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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『ガーデン』の記録

作者: 光井 雪平


かすかに遠くで聞こえる鐘の音を聞いて俺は目を覚ます。

そして若干寝ぼけながら体を起こし、ベッドから降りる。そして隣のベッドで寝ている少年に意識を向ける。どうやら隣のベッドで寝ている少年はまだ目を覚ましてないようだ。それを確認すると俺は、なるべく音を出さないように気をつけながら部屋から出る準備をする。準備を終えると一度深呼吸をして部屋をでる。

部屋から出た後、俺は日課を行うために訓練場に向かう。その道すがら会いたくない人物を見つける。その人物は金髪碧眼の少年で、美形といえる顔立ちで物語の王子様のようなイメージであったが、そんな彼が着ている服は俺と同じぼろの服であった。その少年は俺と同じ12歳で、このくそったれな『ガーデン』という場所で生きる人物である。

俺は少年に見つからないように動こうとするが、先にその少年に見つかってしまう。その少年は胡散臭い笑顔を浮かべながらこちらに近づきながら声をかけてくる。

「やあ、ロルフ。おはよう、朝早くから君は何をしてるんだい」

俺はその少年を軽くにらみながら返事をする。

「お前には関係ないことだ、アルベルト」

「アルで構わないと言った何回も言っているだろう」

アルベルトは苦笑しながら答える。その苦笑する姿を見て、俺は舌打ちをすると同時にアルベルトから離れて訓練場に向かおうとする。

「そう邪険にするなよ、ロルフ。そんなに僕のことが嫌いなのか」

「好きとか嫌いとそういう問題じゃない、お前と仲良くするメリットがどこにある」

「今後の生活が楽しくなる」

そういってアルベルトは笑う。その笑顔を見て俺は殴りたくなる衝動を抑えながら、大きく舌打ちをする。

「楽しんで何になる、俺は強くなる必要がある。そのためにはお前と無駄な時間を過ごす時間はない」

「適度な休みも必要だと思うがどうだろう」

「睡眠と食事の時間は取っている」

「そういうことじゃないだろう。確かにそれなら体的には問題ないだろうが精神的には大大丈夫かい?」

「アルベルト、邪魔をするな。俺はお前らとは違ってまだあきらめてないんだよ」

「僕も諦めてないさ」

その目は真剣そのものだった。俺は大きく舌打ちをする。

「そうか、じゃあ俺に話しかけるのは俺への妨害か」

「違う、君と仲良くなって一緒に強くなろうと思ってね」

「俺は1人で問題ない。訓練相手が欲しいなら他の奴に頼め」

俺は吐き捨てるようにいう。アルベルトは肩をすくめ苦笑する・

「これ以上は無駄のようだね、ではまた教室で」

そしてアルベルトは去っていく。俺はアルベルトに目もくれずに訓練場に向かう。訓練場に入るといつも訓練を行っているスペースに行き、俺は魔力のコントロールの練習を開始する。


俺は転生者だ。それを自覚したのは3か月前のことだ。俺の前世の最後の瞬間は覚えていない。だが俺にはまだ生きていたかったという強い後悔がある。そして、俺は転生した、と気づいた直後、歓喜したさ。二度目の人生を歩める、と。だがそんな俺の理想はすぐ打ち砕かれた。この体の主が持っていた記憶によって。俺の体の主は心が死んでしまい、原理はわからないがそこに俺の意識が入ったようだった。だから、この体の記憶はあった。その記憶は最悪ものだった。この世界には魔法がある。そして、この魔法は先天的なものが重視される。才能がすべての世界だ。だが、この世界の俺が住んでいた国では、才能があまりなくても、才能がある者たちと勝てるような人材を欲していた。そして、この場所『ガーデン』では、孤児たちを集め、人材育成に励んでいた。その方法は人道的なものとは言えない。ここは学校のような環境になっている。だが、この学校での卒業試験が最悪なものだ。全員参加のトーナメント方式での殺し合い。通称は『間引き』。脱出は不可能。生き残りたいならクラスメイトを殺して、優勝するしかない。そして、生き残ったら軍に引き取られ、軍で使いつぶされる。

「くそったれが」

せっかく転生したのに、なんて環境だと思った。自殺すら考えた、でも俺は諦めきれなかった。生き残ることで、この状況を打破してやると覚悟した。そして、俺をこんな目にしやがった野郎に目の前見せてやると。そのために、俺がすることはただ一つ。強くなることだけだ。

