表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ほのぼのヒューマンドラマ 〜猫もいます〜

缶コーヒーと私の賞味期限

作者: 櫻月そら


「もうずっと缶コーヒー飲んでるよね。匂いで気持ち悪くなることもなくなったし、好きなの飲んでね?」


「これが、意外と美味(うま)いんだよ。あんまり見ないメーカーもあって面白いし」


「それなら良いんだけど……」


 夫は、かなりのコーヒー好きだ。我が家には専用のケトルや、カプセル式のコーヒーメーカーまで揃っている。しかし、私が妊娠中にコーヒーの匂いで気分が悪くなったことをきっかけに、夫は缶コーヒーを飲むようになった。


 飲んだあとはすぐに水でゆすぎ、ビニール袋に入れてくれる。


 しかし、もう匂いで気分が悪くなるようなことはない。むしろ、授乳期が終わってからは私もコーヒーを飲むようになっている。


 夫にも好きな物を飲んでほしいのだけど――。


 最近の夫は、自動販売機で缶コーヒーを買ってくる。自宅近くに設置された、五十円から百円くらいで販売している自動販売機。夫曰く、「はまった」とのこと。


 価格が安い理由は賞味期限が近いからだ。中身は安心安全なものなので、財布にも地球にも優しい。夫が我慢しているのではなく楽しんでいるのなら、それで良いかと私も納得した。


――ふと、思った。


「私の賞味期限って、いつなんだろ……」


「え?」


「……え? あ、ごめん! 口に出てた? なんとなくね、自分の賞味期限っていつまでなんだろーとか考えちゃって。ほら、お腹に妊娠線もできちゃったでしょ? 体型もなかなか戻らないし……」


 ボディクリームやオイルでケアしているが、妊娠線はまだ消えない。お腹が大きくなり始めた時に、きちんと対策しておくべきだった。妊娠中に増えた体重もあまり減っていない。


 ふとした時に感じる自己嫌悪や不安が、無意識に言葉になってしまった。


「……俺がいるかぎりは、半永久なんじゃないか?」


 夫は新聞を読みながら、顔色ひとつ変えずにそう言った。


「……そっか」


(そうだ、こういう人だった)


 キザにも聞こえるような言葉を、サラリと日常会話に混ぜてくる。そして、夫にとっては何でもないその言葉が、いつも私を安心させてくれる。


「ママー、パパー、おはよう」


「おはよう。今日もひとりで起きれたね。えらいえらい」


 息子は四歳になってから、目覚まし時計で起きる練習をしている。息子の頭をくしゃくしゃと撫でると、誇らしげな顔で私を見上げてきた。


「ママは、きょうもキレイだね」


「あ、ありがと」


 この父親にして、この子あり。


 息子の将来が楽しみなような、ほんの少しだけ不安なような――。




お読みくださり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] うふふ♡ なんて幸せな世界♡ 愛してるよ、キレイだよって思ってもらえるのは、主人公さんも夫や息子と日々、ていねいに向き合い、愛情をたっぷり注がれているのでしょうね♡ 缶コーヒーを飲むよ…
[一言] えっ......なにこの素敵な世界......。 やばいです。正直言ってどストライク過ぎました(*´-`*) さらっと言えてしまう旦那さま、格好良すぎますね。 主人公さんは息子さんの将来がち…
[良い点] ふふふ妬けちゃいます(*´艸`*)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