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84 ハーフエルフっ娘の王都防衛5 ~ ドラゴン戦2

 目の前に佇む火竜。

 どうやら火竜のほうはフォーリィの事を知っているようだが、フォーリィは全く覚えていない。


『よもや忘れたとは言わさんぞ。お前に付けられた翼の傷が(うず)くたびに、あの日の屈辱が……』

「忘れたわ」

 話の途中で切って捨てた彼女の言葉に、火竜の口からゴワッと炎がこぼれた。

 一瞬で頭に血が上ったようだ。


 まあ、そうなる事は容易に想像がついていたが、フォーリィとしては全く覚えていない事でネチネチ言われても時間の無駄だし、不愉快になるだけだったので、敢えて相手の言葉を遮ったのだった。


『貴様ぁぁぁ!忘れたと言うのか!去年の今頃のことを!我と、あの日初めて会った別の火竜で、ここから少し北にある街を襲ったとき!お前は奇妙な青い炎で我の翼を焼いただろうがぁぁぁ!』

「あっ、その時の竜なのね。私その後すぐ、記憶喪失になっちゃったから、あなた達の事はきれいさっぱり忘れちゃってるのよね」

 去年の今頃と言えば、フォーリィが火竜との戦い?で、頭を打って記憶を失った時だ。


(あの時、火竜は二頭いたのか)


 あの日、火竜退治に参加したのは三チームの魔法騎士団だったと聞いている。

 よく、そんな少人数で火竜を二体も相手にしようと考えたな、とフォーリィが当時の魔法騎士団に関心したが、何と言うことはない。当時のフォーリィの魔法攻撃力がバケモノじみていたため、彼女に火竜を一体押し付けても余裕だと判断されただけだった。


『貴様ぁぁぁ!ふざけるなぁぁぁ!つくなら、もっとマシな嘘をつけ!』

 再び火竜の口から炎がこぼれた。


「私が頭を打って記憶喪失になった事は結構有名だと思うわよ。後ろのコエリーオ王国軍の人達に聞いてみたら?」

『えっ……?』

 こちらを馬鹿にしての言葉かと思いきや、事実だと言われて火竜の動きが止まった。


『ほ、本当なのか?』

 頭をグイっと近付けて尋ねる。

「だから、コエリーオ王国軍の人に聞いてみたら?」

『……』

「……」


 十数秒間、無言で見つめあったあと、火竜は翼を広げて強く羽ばたいた。

『確かめてくる。嘘だったら焼き殺すからな』

 そう言って、コエリーオ王国軍のいる方に飛んで行った。


 そして、彼等のすぐ近くに着地すると、将軍(ジェネラウ)に顔を近付けて何やら話し出す。

 暫らくし言葉を交わしたあと、火竜はグオォォと大きく吠えて、尻尾をバンバンと地面に叩きつけた。


 数分間、そのように暴れたあと、火竜は再び羽ばたいてフォーリィの前まで戻ってきた。

 もちろん、フォーリィはすでに高価なカデン粒子砲から十分離れた場所に移動を済ませていた。


『た……確かにお前が記憶喪失なのは事実のようだな。だ、だが!我を傷つけたことには変わりはない。だから、貴様を焼き殺してくれる』

 火竜は顔もウロコに覆われているため、赤面などは確認できない。

 だが、顔面を覆っているウロコの下の皮膚は真っ赤に染まっているだろうことは、火竜の裏返ったような声から明白だった。


「さっき、嘘だったら焼き殺すって言わなかった?嘘じゃなくても焼き殺すの?」

『うっ……うるさい!うるさい!』

 火竜が大きく口を開けると、そこに魔力が集まって来る。

 そして、その魔力を炎に変換して解き放とうとした瞬間、フォーリィがパチンと指を鳴らした。

 次の瞬間……


――ビシィィィィィィィィ


 強い光と共に、火竜の頭を衝撃が走った。


『かはっ……』

 その衝撃、火竜は良く知っている。

 悪天候の中で飛行していると、たまに食らう。

 そう、落雷だ。


『くそっ、ツイてな……』

 言いかけて、火竜は違和感を覚えた。

 今の雷はどこから来た?