「精が出るね、ロルフ君」

俺の後ろから声がする。俺が振り向くとそこには白衣を着た男が立っていた。

「何の用ですか、先生」

俺はいら立ちを抑えながら返答する。この男は俺たちの先生を名乗るくそ野郎の一人だ。名前はロイ=ゲルト―ル。俺たちガーデン第三期生の監督官だ。

「いや、君が訓練している様子を見かけたので、声をかけてみた」

「そうですか」

俺はそう言うと、魔力のコントロールの特訓をそのまま続ける。ロイが立ち去る様子はない。だが俺は気にせず、続ける。

「ロルフ君、一つアドバイスだ」

俺が特訓を続ける中、突如そういわれる。俺はロイのほうに振り向く。

「なんでしょうか」

「魔力の流れにムラがあるぞ、それでは君の思う通りではないだろう」

ロイの言うことは事実であった。俺はそれを感じていたが、それを直そうと最近練習をしていたところだった。

「少し、触るぞ」

ロイはそう言うと、俺の肩に手を置く。すると、俺の魔力の流れにムラはなくなる。俺は驚く。

「コツは、体の中心を意識することだ、これで雰囲気は掴んだろうから、『間引き』には間に合うだろう」

ロイは笑顔でそう言う。その笑顔に俺は吐き気を覚えながらも、ありがとうございます、と言う。そして、ロイは手を離す。

「君には期待しているよ、3か月前とは変化した君にはね」

その言葉のニュアンスに俺は恐怖を覚えながらも、ありがとうございます、と言って特訓を再開する。ロイは訓練場から去っていく。


俺が時間になったので、訓練場から教室に行くと、アルベルトに話しかけられる。

「お疲れ、ロルフ」

俺はそれを無視し、自分の机に向かおうとする。だが、突如目の前に少女があらわれる。

「アルのことを無視すんな」

彼女の名前は、ルアーナ。俺と同じ境遇のやつだ。アルベルトに好意を持っているらしく、俺の態度に毎度のごとく突っかかってくる。俺は舌打ちをすると、アルベルトにすまん、と言う。

「構わないさ、よくあることだしね」

「アルは優しすぎるよ、ちゃんと言ってやらないと」

「僕が勝手に話しかけてるんだから、しょうがないよ」

ルアーナは頬を膨らませて、俺をにらむ。アルベルトは苦笑すると、ルアーナに落ち着いて、と声をかける。ルアーナは俺をにらむのをやめ、アルベルトに抱き着く。俺はその隙に自分の席に行く。そして、しばらくして、ロイがあらわれる。

「おはよう、諸君、今日は君たちに一つ配るものがある」

ロイはそう言うと、一枚の紙をこの教室にいる全員に配り始める。それは現在の成績のランキングだった。俺の順位は36人中12位だった。前回配られた時よりも大幅に上がっていた。

「そのランキングを大いに参考にして、『間引き』まで励むように」

俺は何が励むだ、くそ野郎と心の中で吐き捨て、そのまま開始された授業を受ける。



そして、『間引き』まであと三日となっていた。俺がいつも通り訓練場から教室に来ると、教室の空気は昨日よりも重苦しいものとなっていた。そんな中、アルベルトとルアーナはいつものように笑顔で話していた。そして、俺を見つけるとアルベルトは手を振ってきた。俺はそれを無視して席につく。ルアーナから何か視線を感じるがそれも無視した。

ロイはいつも通りの時間に教室に入ってきた。そして、ロイは何かの箱を持っていた。その箱を教卓の上に置くと、口を開く。

「おはよう、諸君。今日は一つ連絡がある。『間引き』の際のトーナメントの抽選を行う。『間引き』まではあと三日だからな」

そのロイの言葉に教室の雰囲気は固まる。そして、しばらくすると一人が、立ち上がり騒ぎ出す。

死にたくないだのなんだの、と俺はそれを冷めた目で眺める。ロイはため息をつくと、そいつに近づき、注射器を指し、何かを注入する。すると、そいつは突如落ち着く。

「諸君、わかっていると思うが、死にたくないなら、トーナメントを最後まで勝ち上がれ」

ロイは全員にそう言う。俺は唇をかみ、ロイを殺したい衝動を抑える。

「では、抽選をしようか。いまから紙を配る。そこに自分の名前を書いた後、教卓のところにある箱にいれるところがある」

そして、ロイは紙を配り始める。俺は名前をすぐに書くと、その箱に入れる。そして、全員が紙を箱に入れると、ロイは箱に魔力を込める。すると、黒板にトーナメント表が映し出される。

