慌てて駆け込ませたのか。かの連続性を秘めた金脈問題を機に派閥政治あるいはそれに伴う政治運営に対して、明城高校の世論は懐疑的な反応を取り、明城高校生徒会の政権存続はもはや危機に立たされた。そう、この年の夏休みは明城高生にとっては天王山どころか、もはや修羅の夏であった。この時の政権は中央集権的な政府を掲げた、連邦社会民主党(連社民)によるもので、学生による学生のための風紀委員会と監査委員会の設置をはじめとする司法改革でも同様に強権的なものにしようとした。そういった動向によってまた更に危機に立たされ、その傾向に対して野党であった民主共和党はこれを政権交代の逆転のチャンスとし、その夜、両党は幹部ら数名の男子高校生たちを党首の自宅に集め、今後の在り方について話し合うことになった。

 「諸君! 今日こうして集まったのは、例の事件についてだ。知っての通り、我々が通い集う明城高校は市民教育に基づいた生徒会活動が有名だ。その生徒会が"彼ら"と同じように、薄汚れた手で政を為しているという話題で持ち切られてみろ。明城高校の存在価値と信用を貶め、より陰湿で消極的な世論に出来上がってしまう。そうなっては我々連邦社会民主党も形無しだ! 民主共和党に政権が乗っ取られ、揚げ足も取られる。それだけはなんとしても阻止せねばならん!」そう危機溢れる現状を語ったのは、当時連邦社会民主党の代表にして生徒会長であった安藤信正(のぶまさ)で、彼に近い幹部の男たちは彼の自宅の自室で話し合っていた。彼らは彼の言葉に同意の相槌を打ち、彼の話が終わって間もなく、右腕を上げて、「強く正しく美しい政治」を行う事を誓った。

 その一方、民主共和党の方は、党代表であった桑田秀紀(ひでき)が彼の自室に党幹部らを集めてこう語った。

 「ご存知のように、今や潔白な政治が全国で求められている。明城高校の生徒たちも例外ではない。ましてや一般的な同世代の人たちより自立性・自主性に長けているように教育を受けてきている。疑う余地もなく、連社民は逆境に立たされることだろう。今はそうでなくとも、いずれかは著しく劣勢に立たされることになる。今、我々は野党だ。だが、いつでも与党になって政権を作っていってもいいように、今夜からでも準備を進めていかねばならん。」その言葉に幹部らは目を瞑って頷き、彼らは潔白な政治を求めるべく左腕を上げて誓いを立て、計画を企てる事となった。こうして両党とも各々の誓いを同じ一夜のうちに立てたのであった。

 しかし、現実というものは厳しく、組織票の力に敵う事はままならなかった。そう、連邦社会民主党の世はまだ続いていた。あの話題を持ち切った大ニュースと熱き誓いからおよそ3年、彼らの予想を上回る熾烈な権力闘争の幕が上がるのであった。

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