 空は雲一つない晴天だ。


 まさか……

 火竜がフォーリィを見ると、彼女はニッコリと笑って再び指を鳴らした。


――ビシィィィィィィィィ


『がっ……』

 またしても落雷が火竜の頭に直撃した。


 まさか……

 まさか、まさか……


 天空を操る術を、この人間の少女は持っているのか?


 火竜の心の中に、小さな恐怖が芽生え始めた。

 そう、この世界ではエルフはおろか、知能が高く、数千年も生きられるドラゴンですら雷系の魔法は使えない。

 とは言え、不可能ではない。ただ単に、雷が空気中を電子などが流れることにより発生する事を理解している者がいないため、誰一人として雷を再現できないだけだった。

 だから彼らドラゴンは畏怖(いふ)する。誰も使えない雷を操れる者を。


『くっ……』

 火竜は急いで翼を広げて飛び上がる。

 高速飛行で少しでも雷に当たる可能性を抑え、上空から敵を攻撃するためだ。


『うわぁ?』

 だが飛び上がってすぐ、めまいを感じて落下してしまう。


『くっ、こんな時に』

 先ほどの落雷のせいだろう。

 そう思い、火竜は体全体に治癒魔法を掛けた。


 だが次の瞬間、世界がグルグルと回り始めた。

『な、何だ?』

 そこで火竜は違和感を覚えた。

 これは……目眩(めまい)じゃない?


 明らかに「下」が自分の周りをグルグルと回っていた。あたかも、自分と大地が一緒に回転しているかのようだった。

 と言うのも、「下」が自分の背中に回ると体が大地とは反対側に落下し始めるし、「下」が自分の横に来ると、「下」に向かって横滑りに落下し始めるからだ。


 火竜は四肢の爪を大地に突き立て、必死にしがみついた。


『ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉ』


 こうなると、もはや恐怖しかない。

 得体の知れない何かに襲われている。

 火竜は体中の血が凍るような思いだった。


『……あっ』

 すると、突然「下」の移動が止まった。

 火竜は今、大地を「下」だと感じている。そんな当たり前な事が、こんなに安心するものだとは、火竜は今まで思いもしなかった。


 ほっと一息ついて、火竜が視線を上げると、フォーリィはまだ火竜に笑顔を向けていた。

 そして、また指を鳴らす。


――ビシィィィィィィィィィィィィィィ!