「これが抽選の結果だ、各自記憶したまえ」

俺はトーナメント表で自分の名前を探し、相手を見る。相手は、赤髪の少年のヴァンスだった。俺がちらりとヴァンスのほうを見ると、ヴァンスも俺を見ていた。その表情は恐怖そのものだった。そして、クラスの雰囲気も重苦しいものになっていた。


休憩時間になると、アルベルトが俺のところにルアーナと一緒にやってくる。

「君と当たるとしたら最後だね、ロルフ」

このアルベルトの発言は俺には、スポーツの大会でライバルに決勝で会おうというノリで言っているように聞こえた。俺はそうだな、とだけ返す。アルベルトの発言にいちいちかみつくのは無駄だと俺は思っていた。

「まあ、ルルを倒してからになるけどね」

アルベルトはルルに目を向ける。ルル、このガーデン第三期生でトップクラスの実力を誇る少女である。

「ルルは倒しておくから、アルは心配しないで」

ルアーナは任せろ、といった感じでそう言う。

「その時は、ルアーナと戦うのか」

「大丈夫、アルには傷一つ付けないから」

ルアーナはそう笑顔で言う。ルアーナにはアルが生き残ればそれでいい、と考えているようだった。俺はそれにいら立ちを覚える。アルベルトは少しさびしそうに笑う。

「アル、気にしないでね」

そう言うと、ルアーナはアルベルトに抱き着く。俺はそいつらを見ながら、やはりこの場所は、ガーデンはいつか潰すと、考えていた。


そして、『間引き』当日となった。俺が教室に入ると、今までよりもいっそう重たい空気になっていた。普段は笑顔でしゃべっているアルベルトもルアーナも今日は自分の席でおとなしくしていた。俺も席につき、ロイが来るのを待つ。しばらくして、ロイが教室にやってくる。

「諸君、『間引き』の時間だ。今から君たち32名を選別の会場に連れていく。そして、到着したら各自ばらばらの待機所で待機してもらう。つまり、トーナメントで当たらない限り、移動の時間が互いに会う最後のチャンスだ」

そして、ロイはついてこいと言って、教室を出る。俺を含む一部の人間は、すぐに立ち上がりロイの後を追う。そして、アルベルトが話しかけてくる。

「ロルフ、自信のほどは」

俺はアルベルトをにらむ。アルベルトは気にもしていないように笑顔のまま、変化しない。「自信と関係ねえだろ、俺は生きる。それだけだ」

「まあ、そうだよね、ルアーナは?」

アルベルトはいつの間にか隣にいたルアーナに聞く。

「アル以外には勝つ」

「そうか、僕は自信がないよ」

アルベルトは苦笑交じりにそう言う。

「そうは見えねえけどな」

「そう見えるのかい、結構ギリギリなんだよ、僕も」

アルベルトは本気でそう言っているようであった。そんなアルベルトをルアーナは大丈夫?というまなざしで見つめ、アルベルトに体を寄せる。そして、しばらくして、ロイがと足をとめた。その前には大きな扉があった。ロイはその扉を開ける。扉の先は真っ暗だった。

「ここから先が会場だ。入った瞬間、魔術で待機場に飛ばされる。覚悟ができたものから入りたまえ」

俺はすぐに入ろとしたが、一度足を止め、アルベルトほうを見る。

「また会おうぜ、アル」

アルベルトは俺の一言に大きく驚いた様子であったが、すぐに笑顔になる。

「ああ、また会おう、ロルフ」

そして、俺は扉の中に入る。次の瞬間、殺風景なホテルの一室のような部屋に飛ばされる。ここが待機場であったようだ。そして、壁に目を向けるとトーナメント表と次の選別までの時間なるものが表示されていた。あと10分ほどであった。俺は一度深呼吸をする。そして、ベッドの上にあるバッグを開く。昨日、ロイに渡したものであり、この中には『間引き』で必要なものが入っていた。

「ちゃんとあるな」

そして、俺は2本のナイフを手に持つ。これは3週間前に新しく準備した俺の武器だった。俺はナイフを両足につけたホルダーに入れる。そして、選別の時を待っていた。選別の時間になると、ロイの声がどこからか聞こえてくる。

