66 ハーフエルフっ娘と新たな戦い13 ~ 王都制圧
「なあ、俺たちは異世界に連れてこられたんじゃないのか?」
空を飛んでいる竹飛竜を見ながら、兵士の一人が呟いた。
彼等は、マレクリン将軍率いるホーズア王国軍だ。
フォーリィがラトゥーミア王国を滅ぼした翌日、ラトゥーミアの元王城には既に数百人のホーズア王国軍が駐留していた。
昨日、ラトゥールを無事に領主邸に連れ帰ったフォーリィが、テレビ電話を使ってホーズア国王に出動要請をしたのは、その道のプロだった。
つまり、敵国の首都を占領した後の残党制圧や軍の駐留、その他もろもろの手順を熟知している将軍達に丸投げしたのだった。
フォーリィは部下たちを指揮して、ホーズアの王城中庭に集めてもらった国王軍、数百人をラトゥーミアに輸送した。
この時、テレビを通じて竹飛竜の存在を知った王都民が少しでも近くで見ようと、王城の門前に殺到してパニックになったのは言うまでもなかった。
あと、国王軍を運ぶのも結構大変だった。
竹飛竜が離陸してある程度高度が上がると、「やっぱり降ろしてくれ」と暴れる者が頻繁に現れたし、備え付けの汚物入れをずっと口元に当ててゲロゲロしていた者も大勢いた。
そして、山岳の気流で機体が大きく揺れる度にジェットコースターさながらの絶叫が響き、ラトゥールの王城に到着した時は、殆どの兵が青白い顔でグッタリして動けない状態で、人生初のフライトを楽しめた者は一人もいなかった。
一応フォーリィは、直属の八個小隊にラトゥーミアの王城に駐留するように指示をだしていた。
そして、彼らには中庭付近にテントを張って交代で休んでもらい、万一の時に備えてもらったのだが、最初のうちは王国軍が使い物にならず、その日の夕方まではカデン軍が残党の攻撃に対応せざるを得なかった。
「カデン軍、あれは何だ?連射する魔道筒状武器って反則だろ?あと、何で矢とか魔法攻撃とかを受けても平気なんだ?バケモノ過ぎるだろ」
彼等が驚くのも無理はない。
昨日から、一矢報いようと散発的に襲ってくるラトゥーミアの残党が放つ矢や、魔法攻撃を受けても彼等は傷一つ負っていない。鎧も着けず、作業服としか見えない灰白色の服を着ているだけなのに。
カデン軍は正にバケモノだった。
とは言え、カデン軍が飛び抜けて強靱な肉体を持っている訳ではない。
彼等は透明ガラスのフェイス・ガード付きの灰白色ガラスのヘルメットを被り、石綿の糸を織り込んだ特殊繊維と石綿を幾重にも重ねた戦闘服を着ている。
そして、特殊繊維とヘルメットのガラスは土の魔石で強化されていた。
防刃、防弾、耐熱、それでいて見た目はただの服と言う、まさにバケモノじみた防具だった。
一方その頃、カデンの領都の留置場では。
「きさま!どう言うつもりだ!?」
元ラトゥーミア国王が喚いていた。
元ラトゥーミア王が捕らえられている牢屋の前には、フォーリィの他、ラントゥーナ補佐官、ラトゥール外交担当官、そしてイペブラクオン内政担当が集まっていた。
「どうしたも、こうしたも……あなた達は敗北して、ホーズア王国に捕らえられたのですけど」
冷たい目でそう告げるフォーリィ。
「何をふざけた事を!おーい、誰か!この不埒者を捕らえろ!」
まだ状況を理解していない元ラトゥーミア王。
それを見たフォーリィは小さく溜息をつく。
「あなたは、自分の城……いや、元自分の城の牢屋も知らないんですか?ここはカデン領の留置場です」
それを聞いて、元ラトゥーミア王は顔を真っ赤にして激怒した。
「つくなら、もっとマシな嘘をつけ!王都からカデン領まで何日掛かると思ってるんだ!そうか、あの使節団と一緒に来て、どこかに潜んでいたんだな!」
空を飛ぶ乗り物の存在を知らないのだから、無理もない。
彼はまだ、ここがラトゥーミア王国内だと信じきっていた。
フォーリィは、そんな彼を説得する事を諦め、先ほど通路に設置させたテレビを起動するようにイペブラクオンに命じた。
『ご覧ください。一夜明けて、追加の兵士や物資が竹飛竜で次々とラトゥーミアの王城に運び込まれています』
テレビからはラトゥーミアの王城だった場所の現在のようすが映し出されていた。
「なっ!何だこれはぁぁぁぁぁ!」
元ラトゥーミア王は目を見開いて絶叫した。
そんな彼には目を向けず、フォーリィは魔道音伝器に魔力を流した。
「もしもし。中継をこちらに切り替えて、留置場に入って来て」
フォーリィの指示は現地のスタッフを通じて、レポーターに伝えられた。
『おっと、カデンの領都で動きがあったようです。ではカデン領のホシャロンさん、お願いします』
画面が切り替わり、代わりに現れたのがセミロングの黒髪美少女。ヒューマンのホシャロンだ。
背後にはカデン領都の留置所が映し出されていた。
『はい、こちらカデン領の留置所前です。何やら中で動きがあったようですので、これから突入しようと思います』
彼女はそう言うと、入り口の兵に挨拶をして、留置所の中を進んで行った。
『留置所の中は思ったより明るいですね。みなさん、留置所にお世話になった方は殆どいないと思います。私も初めて入りました』
彼女は更に進んで、その先の鉄格子の扉を開けてもらい、牢屋が並んでいるエリアに入った。
『おっと、ここにフクロウの置物があります。何でもこの置物にイタズラすると呪いがかかると言う噂があります。触らないでおきましょう』
そう言って、フクロウからなるべく離れるように反対側の壁伝いに歩いていくと、その先にフォーリィ達が写したされた。
『みなさん、テレビ初公開。元ラトゥーミア王です』
テレビに映し出された自分の姿に、彼はようやく自分がいる場所と、自分が置かれている立場を理解した。
その途端、彼はガクガクと震えだし、顔からは血の気が引いていく。
「た、頼む!助けてくれ!そ、そうだ!お前を正妻として迎える。どうだ?王女だぞ!」
血走った目で、唾を飛ばしながら懇願する元王に、汚物を見るような目を向けて数歩距離を取るフォーリィ。
そして、そんな彼の姿をホシャロンが楽しそうに見ていた。
『おやあ、この勘違いさんは何を血迷っているんでしょうね』
クスクスと可愛く笑うホシャロン。
それとは対照的に、フォーリィは冷たい目で言った。
『もう、あなたの国は私が武力をもって奪い取ったから、あなたと結婚しても得られる物は何もないの。分かった?』
それを聞いた彼は、絶望しきった顔で、その場に崩れ落ちた。
そして、辛うじて聞き取れる声でつぶやく。
「今までの事は謝る……だから……命だけは……」
そして顔を上げた元王は、フォーリィの顔を見て、ヒィと小さく悲鳴を上げた。
彼女の顔からは表情が完全に消えていたからだ。
そしてフォーリィのその顔に、彼の魂が恐怖に震えた。まるで氷のような冷たい手で心臓を直に掴まれたかのように。
「私が、お兄ちゃんを殺そうとした者を生かしておくとでも思ったの?」
とても人間が発しているとは思えないような冷たい声。
だが、彼女のその声を聞いたのは元ラトゥーミア王だけだった。
今回は少し暗い話になってしまいました。
次回は、元ラトゥーミアの領主達を鎮めるお話です。