『ぐわあぁぁ』

 先ほどより強い落雷。

 火竜は悟った。

 このままここに留まれば、確実に殺されてしまうと。


『う……う……うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

 火竜は反転して走り出した。

 四肢の爪を大地に突き立て、謎の「下」の移動にも耐えられるように。


「ぜ……全員、避けろおぉぉぉぉぉ!そこにいたら火竜に轢かれるぞぉぉぉ!」

 自分たちのところに向かってくる火竜に、将軍(ジェネラウ)は慌てて部下たちに指示を出した。


 それを受け、コエリーオ王国軍は左右に避け、すんでのところで火竜に巻き込まれるのを回避した。

 だが、後ろに控えていた荷馬車や油壷の射出に使う予定だったカタパルトなどが巻き込まれ、壊滅した。


 そして暫らくすると、遠くの方で飛び去って行く火竜の後姿が見えた。


『テレビの前の皆さん。ご覧になりましたか?カデン伯爵様が見事火竜を追い払いました』

「「「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」」」」

 テレビの前の人々が一斉に歓喜の声を上げた。


『しかし、先ほどのは何だったのでしょうか。雷のように見えましたが』

 看板レポーター、ホシャロンの問いに、テレビ局カンパニーの誰一人答える事ができなかった。

 あのような攻撃は、事前に渡されていた資料のどこにも載っていなかったからだ。


 彼女が使った攻撃は二つ。どちらも異次元魔法(エキストラマジック)で、一つは重力制御。そしてもう一つが任意の場所に電位差を生み出すものだった。

 だが、電位差を生み出して雷を発生させたとしても、それで火竜を倒すことは無理だった。

 だから彼女は、最初は五割の出力で雷を発生させて、徐々に出力を上げていった。笑顔で。

 それにより相手は、雷はまだまだ強くなると信じ込まされるのだ。

 つまり、ハッタリだった。


 まあ、それでも火竜が退いてくれなければ、彼女は三千万クセルの合金を使って、カデン粒子砲で攻撃するつもりだった。



「くっ、退けっ!全員退却だ。砦に引き返すぞ!」

 もはや戦闘継続は困難と判断した将軍(ジェネラウ)が退却を指示した。


「やっと退いてくれたわね」

 そのようすを双眼鏡で見ていたフォーリィは、そっと胸を撫で下ろした。


「!」

 次の瞬間、フォーリィの眉がピクリと動いた。

 背後から気配を感じたからだ。

 この場でもっとも会いたくなかった気配を。


「やあ、カデン伯爵。私のために戦闘に参加するとは天晴な心意気だ」

 背後からの声に振り向くと、そこにはストラペイオ侯爵がロエイロ男爵や自軍の兵士達を連れて馬に乗ってやってきていた。


「後は私達にまかせなさい。あんな亜人ごとき、簡単に殲滅させてくれる」

 そう言って、第一防衛ラインを越えて行こうとする侯爵。

「あのぉ、この先に行かれてしまうと、仮にあなた達がピンチに陥っても助けに行く事ができませんが?」

 彼女は敵地への進行はしない。

 今はこの場所が国境になるので、彼女はどんなことがあっても、この先には足を踏み入れない。表立っては。


「貴様ぁ!我々が負けると言うのかぁ!混ざり者の分際で!」

 激怒する侯爵。

 それに対して、フォーリィはあくまでも事務的に答える。


「いえ。私は国王様よりこの場所を死守するようにと厳命されているので、援軍には向かえないのでご了承くださいと申しているのです」

「ふ、ふん!お前ら混ざり者の力など必要ないわ!」

 そう言って、彼等は馬を走らせ、コエリーオ王国軍を追いかけて行った。


「ちょっと、それ貸して」

 侯爵たちの背中に目を向けながら、地上部隊長が持っている魔道具を受け取り、魔力を流す。

 すると、スピードガンのようなその魔道具が画像を映し出す。


 それは熱を可視化する魔道具だった。

 彼女が光の魔石を魔改造して、赤外線を魔力に変えるようにして、カメラ部分に組み込んだのだ。


 彼女は、赤外線カメラに映し出された影を確認すると、地上部隊長に無言で渡す。

 地上部隊長は受け取った赤外線カメラを使い、彼女が見ていた方角を見る。


「伯爵様。急いで助けに行かないと、彼等が危険です」

 地上部隊長の意見に、フォーリィは首を横に振る。

「さっきも言ったでしょ?私達は国境を越えて戦闘に参加しないって。私たちは自領の民を危険にさらすことは絶対にしてはいけないの。分かるかしら?」

「……かしこまりました」


 フォーリィは一見冷たい対応をしているようだが、それは民を思ってのことだ。

 それが分かっているから、地上部隊長はそれ以上何も言わなかった。



「みんな!急げ!さっさとしないと敵に逃げられるぞ!」

 相手が弱っていると見るや、途端に強気になる侯爵。

 彼らは辛うじて確認できる敵の背中を追って、林の中を進んで行く。


 そして……


「うわぁぁぁ!」

「た、助けてくれぇぇぇ!」

 あちこちから部下の悲鳴が聞こえてくる。


「攻撃?どこからだ!?」

 侯爵が振り向くと、部下たちが、不自然に動く樹木達に襲われていた。

何とか無事にドラゴンを退けることに成功しました。

次回、フォーリィがホーズア王国史に残るとんでもない事をしでかします。

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― 新着の感想 ―
エキストラマジックって結局なんなんですか?この後明かされますか?いきなり説明もなしに50話付近で出されて読み飛ばしてたのかと思いました
[良い点] 1話で倒せたって有ってなんかおかしいなって思ったら、火竜は別個体だったかw [気になる点] 次回、フォーリィがホーズア王国史に残るとんでもない事をしでかします。 まるで今までの事はとんで…
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