「諸君、これより第一次選別を開始する。そこの部屋にある扉を開ければ、対戦相手と戦う場所に飛ばされる。開始の合図はこちらからは出さない。飛ばされた瞬間、戦いは開始されると考えろ」

ロイはそこで言葉を切る。俺は扉へと向かう。

「5分以内に扉から出ない場合、毒ガスを流す。そして相手は不戦勝だ。ではスタート」

ロイのスタートの声は楽しそうなものであった。俺は一度舌打ちをした後、深呼吸をする。そして、扉を開ける。次の瞬間、真っ白な何もない空間に飛ばされる。俺はナイフを引き抜き、周囲を警戒する。しばらくして、離れた場所に人影を確認する。俺はそれに向かって、突進する。すると、来るなよ、来るなと泣き叫ぶ少年の声が人影のほうから聞こえる。その声は第一の相手のヴァンスの声だった。俺は構わず突っ込む。

俺は魔力の量がそんなに多くない。そのため、俺が身に着けた戦闘スタイルは得意な魔法が風系だったこともあり、風の魔法で自分の体を加速させ、相手の懐に飛び込むというものだった。ヴァンスはきっとそれを知っている。ヴァンスは炎系の魔法の使い手だったが、俺が後10歩ほどの距離に詰めても、攻撃せず、ただ泣き叫んでいた。

「やめてくれ、ロルフ」

ヴァンスの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。そんな顔を見て、俺は一瞬ためらいを覚える。そして、あと3歩までの距離になる。

「ごめん」

俺は一言謝ると、ヴァンスの首元と心臓にナイフを突き立てる。ヴァンスの目は見開いていた。そして、俺はナイフを引き抜く。引き抜くや否や、ヴァンスは後ろに倒れる。ヴァンスは絶命したようであった。すると、俺はさっきの待機所に戻っていた。俺は両手を見る。ナイフにはべったりと血がついていた。俺は吐き気を覚える。人を殺したのは始めてだった。俺は震えていた。俺の頭の中はグルグルしていた。そして、ヴァンスの顔が盲目に焼き付いてるかのようにずっと見えていた。

「くそが」

俺は一度つぶやく。そして叫ぶ。


しばらくして、部屋にロイの声が聞こえる。

「第一回目の選別は終了した。次の相手を確認したまえ、30分後に第二回の選別に入る」

俺は、それを聞いて壁に映し出されるトーナメント表を見る。トーナメント表は形が変わり、死んでしまったであろう16人はトーナメント表から名前が消えていた。

「生きる、生き残るんだ、それにもう」

後戻りはできない、と心の中で言う。そして、俺は余計なことに頭をできる限り、回さずに選別、『間引き』に集中していた。

そして、選別は第三回まで終了した。俺は三人を殺し生き残っていた。

「おめでとう、選ばれし4人よ、ここでお知らせだ。本日の選別はここまでとし、明日に再開する。では、おやすみ」

ロイの声を聴き終わると、俺はベッドに倒れこむ。

「何がおめでとうだ、くそが」

そして、俺はトーナメント表を見る。残された四人は、俺とダグとルルとアルの四人であった。俺はその4人の名前を見て、ひとつの事実に気づく。

「ルアーナは死んだのか」

だが、自分のこのつぶやきに、何の感情もないことを俺は実感していた。だが、俺はきづいたら涙を流していた。別にルアーナとは仲良くした覚えはない、だがこの『ガーデン』でアルとルアーナ以外とはあまり会話をしていなかった。

「ルアーナ、おやすみ」

そして俺は意識を落とす。


俺は目覚めると、ストレッチなどをして、体をほぐしていた。第四回目の選別まで残り30分だった。そして、相手のことを考える。

ダグ、ダグは大柄の少年で、土系の魔法を扱うのに優れているやつだ。

「懐に踏み込むには正面からじゃ無理だ」

ダグの魔法は中距離型であり、また速度も速いものだ。だが対策はある。そんなことを考えていると、ロイの声が聞こえてくる。

「諸君、おはよう。ぐっすり眠れたかな、これより第四回選別に入る。楽しませてくれよ。諸君」

俺は、壁にこぶしをたたきつける。

「いつか、絶対に殺す」

俺のロイたちへのいら立ちは限界に近づいていた。だが、今はまだ何もできないこともわかっていた。俺は歯噛みをしながら、第四回の選別に挑む。


時間になり、扉を開けると、ダグも同じタイミングで来たようだった。そして、視線をかわすと、俺はダグに突っ込む。ダグは俺の動きに反応し、土の槍を飛ばしてくる。俺はそれを横に飛んでよける。よけた直後、目の前に別の槍が飛んでくる。体をひねり、ぎりぎりでかわす。ダグはまた土の槍を飛ばす。俺はそれを横にはとばず、体の動きだけでよけ、距離を詰める。

ダグは俺の動きを見て、今度は土の壁を飛ばしてくる。俺は横に飛んでよけるも、槍がまた飛んできて、今回はよけきることができず、左腕をかすめる。だが、構わず、突っ込む。ダグは先ほどと同じような行動をする。俺はそれを見て、横に飛んだあとナイフをふるう。ナイフはちょうど槍にあたる。そいて、槍の軌道をずらす。ダグは驚愕の表情であった。俺はその要領であと5歩までの距離に詰める。すると、ダグは大量の槍を飛ばす。俺はそれを見て、上に飛ぶ。風の魔法を活用して高く飛ぶ。そして、槍をよけると、今度はダグに向かって落下する。風の魔法で大幅に加速して、ダグは俺の動きが予想外であったらしく、反応が遅れる。

次の瞬間、俺の右手のナイフがダグの右目に刺さっていた。俺はすぐに引き抜くと、今度は左のナイフでダグの首を斬る。ダグは俺を掴もうとする。しかし、動きはのろく、俺は後ろにすぐ飛ぶ。そしてダグは倒れる。

「ダグ、すまない」

俺はダグに向かってそう言う。次の瞬間、待機場に戻る。そして体感で30分ほど待っていると、ロイの声が聞こえる。

「第四回選別ご苦労、最終選別は2時間後だ」

そして、俺はトーナメント表を見る。俺の相手はアルベルトだった。


2時間後、ロイの声が聞こえる。

「これより最終選別を開始する。この選別をもってガーデン第三期生による『間引き』は終了する、ではロルフ、アルベルト、その部屋から出たまえ」

俺はドアノブを掴むと深呼吸をする。そして、扉を開く。

今までと同じ場所に到着すると、遠くにアルが見える。俺はアルに何も言わず突っ込む。

「ロルフ、やはり君だったね、僕の相手は」

アルはそう言って笑うと、右手をあげる、そしてそれを振り下ろす。次の瞬間、俺に光の斬撃が飛んでくる。俺はそれをよける。アルは右手を振り続ける。アルが右手を振ると、俺に光の斬撃が飛んできていた。その量は圧倒的なもので、回避に集中すると、俺はほとんど前に進めなかった。アルは手を振りながら、俺に話しかけてくる。

「ロルフ、ルアーナが死んだの知ってるよね、ルルに殺された」

俺は無言で回避をし続ける。

「そして、ルルは僕が殺した。最後に聞いたんだよ、ルアーナの最後を。そしたらルルはね、こう言ったよ『アル、ごめんねって言ってた』って。ルルさ、右目と右手ルアーナに持ってかれたんだよ、あの子やるよね」

俺は何も答えなかった。アルの顔はだんだん歪んできていた。

「ロルフ、ルアーナはいい子だったよね、それにみんなも、悪い奴は誰もいなかった。でもみんなで殺し合いをしてきて、今残っているのは僕たちだけだ」

俺は何も答えない。すると、ロルフは手を止める。俺は近づこうとしたが、足を止める、あるの表情が変わっていたから。

「ロルフ、この『ガーデン』は最悪な場所だ、君はどう思う?」

俺は間髪入れずに答える。

「俺もそう思う、だからいつか潰す、ここを。もう二度と」

「「こんな悲劇を起こさせないために」」

俺とアルの声は一言一句一致する。俺とアルは笑う。そして、アルは右手をあげる。

「僕と君の考えは一緒のようだね、だったらお願いがあるんだよ」

「何だ?」

「死んでよ、ロルフ」

アルはそう言うと、右手を振り下ろす。俺は飛んできた光の斬撃をよける。アルの攻撃は先ほどよりも激しくなっていた。

「ロルフ、君と僕の考えは同じだ、だから君の意思は僕が引き継ぐ、君は僕に比べれば弱いから、君はここで死んでくれ」

「それはできない」

俺は答える。俺にはそれはできないと感じていた。だってアルは泣いていたから。

「お前は優しすぎる。この『ガーデン』をつぶす前にお前がつぶれる、だから、お前はここで休め、あとは任せろ」

アルは右手を振るのを止める。俺はすぐさま距離を詰める。だが、アルはまた右手を振り始める。

「いいや、君が休んでろ、僕には責任があるんだ」

「それは俺もだ」

俺とロルフは視線を合わせる。俺にはわかった、考えていることは一緒だと。だから…

「「死ね、ロルフ(アル)」」

そして、俺は最低限の回避で前に進む。傷は増えるも、あともう少しの距離まで詰め寄る。俺は左手のナイフを投げる。アルはそれをよける。その間、微妙な隙が生まれる。俺はそれに乗じ、距離を詰める。だが、アルは予測していたようであり、斬撃が飛んでくる。俺はその斬撃で左腕の肘を切られ、肘から先が俺の腕から離れる。俺はそのまま咆哮しして、アルに突っ込む。そして、右手のナイフをアルの首に突き立てる。そして、すぐさまナイフを引き抜く。アルは笑顔だった。そして、口を開く。それはかすかすの声だったが、俺にはちゃんと聞こえた。

「生きて、ロルフ」

そして、アルは倒れる。俺は叫ぶ、ただ叫ぶ。

「おめでとう、ロルフ、期待しただけはある」

そんな俺の後ろから、ロイの声が聞こえる。俺はロイをにらむ。

「そんな恐い顔をするなよ、ロルフ。君はこの『間引き』を生き残り、選ばれたんざ、喜びたまえ」

俺はふざけるな、と小声で言う。ロイは何かいったかい?と聞く。

「ふざけるなって言ってんだ、俺はいつかてめえらを殺す。そしてこの『ガーデン』を潰す。絶対にだ」

ロイは大声で笑う。そして、俺の耳元でささやく。

「やれるものならやってみたまえ」

俺は怒りを抑える。こんなところでこいつ一人を殺しても意味はないと知っているから。そして、もしそんなことをすれば、アルが託したものが無駄になるから。

「まあ、とりあえず最後の作業だ」

ロイはそう言うと、アルの体に近づき、注射器のようなものを近づける。すると、注射器は光る。そして、俺のところに戻ってくると、それを俺に刺して、何かを注入する。俺は驚愕する。

「何をした?」

「『間引き』を何のためにしていると思う、ただ殺し合いをして一番強い奴を選ぶのでは非効率だとは思わないかい」

俺は何を言っているのか最初わからなかった、だが、この先を聞くことはよくないことだと同時に思っていた。

「『間引き』はね、死んでいった者たちの力を一番強い奴に授けるためにやるんだよ、この注射器には二つの力がある。一つ目に、死んだ者の魔力を吸収し、それを凝縮した液体を生成する力を持つ。二つ目に、その液体を注入した人間に、凝縮された液体の魔力量によって莫大な力を与える」

ロイは楽しげに話す。俺はただ黙っていた。驚愕で口が開かなかった。

「ただね、これほとんど成功しないんだよ、前回は失敗したんだ」

何を言っている、と俺は思った。だが、口は開かない。それに体から力が失われているように感じ、また体中でさっきの戦闘とは別の要因の痛みを感じ始めていた。

「だから、今回は成功するといいな、と思ってる。そろそろ痛みを感じてるんじゃないかな」

俺はただ黙ってロイを見る。

「じゃあ、成功したらまた会おうか、ロルフ」

ロイはそう言うと、俺に背を向ける。俺は待て、と言おうとするが何も言えない。そして、激痛を感じ始める。

――俺は死ぬわけにはいかなんだ、アルのためにも、ルアーナのためにも、それに俺が殺した奴のためにも、『ガーデン』で生きるやつのためにも

俺の意識は徐々に薄れていく。

俺は…


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ガーデン第三期生 報告書


第三期『間引き』による選別者:被検体番号391番 ロルフ


例の注射器による魔力注入から2時間後、『ガーデン』地下第一実験場で暴走。

第一実験場は30分で全壊。

第一実験場全壊より1時間後、『ガーデン』地下施設の半分が崩壊。

魔力注入から5時間後、被検体番号391番ロルフの死亡を確認。

研究員、監督官等の死傷者は0名。

第三期生での実験は失敗。

『ガーデン』の機能完全回復は2週間後を予定。

今回の失敗から、暴走した直後に処分を実施する用意があると提案。

監督官の増強と武装の強化と施設の改良を要請。


『ガーデン』院長 ロイ=ゲルトール


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